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『えと、井上さん?どうしたの?』

困ったように笑いながら、と言うか引きつった笑いを浮かべながら石田くんが言った。校長先生話長いね、とも言った。今日は月曜日、今は朝礼。

私は中2女子にしては背が高い方だけど同じように石田くんも中2男子にしては背が高い方だから、自然と見上げる形になる。しかも私は目つきが悪い。ただちらりと見ただけで子どもが泣きそうな表情を浮かべるくらいだ。きっと石田くんは睨まれたように感じたんだろう。その通りだとしたら本当に申し訳ない。ただ純粋に見ていただけなのだ。


朝礼はめんどくさくて、凄く暇だ。周りを見渡しても身近な人間がいないから余計に暇だ(私の友人たちは背が低い子ばかりなので離れている)。其処で私は隣に立っていた石田くんに目をつけた。石田くんを観察しよう。そうして石田くんをずっと見ていたら、石田くんに気付かれ、今に至る、と。


『井上、さん?』
「ああ、ごめんね。睨んでるとか、そう言うのはないから」
『そっ、か』

石田くんが安心したように笑う。やっぱり睨まれたと思ってたのね…


「石田くん、てさ」

言いかけた途端に周りがざわざわと騒がしくなる。生徒がぞろぞろと動き出した。朝礼が終わったみたいだ。

「まゆこ、早く教室いこっ」友達が私の方を押したかと思えば出口の方へと歩いてしまった。置いてかれてしまう。でも言いかけたのにそのまま放置はだめだろう。私は石田くんを見た。石田くんはにっこり笑っている。

「石田くん、」
『なに?』
「さっきの話の続き!石田くんてさ、男前な顔してるよね!それが言いたかっただけ!」
『なっ…』

石田くんが目を丸くして固まる。何か変なことを言ったかな…。私はじゃあ教室でね、と言って友達の元へと走った。走る瞬間にちらりと見た石田くんの顔が心なしか赤かった。





無意識の意識




(不意打ちだよ…)
(何故か石田くんを見ちゃう)