朝練終わってホームルームが終わった。教室を飛び出して俺は走っている、屋上まで。か、階段、きっつい!いやサッカー部だぜ!?誇るべき帝国サッカー部のDFだぜ?でも練習後の階段全速力は流石に辛え!ホームルームなんて休憩時間にもなんねぇし!屋上遠いな!…はぁ、何で、俺こんなッ…!あぁもう!あの人のせいだ、あのっ…あの…そう、井上先輩!!俺は先週調べたんだよちゃんと!サッカー部行ったらまず3年生いないって言うし!マネージャーは秋と…えっと、音無…の2人だって言うし!で、で、担任の先生にクラス聞いてクラス行ったら全然見つからないし!すれ違いばっかだし!あの人の友達(らしき人)に聞いたら図書室か屋上いるって言われたから!図書室にはいなかった!今日は、いや、いつも会えてないんだけどな!クラスにも図書室にもいないなら屋上だろ?消去法!

『ほら、いた…!』

……って、寝てんじゃん!え!?まだホームルーム終わったばっかだぜ?……あ、鞄、置いてある……ってまだ教室行ってねぇのかよこの人。『……おーい、』起きない、よなぁ。はぁ……まじダッシュした意味ないじゃん。つっかれたぁ!まじ疲れた!…………にしても美人、だよなぁ。いや、美人より可愛い系?でも笑った時めちゃくちゃ美人だったしなぁ。うわ、超頭動いてる。首折れんじゃねぇの?細いし。

『先輩、せんぱーい、せ、ん、ぱ、い!』
「……ん、」

かくんと一回、頭が大きく振れた。先輩は俯いたまま首を小さく2、3回程振って顏を上げた。

「あ、土門くんだぁ、久し振りだねぇ。チョコ食べる?」

呂律は回っていない、焦点は合わないままの目を細めて笑ってそう言った。やべ、ときめいた。…じゃねぇよ!落ち着けよ俺!

『どうも、…チョコは、遠慮しときます』
「あら、残念。なあに、土門くんも休憩タイム?」
『休憩も何も、先輩ホームルームすら出てないでしょ』
「あ、ばれちゃった?」
『バレバレですよ。……貴方に聞きたいことがあって来たんです』
「…私に?」

黙って頷くと先輩はチョコレートを一つ口に入れてへにゃりと微笑んで促すように地面を叩いた。そのまま其処に座る。

「なぁに、聞きたいことって」
『…俺が、俺が帝国って何で知ってるんですか。何で…何で、スパイって…』
「良いの?いくら屋上とは言え誰か来るかもよ?」
『……!』
「スパイするなら抜かりなく行動しなくちゃ。一言一言にも気をつけないと。話す内容も、場所も」
『…何で、』
「ああ、何で知ってるか、だっけ?」
『……』
「何でも知ってるよ、私は」
『なっ……!』
「ふふ、雷門生の個人データは勿論、他校生の個人データもね。あ、サッカー部だけじゃなくて、全校生徒のこと、大体記憶している」
『な…何で、』
「私、情報収集得意なんだよねぇ、だからつい調べ過ぎちゃうって言うかなんていうか。ああ勿論土門くんが帝国にいた時から分かってたよ」
『何で、スパイって…』
「この前練習試合に来た時にスタメンにもベンチにもいなかったし。ただの転校生なら試合に出したって、ベンチに座らせたって、問題はないでしょう?」
『…あ、』
「それに、尾刈斗戦のとき、見にきてたでしょ?鬼道くん佐久間くんと一緒に」
『…!』
「君が来た時は一か八かで言ってみたんだけどね、この前鬼道くんがこっちに来てたのを見て確信したよ」

何処まで調べてんだよ!観察力はんぱねぇじゃん!俺よりスパイ向いてんじゃねぇの?…じゃねぇ!やべぇよ、ばれたらもう…「ああ、誰にも言うつもりないから安心してよ」…え?

「誰にも言うつもりない、よ」
『何で…、』
「私が言うべきことじゃないし、私が止めるべきことじゃない。そうでしょう?決めるのは、サッカー部や、君だから、ね?」
『……』
「それにあくまで趣味だし!あ、アドレス、交換しない?」

情報、必要でしょう?そう言って先輩はにっこり笑った。侮れない、けどこの人の情報はきっと確実だ。交換しといた方が得策だよ、な。…鬼道さんになんて言えば良いんだよ、俺。

「よし、…あ、そろそろ1時間目始まっちゃう!急ぐよ、土門くん!」
『え、あ…』

手をぎゅっと掴まれた。既に立ち上がっている先輩と座っている俺。先輩はそんなこと一切気にせずに強く引っ張って走り出そうとする。…あっぶねぇ…!バランス崩すとこだった!さすが俺、さすがサッカー部!さすがファンタジスタ!!

「ふふ、大丈夫?」
『なんとか……!』

そっか、と言って先輩は顏を戻した。ドアを開けたら数メートルで階段。……おおッ超こぇえ!スピードぎりぎりじゃん、まじ早ぇえ!人全然いなくて良かった!助かった!

「……っと、私教室こっち!」
『ああ、…』
「ごめんね、疲れた?」
『や…、いちおサッカー部なんでッ』
「ふふふ、そうだよね」

じゃあ、と走り出そうとすると呼び止められた。

「なーんでもないっ!授業頑張って!」そう言って先輩は教室へ入った。きゅん、じゃねえよ、俺のばか。

…あの人、まじで読めねぇ……鬼道さん達の名前も出たってことは本当、なんだよな、多分。






つーか、全然息上がってなかった…何者だよ…

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