「うーん、気持ち良いね」
『そう、ですね』

そう交わしていつもの場所に座る。私はいつもの様にチョコを取り出して口に含んだ。もう一つ取り出して土門くんに差し出すと、どうも、と呟いて受け取り、食べずに包みの両端をつまんでくるくると回していた。


『せんぱ…い』
「…、なあに」

出来るだけ優しい口調で返事をした。彼の顔には困惑や怒りが浮かんでいた。


『俺、総帥の考えが理解できません』
『此処までやる意味、あるんでしょうか』

悲しそうに、悔しそうに俯きながら話している。


『おかしい、ですよね、』

スパイ失格だ、と弱々しくと笑った。さて、やっと私が貴方の力になるときが来たよ、土門くん。…お話しか出来ないけれど。

「土門くん、」

返事の代わりに顔を向けられた。ちょっそんな物憂げな顔で見ないで、どきどきしちゃう。

『せんぱ、』

強く握られている拳を両手で包む。私より大きな土門くんを全て包み込むのは難しい。から、せめて。顔、赤くなってないかな、手、震えてないかな。


「大丈夫、」
『え、』

「彼らなら、いや、」

彼なら、確実に大丈夫。私は知っている。晴れの日も雨の日も雪の日も毎日努力していた彼を。真っ直ぐで、サッカーを愛している彼を。

「土門くん、」

もう一度名前を呼ぶ。土門くんの表情は変わらない。

「土門くん、サッカー、好き?」
『…え、』

一瞬、微かに目が開いた。斜め下を見て数秒、もう一度私の顔を見た。悲しげな笑顔でぽつりと『好き、です』と呟いたのを私は聞き逃さなかった。一瞬どきっとしちゃった。うん、この答えを待ってた。

私は土門くんを見てきた。初めて会ったあの日から、ずっと。だから…だから分かる、土門くんのサッカーに対する気持ちが。きっと彼も、分かってるよ。あんなに楽しそうにサッカーをする人だもん、あんなに真っ直ぐな人だもん。信じてくれる筈。



「だったら大丈夫」

「今君が考えているように行動すれば良い」

それは絶対に正解だから。そう続けると土門くんはまた斜め下を見た。手の力が緩んだ気がした。


『はい』

そう真っ直ぐ私を見て言ったと同時にチャイムが響いた。2人で目を丸くした。時計を見るともう2時間目が始まる時間だった。

2時間目遅刻だね、と笑うとそうですね、と土門くんも笑った。困ったような、辛そうな笑顔ではなく、何処かすっきりとしたような笑顔で。きっと彼の中で決心がついたのだろう。





私は君の救いになれただろうか
(ちょっと不安…だけど)




君なら大丈夫。君なら


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