『おい』
「……」
『おい』
「あ、ああはい。何でしょう」
『何をしている』
「鬼道さんを抱き締めています」
『…間違ってはないが』
「それよりも、」

私年上だよね?と彼女は言った。顔が近い。

『敬語を使え、と』
「使ってくれたらときめく」
『断らせて頂きます』
「ふふ、素直じゃないね」

更に強まる腕の力。

「…鬼道くんの匂いがする」
『なッ…』
「うん、鬼道くんの匂い」
『ちょ、!』

離れろ、と言うと先輩だよ?と言われた。離れてください、と言うと嫌だ、と言われた。結局離れる気はないのか。

『先輩、井上先輩』
「……」
『着替えに行きたいのですが』
「……」

俺はユニフォームのままだった。朝練を終えたばかりではあったが早く着替えなければ遅刻してしまう。……と言うのはあくまで建て前で。俺は井上先輩が好きだ、この状況は心臓に悪い。と言うのが本音であった。どうにかしないといけない。

そもそも、何故俺は今抱き締められているんだ?いきなりだった。ここまで、と言う円堂の声を聞き動きを止め用具を片付けた。ら、井上先輩が後ろから飛びついてきた
。半田や一之瀬がにやにやしながら横切って行ったのを思い出した。くそ。

『先輩』
『離れて下さい』
「い、や」
『遅刻させる気ですか』
「たまには良いじゃない」
『良くないです』

鬼道くんはさ、と先輩が小さく呟いた。

「乙女心を分かってないよ、ね」
『ッ…!乙女、心、ですか、』
「うん」
『何を、いきなり』
「ふふ、」
『何を、笑っ、』

ているのですか、と言おうとしたら頬に柔らかい感触。な、に…?

「ふふ、変な顔。」
『へ、変な、』
「ふふふ、ね、鬼道くん、」
『な、何ですか、?』






好きだよ、





ほら、早く着替えに行かないと遅刻しちゃうよ?
なっ!誰の所為だと…


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