先輩が泣いている。いつも元気で明るくて、少し強気な先輩が。何があったかは分からないし、聞けない。もしも失恋が理由だと言われたら、そう考えるだけでゾッとする。俺は静かに隣に座って先輩の背中をさすった。

「ごめんなさい。帰って良いのよ?鍵なら私がかけるから」
『…っ、いえ。勝手に此処にいるだけですから』
「…そう。なら、もう帰りましょうか。早く鍵をかけなくちゃ」
『気にしないで下さい』
「ううん、そんな訳にはいかない」

そう言って先輩はハンカチでぐい、と涙を拭って立ち上がる。もう一度平気だと伝えても良い、と言って荷物を持って部室から出ようとしてしまった。慌てて荷物を持って着いていく。

「職員室行こう」
『え、俺1人で行きますよ!』
「最後まで残ってたのは私だもん。それとも、一緒に行くの、嫌?」
『そ、そんな訳じゃ…』
「じゃあ行こ」

くすりと笑って先輩は踵を返して進んだ。軽く走って俺も進んだ。職員室に着いても鍵を返したのは先輩で、結局俺は何もしていない。先輩の後ろにいただけだ。

「神童くん、ありが」
『俺は、何も、出来てません、な、何、も、』

思い切って先輩を抱き締めた。謝罪や、慰めの言葉を出したかったが嗚咽から上手く出せない。胸の中の先輩がまたくすりと笑った。

「貴方が謝る理由も分からないし、慰めてくれる筈の貴方が泣いてしまってはだめじゃない?」
『…すい、ま、せ、』
「でも有り難う、元気出た。もう全然平気!」

優しく笑いながら、先輩が俺の頬に口づけた。嬉しそうに動く心臓とは裏腹に俺は小さく肩を落とした。

「ごめんなさい。嫌だった?」
『…!っち、違うんです!俺が先輩に元気をあげるつもりだったのに…』





これではダメだ、





俺が元気を貰ってしまった…
(『違うんです!』って、自惚れても良いのかな?)


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