Happy Halloween!
 喜助と円卓を挟む。特に何かする訳でもなく、ぼんやりと夕方のニュースを眺めていた。今年もこの日はお祭り騒ぎのようで、その話題で持ちきりだ。

 インドアな自分たちには無関係なはずなのに、「ああ、残念です」と喜助が呟いた。行きたかったんですか、となまえが聞くより先に彼は続けた。

「お菓子ならいっぱいあるんで残念ながら悪戯とは縁遠いっスねぇ……なまえサンにイタズラされたいのは山々なんスけどねぇ……」

 急に何を言い出すのかと思えば、──。

「そもそもトリックもトリートも言ってないんですけどね、私」
「ならボクに何かくださいよ」
「廊下奥の在庫から持ってきていいなら」
「いやそれウチのですし。……おやぁ、もしかして持ってないっスか?」

 ニタニタと厭な笑みを浮かべる男は、最初からこの展開を狙っていたのだろう。そうに違いない。焦燥に駆られた私は、廊下へ向かって声を荒げた。

「……う、ウルルちゃーん! お菓子持ってるー!?」
「ウルルたちはテッサイと近所を回ってますよん」

 ──まずい、失敗した。
 なまえが卓へ体を向き直した途端、

「ないのなら、代わりにコレで、──」

 円卓から身を乗り出す彼のイタズラ。
 上唇への優しい甘噛みは、どんなお菓子よりも蕩けてしまう気がした。


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