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 Q.あなたは一目惚れを信じますか?

 もし何かのテストやアンケートにそんな質問があったとしたら、柔造は少しだけ考えてからこう書いたはずだ。

 A.ないとは言わないけれど、自分はしないと思う。


 愛のカタチは人それぞれだ。
 何年間も付き合っていたのにちょっとしたことでうまくいかなくなる人だっているだろうし、一目で運命を感じてそのままうまくやっていける人もいる。
 多くの人がいて、その数だけ恋があるなら、一目惚れがあってもおかしくはない。
 けれど生まれてから25年、柔造は一目惚れをしたことがなかった。好きだと言ってくれる女性もいたし、それなりに付き合った経験もある。街行く女性にタイプだと思うことはあっても、それでも一目惚れだけはしたことがなかった。
 2人いる弟たちは揃って恋多き男で、彼らの一目惚れをした話もしょっちゅう聞いていた。だから自分は一目惚れをするタイプではないのだと思い込んでいたのだ。
 彼女に会うまでは。



 彼女と出会ったのは、柔造が仕事で東京の正十字騎士団へ行ったときだった。
 その仕事というのはもちろん悪魔祓いだ。ランクの高い悪魔を相手にするには、それなりの人数と準備が必要になる。万年人手不足である祓魔師の数を集めるために地方から少人数ずつ召集されることもしばしばあることで、京都出張所から派遣されたのが柔造だった。
 京都から東京まで新幹線で2時間と少し。正十字騎士団へ行くのも初めてではないので楽な道のりだ。逗留中は旧男子寮の空部屋に泊まることになり、部屋に荷物を置いて対策本部へ。
 場所だけ教えてもらえれば分かるからと案内を断ったのは、懐かしい学舎をそっと見て回りたかったからだ。ほんの数年の在学期間だったが、高校生という多感な時期に過ごした場所はやはり思い入れがある。旧男子寮だって、柔造が在学していた10年前はまだまだ現役だったのに、こんなに古めかしい建物だったろうかと不思議に思った。
 懐かしい学舎に少しだけ感傷的になっていたからだろうか。たどり着いた対策本部で彼女に会ったとき、どうしようもなく胸が高鳴った。

「中二級祓魔師の奥村雪緒です。よろしくお願いします」

 にっこりと、けれど淡く微笑んだ雪緒は 作り物のように美しくかった。
 白磁のような肌につやつやと輝く黒髪が澄んだ湖のような碧眼を引き立てている。女性にしては高い身長もスラリとした体型も、凛とした美しさを演出していて、柔造は挨拶も言葉も忘れ思わず叫んだ。

「めっちゃ美人やん!」
「……ありがとうございます」

 わざとらしい作り笑いを浮かべる雪緒を見て、言われ慣れているのだなと思った。けれど、少しだけ蒸気した頬があしらい慣れていないことを伝え、なんともかわいらしい。ぼんやりとその笑顔に見入っていた柔造は、自分が未だに名乗っていないことを思い出した。

「俺は京都出張所から来た、上二級祓魔師の志摩柔造や。よろしゅう頼みます」

 慌てて言ったせいで妙な言葉使いになってしまった。先ほどの失言に近い発言にしても、どうも格好がつかない。悔しいやら情けないやらで内心歯噛みするが、そんなのは顔に出さない。

「実は会うの楽しみだったんです」
「え?」
「志摩くん……、廉造くんのお兄さんが来るって聞いてどんな人か気になってたので」

 そっくりだから直ぐに分かりました。ふわりと無邪気に笑う雪緒は可愛い。でもどうして廉造を知っているのだろうか。戸惑う柔造に気づいた雪緒が首を傾げた。

「どうかしましたか?」
「廉造と知り合いなんですか?」
「あれ、志摩くんから聞いてませんか?」

 柔造が頷くと雪緒は慌てた様子で説明を始めた。

「僕、祓魔塾で悪魔薬学の講師もしてるんです、だから志摩くんは僕の生徒の1人で。双子の兄も祓魔塾にいて志摩くんには仲良くしてもらってるんです。志摩くんが話してると思ったから、てっきり知ってるものだと思い込んでました。すいません」
「えーと、つまり廉造の塾の先生ってことですか?」
「はい」
「それはそれは、廉造がいつもお世話になってます。あいつ阿呆やけどセンスはあると思うんでよろしくお願いします」
「あ、いえ! こちらこそ兄がいつもお世話になってますから……」

 互いに頭を下げあい、ふと目があった瞬間、どうしようもなくおかしくなった。2人同時に声をあげて笑う。一頻り笑って落ち着いてきた頃に口を開いた。

「あー、おかし」
「本当に。ふふ、よろしくお願いしますね志摩さん」
「柔造でええですよ」
「でも、」
「兄弟多いから志摩って呼ばれなれてへんのですわ。だから名前で呼んだってください」
「……じゃあ柔造さんで」

 そうしてはにかむ雪緒に、また胸が高鳴った。
 しかしそこ疑問が1つ。雪緒の双子の兄が廉造と仲良くしている、ということは雪緒は一体いくつなのだろうか。

「あー、奥村さん。ちょっと聞いてもええですか?」
「はい、何ですか?」
「女の子に聞くのは悪いと思うんやけど、いくつなんですか?」
「? 15歳ですよ」

 気まずげに聞いた柔造にきょとんと首を傾げた雪緒は事も無げに年齢を口にする。女性に年齢を聞くのは失礼だと言われているから遠慮がちになったのだが、若いうちはあまり気にしないものだろうか。男の柔造には分からない。分からないが。それを聞いてやっぱりなぁ、と少しだけ残念に思ったのはちょっとした下心。
 若いとは思っていたが、まさか10(とお)も離れているとは思わなかった。学生時代の同年代の男女を比べれば女の子の方がませているものだけれど、それにしても雪緒は大人びている。
 15歳にして祓魔師と塾講師を務めているのだから頭はいいのだろうが、仕種や言葉使いは高校生には見えない。子供らしさを感じるのは顔に残る幼さくらいだ。

「でもまぁ10やったらセーフやんな。いや、高校生に手ぇ出す方が問題か」
「柔造さん? どうかしましたか?」
「いや、こっちの話ですから気にせんといてください」
「そうですか。変な柔造さん」

 くすり、と笑う雪緒を見て仕方ないと諦めた。一目惚れなのだから仕方ない。一目惚れをするのもこんなに年の差がある子を好きになるのも初めてだから仕方ない。

「もうすぐ会議が始まります、皆さん席に着いてください!」
「行きましょうか?」

 声に促され歩き出した雪緒は、先ほどまでころころと鈴を転がすように笑っていた少女とは思えないほど真っ直ぐに凛としている。甘さのなくなった横顔も綺麗だ、と現金な思考に苦笑しながら彼女の後を追った。


だって仕方ない




* * * * *
柔にょた雪。年の差に悩む柔造さんとか、一目惚れする柔造さんとか、余裕のない柔造さんとか可愛いと思います。雪緒ちゃんは何もしなくても可愛いと思います。身長はきっと燐と同じくらいです。可愛いです。続くといいなぁ。続かないと思うなぁ。

2011/09/30

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