drrr!! | ナノ

相互記念です。
大好きなちはね様に捧げます。
リクエストは『臨也と静雄で帝人を殺し合いに近い取り合い、勝者は静雄』ということでした。希望に沿えているといいのですが…。
という訳で、この小説には暴力表現と流血表現があります。大丈夫な方のみどうぞ。





 穏やかな昼下がり。暖かな日差しに頬を撫でる風が心地好い。
 子供たちが道路を走り抜け、犬と散歩をしている大人が笑う。ベンチにはお年寄りが腰掛け、鳩に餌をやっていた。
 そんな平和を具体化したような池袋で、2人の青年が睨み合っていた。
 人気のないその道に妙な緊張感が走る。
「臭ぇと思ったら手前か、臨也よぉ」
「シズちゃんこそ獣臭いよ。本当に人間なの?」
 たった一言ずつ発しただけでその場の空気が凍りつく。異様なのは、お互いに笑みを浮かべていることだろう。笑顔の質こそ違うが、双方とも目だけは笑ってない。
「ところでさぁ、こんなところで何してるの」
「その言葉、そっくりそのまま手前に返す」
「嫌だなぁ。今質問してるのは俺なのに。とうとう日本語も話せなくなったのかな?」
 黒髪の青年、臨也が放った言葉に青筋を立てる金髪の青年、静雄。
 いつもの軽口を叩きつつ、臨也は淡々と言葉を紡ぐ。その顔には未だうっすらとした笑みが張り付けられている。
 一方の静雄は怒りを抑えながら、これまた凶悪なまでに笑っていた。背筋が凍るほどでは済まないような凄みだ。
「こっちには帝人君の家しかないと思うんだけど」
「はっ、よく分かってんじゃねぇか」
「ふーん、そういうことか。……気に入らないなぁ」
「あ?」
 突如臨也の表情がなくなり、声も小さく低く聞き取りにくいものになる。
 臨也は袖に仕込んであったナイフを素早く手中に収める。キラリと陽光が反射した。
「帝人君は俺のだよ? 勝手に手を出さないでくれる?」
「アイツは手前の物じゃねぇだろうが。勘違いしんてんじゃねぇよ」
 辛うじて聞き取った臨也の言葉は、静雄をキレさせるには十分なものだった。
 静雄はサングラスを胸ポケットへしまうと隣にあった自販機に手にかけ、筋力に任せて持ち上げる。
「そろそろはっきりさせようか」
「上等だぁ、絶対ぇ殺す」
「シズちゃんを殺して、帝人君を自分の物にできるなんて、なんて今日は幸せなんだろう!」
「変わった遺言だな、死ねっ」
 言い終わらない内に自販機が宙を舞う。それと同時に静雄は走り出し、臨也との距離を詰める。途中あった一方通行の標識を片手で引っこ抜いた。
 投げられた自販機は臨也に軽く避けられ、突き当たりの壁に激突した。それを一部始終見届けた臨也は、近づく静雄に向き直り忌々しげに呟く。
「自販機が一直線に飛んで来るってあり得ないよね」
 すかさず静雄の第二撃が臨也の頭目掛け振り落とされた。辛うじてそれを避けた臨也は体勢を立て直し、ナイフを静雄の腹へと突き立てるが、経験上致命的なダメージを与えられないことを知っている。実際、ナイフは筋肉の壁を突き破ることなく止まっていた。臨也は舌打ちをし、ならば少しでも傷を与えようとナイフを横へ滑らせる。
 けれど静雄はけろりとした様子で、自分の状況を把握しようとしている。
「手前、俺の服……!」
 自分の身に起こったことを理解した静雄の瞳孔が開いた。
 至近距離で静雄の攻撃をもろに喰らっては臨也とて無事では済まない。それを分かっているから臨也は後ろへ跳躍することで静雄と距離を取る。
 しかし、静雄が少し速かった。地面にめり込んでしまった標識を、力任せに臨也の顔へと振り上げたのだ。クリーンヒットこそしなかったものの、臨也のこめかみから目の下まで5センチほど切り裂いた。
 距離を置き2人は睨み合う。
「男前が上がったじゃねぇかぁ」
「シズちゃんもなかなかセクシーだよ?」
 ぽたり、赤い滴が地面に落ちる。臨也のこめかみから流れ顎を伝って落ちたのか、それとも静雄の腹部から白いシャツに染み込めきれず溢れたのか。あるいは両方かもしれない。
──次で仕留める。
 2人は息を整えながら、相手の隙を狙う。しかしどちらも喧嘩慣れしているだけあり、なかなか隙をつけず膠着状態が続く。
 突如静雄が動いた。
──とりあえず殴る。
 静雄の喧嘩は至ってシンプルだ。元々喧嘩に作戦を持ち込むタイプではない。殴り、蹴りあげ、投げるだけ。
 静雄は臨也に殴りかかった。
「はは、シズちゃんらしいね。そうこなくっちゃ」
 ナイフを構えふらりと立ったまま臨也は笑い、静雄を迎え撃つ。
 静雄がストレートに殴りかかれば臨也はそれを避け懐に潜り、首を狙ってナイフを走らせる。伸びた腕を払いのけナイフをかわした静雄は右足で踏ん張り身を翻す。
 臨也は身軽な動きで近づき、攻撃しては離れる。静雄は驚異的な身体能力でそれをかわし、攻撃を入れる。
 臨也が逃げないことで珍しく攻防が続いたが、なかなか決定打が決まらない。
 双方とも至るところから血が出ていた。
 小さな路地で行われているこの非日常に、誰が気付いているだろうか。本当に池袋かと思うほどに静かだ。それ故に、彼らから作り出される音だけが重く響いている。
 けれど非日常には、終わりがある。日常に戻るその瞬間は、唐突にやって来た。
 臨也が足元をふらつかせた瞬間に、静雄のパンチが腹へ決まり民家の壁に飛ばされたのだ。臨也から呻き声があがり、口から血が流れる。
 音を立ててその場へ崩れ落ちた臨也の元に静雄が近寄り、声を掛けた。
「……手前の負けだ」
「今日のところは、ね」
 げほげほと咳き込みながらも立ち上がり、笑う臨也。静雄は眉間にシワを寄せながらも踵を返し、外していたサングラスを掛ける。
「いつでも返り討ちにしてやるよ」
 静雄はそれだけを告げて、本来の目的である帝人の元へ足を進めた。
 離れていく静雄の背中を見つめながら、臨也は呟いた。
「あーあ、シズちゃんは甘いよね。帝人君のためとはいえ、邪魔者は殺れる時に殺るべきだよ。……じゃないとこの先どうなるか分からないのにね」
 未だにこめかみから流れ続ける血を袖で拭って笑う。
「血が足りないなぁ。まさか貧血になるなんて考えてなかったよ。お医者さんに診てもらわないと、ね」
 臨也はふらふらと歩き出し、その場を後にした。


 静雄は自分が今どういう姿なのか気にも留めず、帝人の家へ歩き続ける。
 時折すれ違う人々が静雄の姿にぎょっと目を見開くが、それが静雄なだけに気にしながらも何も言わない。
──帝人ん家に絆創膏あるかな。
 静雄は絆創膏よりも大きい切り傷がじくりと痛む度に思う。
 心配をかけるのは心苦しいが、それでも帝人が怪我の手当てをしてくれるのは素直に嬉しいのだ。
 臨也を殴れたこともあって機嫌が良い静雄は、鼻歌を歌いながら歩き続けた。



譲れないものだから

(命を賭して、全てを賭けて)
(君だけは、アイツにだけは)


オマケ

「いらっしゃ……」
「よぉ」
「し、静雄さん?! どうしたんですか、その怪我!」
「来る途中ノミ蟲がいたから、ちょっとその駆除をな」
「……、とりあえず手当てしないと! 早く上がって下さい!」
「おう、悪ぃな」
「悪いと思うなら控えて下さいよ」
「……」
「分かってます。無理なんですよね。でもせめて怪我はしないで下さい」
「帝人……」
「僕、静雄さんが傷つく姿は見たくないんです」
「……善処する」
「はい、お願いします」

「帝人、好きだ」
「僕もです」




終わった…!
あまりにも本編が殺伐としてたのでオマケつけました。こんなでごめんなさい。


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