幸せを閉じ込めるように

 意識が覚醒する。それと同時に視界に入ったのは、白い髪と端正な顔。何度見ても、整った顔だと思う。
 骸はそっと、伏せられた睫毛に触れた。

 同じ家に住んで、同じ部屋でご飯を食べて、同じベッドで眠りにつく。そうして何度も一緒に朝を迎えて、夜を過ごして、また新しい朝を共に迎える。
 そんな幸せを噛みしめるのは、こうやって安らかに眠る白蘭の寝顔を眺めるときだ。

 いつも決まって、先に目覚めるのは骸の方だった。
 カーテンの隙間からもれる太陽の光で目が覚めて、少し明るくなった部屋の、白いシーツにくるまって眠る白蘭に視線を落としては、あぁ、自分は幸せなのだろうと感じるのだ。

 一度眠るとなかなか起きない白蘭は、睫毛を辿っても、髪を梳いても、頬を撫でても、起きることはない。
 それをいいことに、毎日のように観察しては感触を確かめている。

 普段素直になれないからせめて、なんて、笑ってしまうけれど。

 骸は目を細めて、晒されている白蘭の鎖骨辺りに触れた。首筋を辿って、布団から出ている男性にしては細めの指に自らのそれを滑らせる。
 形のいい指を見ると、どうしても自分に触る時の優しい手つきを思い出してしまう。

 骸くん、骸くん、

 そう呼びながら髪に指を差し入れて、髪を梳くように撫で、耳を擽って、目尻に溜まった涙を優しく拭う。
 余すところ無く、全身で好きだと言われているように愛でられることは恥ずかしくもあり、泣きたくなるほどに胸が苦しくなるのだ。



「……んー……」

 ピクリと瞼が動き、うっすらとアメジストの瞳が開かれる。
 起こしてしまったようだと、触れていた手を慌てて引っ込めようとしたが、ゆっくり向かってきた手に絡め取られてしまい、それは叶わなかった。

「あ……」

 この状況を、どうしろと言うのか。
 為すすべもなく固まっていると、白蘭は小さく微笑んだ。

「むくろくん、も、一緒に……」
「は? ちょ、…!」

 寝よう?
 声はとても小さくて、最後の言葉は聞き取れないほどだった。
 けれど、その寝ぼけたような声と共に胸の中に抱きしめられてしまい、ただ目を見開くしかなかった。

 すでに頭上からは規則正しい寝息が聞こえてきて、骸は仕方なく目を瞑る。

 たまには一緒に、ゆっくりするのもいいかもしれない。
 白蘭の心音を聞きながら、再びまどろみの中へと身を任せた。


(2013/03/03)


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