※高校生 骸がバイ 曖昧 誰も居ない屋上に座って空を眺めていた。ここには誰も立ち寄らないので、サボるには絶好の場所だ。フェンスに背を預けて、何をする訳でもなく、ただ視線だけを上に向ける。 グラウンドではどこかのクラスが体育の授業をしているらしい。聞こえて来る声を遠くに聞きながら目を閉じる。このまま授業が終わるまで眠ってしまおう。意識を手放そうとした瞬間だった。 「骸クン」 頭上から聞き覚えのある声が聞こえ、意識が覚醒した。今正に寝ようとしていた瞬間に声を掛けられた為若干不機嫌になりつつ、声のする方をゆっくり見やる。顔など見なくても分かってはいたが、改めて自身の目で捕らえた人物はやはり予想通り、真っ白な出で立ちで至極楽しそうな笑みを浮かべて立っていた。 「……何か用ですか」 不機嫌な様子を微塵も隠さずにそう問えば、白蘭は一層笑みを深くして横に腰を下ろした。座っていいとは言っていないが、そんな事はこの男に言うだけ無駄だと言うことは承知している。寝るのは諦めるしか無さそうだと思った。 「教室に骸クン居なくてつまんないから、抜けてきた」 「単位取れませんよ」 「骸クンに言われたくないなあ」 そう言って笑う白蘭は決して馬鹿ではない。寧ろ定期考査では毎回上位だった筈だ。授業をサボるぐらい何て事はないのだろう。それでも、昼寝の邪魔をされたのだからこれぐらいの嫌味は目を瞑ってほしい。 白蘭とは友達ではない。ただのクラスメートで、たまに喋るぐらいの薄い関係。自分から声を掛ける事はない為、向こうが話しかけてこない限り接点はない。いつも沢山の人間に囲まれている白蘭の事はあまり好きではないし、どちらかと言うと関わりたくないタイプの人間だ。 最近喋る事が多くなって分かった事は、多分、この男も人間があまり好きではないのだろうと言うこと。僕はあまり人間が好きではない。所詮上辺だけの付き合いで、大人数で群れを作る。酷く滑稽だと思う。馬鹿馬鹿しい、とも。 例えば、だ。告白してくる女が居ると過程したとして、今まで一度も話した事がないのに、自分のどこを好きになったのかと聞けば、「全部」と言う。これは実際に確かめた事だが、自分の何を知って全部と言うのか、と思った。何も知らないくせに。 所詮、心から分かり合える人間を見つけるなど、無謀な事なのだ。はっきりとした関係は望まない。友達、恋人、それぞれのカテゴリーに分けるのは面倒くさいし、無駄だと思うからだ。 だから僕は曖昧な関係を望む。友達でも恋人でもない。それは例えば、ただセックスをするだけの相手だったりする訳だが。それが女でも男でもあまり気にならない。男を抱く気にはなれないけれど。 これを白蘭に話したら歪んでいると言われた。そうかもしれない。でも実際、欲を満たすだけならば相手は誰でもいいのだ。別に。 ふとポケットに入っている携帯が振動した。メールを開くと、今から大丈夫かという誘いのメールだった。相手は男、過去に一度関係を持ったような気がする。メールの相手の顔は思い出せないが、会ってもきっと思い出せないのだろう。 大丈夫だという旨の返信を送り立ち上がる。白蘭には目を向けなかった。少しだけ、後ろめたい気持ちがあったから。 「ねえ」 「……何ですか」 振り返らずに小さく返事をすると、突然腕を掴まれた。離そうと試みても、意外にも強い力で掴まれていてふりほどけない。 「どこいくの?」 「あなたには関係ないでしょう」 「セックスしにいくんでしょ?」 だから何だ、と言ってやりたかった。分かっているならなぜ引き止めるのか。文句を言ってやろうと振り返ると、いつも笑っている目は少しも笑っておらず、今まで見たこともないような真剣な表情をしていて思わず口を噤んだ。 「相手は女?それとも、男?」 「どちらでもいいでしょう」 「骸クンは好きでもない人とセックス出来ちゃうんだ」 「……」 「男に抱かれるって、どんな感じ?」 「別に」 「骸クン、」 「いい加減離して下さい」 「僕でも出来る?」 そう言って笑う白蘭を僕は無表情で見つめた。あまりにびっくりして声も出なかったのが本音だけれど。 「……まあ、無理ではないですけど」 「じゃあしようよ」 「本気で言ってます?」 「当たり前じゃん」 前から興味あったんだよね、骸クンに。どんな顔して抱かれるのかなーって。 面白がっているとしか思えない。でもいいかもしれないと思った。顔も思い出せないような相手に抱かれるよりは、目の前の男とするのも悪くないような気がする。 「いいですよ」 「……マジ?」 「そちらから言ってきたんでしょう」 少し呆れながら、伸びてくる腕の中にすっぽりと収まってやる。自分より少し広い胸板に体重を預けると、何とも言えない安心感があった。 このまま抱かれてしまったらいけない気がする。後戻りが出来なくなる気がする。自分は曖昧な関係のままでいたいのに。そう頭では分かっていても、ゆっくりと近づいてくる唇を、避ける事が出来なかった。 (2010/12/11) back main ×
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