二人ともサラリーマン 相乗りしませんか? 毎朝6時に起床。朝食を取り、身支度を整えて家を出るのが7時。徒歩5分ほどの距離にある駅から7時10分の電車に乗って仕事場へ向かう。8時から仕事を開始して、12時からは昼休み。午後の仕事をこなして8時半から9時頃に帰宅する。 毎日繰り返す同じ動作を狂わされるのは大嫌いだ。 いつだって自分の中の最高のプランで行動したいし、何より無駄な動作をしたくない。 時間にルーズだったり、分刻みのプランを乱したり、とにかく自分の邪魔をする奴は本当に嫌いなのだ。 「骸クン今日こそ一緒にお昼食べよう!」 「嫌ですよ、疲れそうだ」 そう例えばこんなふうに。 1分、2分、こうしている間にも貴重な昼休みは刻々と削られていく。 本当に勘弁してほしい。 この男、白蘭は入社当時からやたらと絡んできてはペースを乱す、出来れば関わりたくないタイプの人間だ。 初めて話した時からあまり好かないというカテゴリーに分類し、自分からはなるべく声を掛けないようにしていたにも関わらず、白蘭は毎日毎日一緒にお昼を食べないかと誘ってくる。 何度断ってもしつこく話し掛けて来るが、未だに一度も共に食事を取った事はないし、これからも有り得ない。 自分と合わないタイプの人間と話すのは疲れる。 話していたせいで削られてしまった貴重な昼休みを有意義に過ごすため、今日は何を食べようかと思案しながら白蘭の横を通り過ぎた。 ツレないなぁ、という白蘭の呟きは聞こえないふりをして。 * 「最悪だ……」 今日も何時も通り6時に起床し、7時10分の電車に乗る為に駅まで歩いてきた。 しかし電車は来なかった。どうやら人身事故があったらしく、電車が遅れているようだ。 どうする事も出来ないでいる雑踏に紛れて早20分。 勘弁してくれ、本当に。 普段この時間なら電車に乗り込んで丁度2駅目を通過した辺りだ。 このままいつ来るかも分からない電車を待って仕事に遅刻するなんて冗談じゃない。自殺するなら他の線でやってくれ、と少しズレた事を考えながら踵を返す。 確かタクシーがあった筈だ、と乗り場まで急いだ。 予想はしていたが、タクシー乗り場は混雑していた。 骸は小さく舌打ちをし、仕方なく列の最後尾に並んだ。 この込み具合だと、電車を待ってもタクシーを待っても結局仕事には間に合わないかもしれない。今まで無遅刻無欠勤だったのに、と出そうになった溜息を飲み込んで大人しく順番が来るのを待った。 「あれ、骸クンじゃん」 突然名前を呼ばれ、驚きながら声のするほうへ目をやると、そこには今まさにタクシーに乗り込もうとしている白蘭がいた。 「骸クンもこの時間だったんだね。人身事故だっけ? 参っちゃうよねー」 「そちらこそ、何時もはこの時間には見ませんけど」 「今日はたまたまだよ。骸クンもタクシー待ってるの?」 「ええまあ」 短く答えれば白蘭は、ふーん、などと言いながら含み笑いを浮かべている。 その動作に若干の嫌な予感を感じ取りつつも視線を逸らす。 やはり苦手だ、この男は。早く行けばいいのに。 そんなことを考えていると再び声をかけられ、満面の笑みでこう告げられた。 「ねえ、今日のお昼一緒に食べてくれるなら、このタクシーに乗せてあげてもいいよ」 その提案に眉をしかめながら即座に口を開く。 「いえ、結構です。貴方と食事など、一気に疲労が溜まりそうだ」 「でも遅刻したら困るの骸クンでしょ? まだタクシーに乗るまで大分かかると思うけど」 「だったら走っていきます!」 「いや無理でしょ。骸クン体力なさそうだし」 「失礼ですね」 語尾に力を入れて叫んだが、確かに白蘭の言う通りだ。 この駅から会社までは電車で25分。走ったら確実に間に合わない。 だが、この男と相乗りしていく上に共に食事を取るなど、考えただけで頭が痛くなりそうだ。自分のペースを乱されるのが目に見えている。 しかしそれと同じくらい、仕事に遅れるのは嫌だった。 「乗ってけば?」 再度そう言われ、骸は今度こそ溜息を吐いた。 「とても不本意ですが、僕の無遅刻無欠席と一日の計画の修正の為に仕方なく……本当に仕方なく! 相乗りしてあげますよ」 「何か物凄く偉そうだね! 乗せてあげるの僕なんだけど!」 不満を口にしている白蘭を尻目に並んでいた列から外れ、早々とタクシーへ乗り込んだ。 こうなったらとことん利用してやろうじゃないか。タクシー代も全部あの男に払わせてやろう。 別に一回食事を共にするくらいなんて事ない。せいぜい胃か頭が痛くなるだけだ。 いくらプラスに考えても全く楽しい昼休みは想像できないが、今は会社までの数十分、白蘭から振られるであろう会話をどう切り抜けるかだけを考えることにして、自分たちの会話が終わるのを律儀に待っていた運転手に目的地の場所を告げた。 「もー骸クンは素直じゃないなあ、本当は一緒に食べたいくせにー」 「そんな訳あるか!」 とりあえず、ふざけた事を口にしている白蘭を懇親の力で殴っておいた。 2011/04/01 back main ×
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