03.



 沢田家は広かった。それはもう廊下を走れるんじゃないかと言うぐらいの広さだ。別に走る気は更々ないが。

 リボーンと分かれた後綱吉と一緒に家に入ると早々に個室の鍵を渡された。説明もそこそこに部屋まで案内され、詳しいことは夜に、と言われて放置された。
 何というか、どうしても適当な気がしてならない。勝手な予想だがリボーンも綱吉も、なるようになるぜと言って笑い飛ばしてしまうような奴だと見た。

 骸にあてがわれた部屋は階段を上って左側の奥から二番目の部屋だ。内装は至ってシンプルな家具が置いてあるのみ。ベッド、机、エアコン、それ以外にほしいものが有れば自分で置くようにとの事らしい。最初の希望通り窓から差し込む太陽の日差しは暖かく、日当たりは良好だ。まあここで暮らすのも悪くはないだろうと考えながら、持ってきた荷物を片付けていると、突然ドアが開く音がした。
 綱吉が何か伝え忘れたのかと思い振り向くと、そこには真っ白な男が目を見開いて立っていた。目を見開きたいのはこっちだ。

「……骸君?」
「…………どうしてあなたが……」
「いや、それ僕の台詞なんだけど……」

 男の名を白蘭という。駅前のケーキ屋でバイトをしている大学生で、ことあるごとにちょっかいを掛けてくる迷惑な店員だ。初対面にもかかわらず「君何て名前? 美人さんだね! 僕と付き合ってくれない?」などと言い放った非常識な変態男である。

「……今日からここでお世話になることになりました。不本意ながら……」
「え、まじ?」
「物凄く嫌な予感しかしないんですけど、あなた何でこんな所に居るんですか?」
「いや、何でって……」

 頼むから否定してくれと心の中で呟いてはみたものの、本当は全て理解しているのだ。ただ少しぐらいの現実逃避は許してほしい。

「僕もここに住んでるんだけど」
「…………やっぱり他の物件を……」
「ちょっと待って!」
「は? ちょっ、」

 半ば放心しながらもやはりこんな家では暮らせないと何とか立ち上がると、入り口付近に立っていた白蘭が腕を掴んできた。

「離してください!」
「えー、せっかく骸君と一緒に居られるのに離すわけないじゃん」
「あなたが居ると分かっていたら入居なんてしませんでしたよ!」

 駅前のケーキ屋でバイトしている、という情報を聞いた時にもっと疑えば良かったのだ。己の軽率さに腹が立つ。

「つれないなあー」
「と言うか、早く腕を離せ!」

 いまだに掴まれたままの腕が、そろそろ限界を迎えそうである。
 白蘭と一つ屋根の下なんて、考えただけでも先が思いやられる。

「てか骸君って何歳なの? タメ?」
「高2です。貴方、17歳には到底見えませんが?」
「は!? まじで? 骸君落ち着きすぎでしょ。絶対同い年だと思ったのに」
「貴方いくつなんですか?」
「21」
「失礼ですね!」

 確かに実年齢よりも落ち着いているとか、大人っぽいとか言われることは多々あるが、いざ間違えられると気分のいいものではない。

「おいお前らどうしたんだよ、大声なんか出して。下まで筒抜けだぞー」

 眉をしかめながら階段を上ってきた綱吉が扉の隙間から顔を出す。

「いきなりケンカとかやめてくれよ」
「違うよ綱吉クン! 今僕は運命的な再開をしたところなんだ!」
「はいはい。骸、変なことされなかった?」
「今まさに腕を掴まれているんですけどね」

 なんというか、もうこの状況についていくのが面倒になってきた。

「綱吉クンに話したことあったよね!? 僕のバイト先に来る超美人な子の話! あれ骸君なんだよね! まさか入居するなんて、これ運命としか言いようがないよね!」
「え、あれ女の子の話じゃなったのかよ……」

 綱吉は苦笑しながら白蘭を見る。
 あまりにも嬉しそうにしているので、それ以上突っ込むのはやめた。女の子云々は自分が言えたことではないのだから。

「とりあえず二人とも下においで。雲雀さんがお茶煎れてくれてるから」

 新たに出てきた名前を聞いて、今度は普通の人であってくれと祈りながら、白蘭に腕を引かれたまま階段を下りた。




 


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