※同棲中サエ石 「清純、これ……どういうこと?」 一枚のシャツを手に、こーちゃんが俺に詰め寄ってくる。たった一言に込められた強い怒り――俺は、後ずさるしかない。 こーちゃんの怒り方は、一番恐怖感を煽るタイプのものだった。静かに、瞳に変な優しさを浮かべながら――でも、怒りはひしひしと伝わってくる感じの。 初めて怒られたのは……ああ、俺が女の子と二人でいるところを目撃されたとき、だったっけ? 久々に会った中学時代の同級生だったんだけど、こーちゃんは俺のことすごく疑って、なかなか許してくれなかった。一生懸命訴えて、最終的にはこーちゃんを強く抱き締めて――それで、ようやく誤解はとけたんだけど。 「前、浮気はしてないって言ってたよね? もしかして、俺じゃ足りなくなっちゃったとか?」 「や、やだなぁ……そんなこと、ある訳ないでしょ? 俺にはこーちゃんだけで――」 「なら、これは何なのか……説明、してくれるんだよな」 目の前に広げられた、つい先程まで俺が着ていたシャツ。帰宅してすぐ、こーちゃんに剥ぎ取られたものだ。つまりは俺、今上に何も着てないって状態。 「何で胸元に、こんな痕がつくのかな? 普通に会話する程度なら、絶対ありえないと思うんだけど」 こーちゃんの長い綺麗な指が、シャツのポケット横にある紅の縁をなぞる。勿論そんなものがついてしまったのには訳があるのだが、説明の仕方次第ではこーちゃんの怒りが爆発しかねない。そんなの嫌だから、俺は慎重に言葉を選んで紡いでいく。 「だ、から……その、酔っぱらってた女の子が、俺にぶつかっちゃっ――」 「言い訳しろなんて言ってないだろ。どういうことか説明してって言ってるんだ」 まただ。またこーちゃんは、聞く耳を持ってくれていない。 静かに怒るタイプのこーちゃんは、同時に逆鱗に触れると周りが見えなくなってしまうタイプでもある。だからいつも、事実を述べることには何の意味もない――今だって、そうだ。 「清純が俺に飽きたって言うなら、こんなことしないで直接言ってもらいたかったな。こういうのが一番傷付くって、清純にはわからないの?」 傷付けたくなんかない。こーちゃんのことは誰よりも愛してるし、俺と幸せになってほしい。例えこーちゃんが、勝手に勘違いして傷付いているのだとしても――傷付いていることに、変わりはない。そうさせているのが、俺だということも。 「…こーちゃん、」 「言い訳はいらないって言った筈だ。これ以上するって言うなら――」 「こーちゃん!」 声を張り上げ、こーちゃんに抱きつく。それからぎゅっとした俺にこーちゃんがはっとするのは、こーちゃんが怒ったときにいつもするやりとり。 「…こーちゃん、大好き。愛してる。俺にはこーちゃんだけだし、こーちゃん以外はいらないよ」 ゆっくりとこーちゃんに言い聞かせるように言えば、少しずつこーちゃんの肩から力が抜けていく。それに反動するように、こーちゃんの腕は俺の背中に回されて。 「…ああ……ごめん。ごめんな、清純。俺、また…見えなくなってたな」 「平気……ね、こーちゃん」 穏やかで慈しみの含まれた声音に耳を傾けながら、もう一度、こーちゃんの名前を呼ぶ。 「俺のこと、好き?」 答えの代わりに、唇から唇へと与えられる温もり。怒ったこーちゃんはやっぱり怖いし、傷付くこーちゃんも見ていたくないけど、それがとけるたびに貰える口付けは大好きだった。 ――― 初庭球でサエさんと千石さんナチュラル同棲\(^q^)/ 呼び方は例の如く単なる私の希望です。そして庭球に触れるの久々すぎてキャラが迷子どころか行方不明です。 さっちゃんに捧げますオフ会のお礼に受け取ってやってください…!本当にありがとうございました!! [back] |