高校を卒業した。オレと真ちゃんは別々の大学への進学を決め、文系と理系に分かれて、全く、掠りもしない程全く別々のことを勉強していくことに決めた。だからと言って、オレたちまで全くの別々になる訳ではない。気持ちや心まで、全くの別々を進む訳ではない。その証拠だろうか。 高尾、と呼ばれた。 「これを、外してくれないか」 そうして次に、こう言われた。差し出されたのは左手だった。細く長く、そして白いであろう指先を、これまた細く長く、白いテープがぐるぐると覆っている。美しい指先が、お陰でちらりとも見えない。畜生邪魔だと、幾度思ったことだろうか。 「頼めるか、高尾」 それを今、取り除いてよいと。他でもない、自ら美しい指先を隠したこの大男が、オレを真っ直ぐに見据え、言っている。夢ではない、現実だ。その証に、伸ばした右手で相手の左手の甲を抓った途端、不快そうに顔を歪められたのだから。 「取っちゃっていいの、真ちゃん」 同じことを何度も言わせるな、と言わんばかりの点頭。不遜な態度は出会った当初から変わりない。 けれど、こう、再度確認したくなるこちらの心境も理解してほしい。だってあの左手だ。あんなに大切に、几帳面に管理してきた左手だ。それを卒業と同時に放棄してしまう。そんなの、ありなのか? 「もう、バスケは終わったのだよ」 だから剥がしちゃってもいいってか。そんなんおかしくね? だってバスケなんか、大学入ってからでも続けられる。 「…終わって、しまったのだよ」 でも、違うようだ。こいつの言う、終わったというのは。そう単純な意味ではないようで、しかし理解は出来ていない。何故だと問う前に真ちゃんは口角を上げていた。 あ、笑った。しかもどうしてその笑った顔で、 「お前との、バスケが」 そんなことを口にするのか。わかってやっているのか、恐らくそうなのだろう。昔と違い、いや、オレと付き合い始めてから段々と、こいつの鈍さはなくなって、代わりに鋭くなってきたと、オレは勝手に思っている。 「大学でバスケットを続けるつもりはない。この三年で、お前なしのバスケなどオレには考えられなくなってしまった。相棒として、オレのバスケにはお前が不可欠なのだよ、高尾」 だからやめると、また笑う。何幸せそうに笑ってやがんだ。こっちはお前の口からそんな言葉が聞けるなんて、信じられなくて、嬉しくて、泣きそうだってのに。 「お前の手で、オレのバスケを終わらせてくれないか。お前の手で、オレをバスケから解放してくれないか」 そしてお前だけのものに、オレのバスケをお前だけのものに、してはくれまいか。 「あ゙ーーーっ、たくよ!」 大声を上げて頭を掻き毟ると、びくりと相手の肩が揺れた。可愛い奴だ。 「お前、一生後悔すんぞ! これやったらオレ、お前のこと一生離さねえからな!」 暫し長い睫で縁取られたまなこをぱちぱち瞬かせた。それから挑戦的な笑みを浮かべて望むところだと、オレに左手を押し付けてきた。 ぺりぺりぺり。剥がれていく。彼のバスケが剥がれ落ちていく。そしてオレへの永遠を誓った指先が、姿を現していく。 「この指先に誓って、一生お前の傍にいよう」 「この指先に誓って、一生お前を離さない」 進む道が分かれても心が気持ちが離れていない証拠が、一人の男の指先に誓いとして宿された。 ――― 本当は誕生日プレゼントのつもりでしたが無理だったのでお年賀という名目であまねさんへ!あんまり高緑っぽくないどちらかというとチャリアって感じの二人です! あまねさんが「真ちゃんのテーピングはどうなるのか」とついったで呟いていたので私なりに考えてみましたのを捧げるという、まさかのネタ提供(勝手に)してもらうという…申し訳ありません… 宜しければ受け取ってください〜今後も宜しくお願いします^^*! [back] |