捧げ物 | ナノ




 社会人になったからと実家を出、一人暮らしをするようになって――一日も、経過していないというのに。

 「へー、ここが翔さんの部屋か」
 「ワシより先に上がんなや」

 引っ越し業者が荷物を運び込もうとしたそのタイミングで、浅黒い肌を持つ長身がするりと新居に滑り込んできたのだ。

 「固いこと言うなよ面倒くせぇな。オレとあんたの仲だろ」
 「親しき仲にも礼儀ありっちゅー言葉知らんのかこの阿呆」
 「いてっ!」

 軽快な音と共に大輝の頭を一発はたいてやると、大輝は恨めしそうにワシを睨んでくる。といってもこの目、知らん奴には恐怖をあおる効果は抜群かもしれないが、大輝の扱いに慣れたワシにとっては何の意味も成していない。ただ、ガキやなぁ思うくらい。

 「ええか、お前は少し常識を学べ。そんなんやからいつまで経ってもアホ言われんねん」
 「あんたとさつきくらいしか言わねーよ」
 「お前の周りは仏が多いんやなぁ」
 「……どういう意味」
 「馬鹿にしてんねや、そんくらい気付かんかい阿呆」
 「んだと……!?」

 今にも掴みかかりそうな勢いだが、しかし丁度引っ越し業者が段ボール箱を手に現れた為それは阻まれる。忌々しそうに舌打ちをする大輝を尻目に、取り敢えず放置しておいて構わないだろうとワシは業者の元へと向かった。







 一通り荷物が運び終わり、業者も早々に帰っていく。久々に身体を動かしたからか一気に疲れがやってきて、荷解きは後に回して今は一息つこうと真新しいソファに腰掛けようとした――が、そこには既に横になっている邪魔な影が。

 「せやからワシより先に使うな言うてるやろ」
 「うっせーな、待っててやったんだからいいだろ別に」
 「誰も頼んでへんむしろ帰ってくれ」
 「やだ」

 そう言って、大輝はふいとワシから視線を逸らした。溜息一つ、仕方がないのでソファの前へと腰を落ち着ける。これはもう完全に、構ってモード全開だった。こうなってしまった大輝はテコでも動かない、これも長年の付き合いから学習したこと。

 「ったく、ほなら何して欲しいねん」
 「セック」
 「服は脱がんで」
 「じゃあ許さねぇ」

 面倒くさい。大体許さないってなんやねん。勝手に来て勝手に無視された思い込んで、ほんで勝手に機嫌悪うなってるだけやろ。
 頭の中がセックスやらなんやらでいっぱいなのは今更なことだしこの際どうでもいいとして、この自分勝手な男をどうすればいいか、本当に面倒だと思うのはそれを毎回考えなければならないことである。こればかりは、長年の付き合いから…とも言っていられない。なにせこいつ、すぐに気がころころ変わるから、機嫌が直る方法も毎度違っているのだ。

 「はあ……ま、ええわ。ちょっと待っとき、コーヒー淹れてくる」

 言いながら重たい身体をゆっくり持ち上げる。
 考えるにしても荷運びで疲れているし、コーヒーでも飲みながらゆっくり――なんて思ったのだが。

 「ん?」

 くいっと何かに引っ張られる感触があり、反応でそちらに目を落とす。見ればワシの服の裾を、大輝がきゅっと摘んで行かせまいと引き止めていた。空いた腕で己の顔を隠し、ソファの背凭れ側に軽く背けて――その耳が微かに染まっていたのを、ワシは確かにこの目で見た。

 「どないしたん?」
 「……何が」
 「何がて……手」
 「…………」

 その間も、大輝はこちらを見ようともしない。口を閉ざしたのは奴の持つ変な意地か、それとも単なる恥じらいか。
 どちらにせよ、問題児とはいえ可愛いと思ってしまう――それが、惚れてしまった弱味というものだろう。

 「のう、大輝」

 再び床に座り、そっとその手に自分のそれを重ねれば、大袈裟なくらいびくりと反応する大輝。こんなにもガタイがいいくせに、ワシの前では小動物のようで――こんな姿、もしこいつがワシ以外に見せたらどうしてくれようかと、どろどろとした独占欲が自分の内を支配していく。有り得ないとはわかっていても、それでも縛り付けて閉じ込めてしまいたいくらい、ワシは大輝を手放したくない――表には出さないが、心の底ではいつもそう思っているのだ。

 「自分がどう思うかは知らんけど、大輝がもしそう望むなら――」

 一緒に、住まへん?
 静かに紡いだ言葉はしかし、静寂に呑まれた室内によく響く。自分が何を言っているのか、言い終えた今でも不思議でならないが、迷いとか躊躇いとか、そういったものは一切なかった。
 背後で大輝が身体を起こす気配が微かに感じられる。振り返らずに笑ってみせると、後ろから長い腕がワシの身体に回された。

 「……翔さん、それマジで言ってる?」
 「マジも何も、冗談でこないなこと言わへん。せやからここ、一人暮らしには広すぎるやろ」

 元々、そのつもりだった。自分が社会人になって、一人前に生活していけるようになったら――大輝を、ここに連れて来ようって。結婚は出来ないけれど、同棲なら自由に出来る。だったら、自分達に残されたのはそれしかない、と。

 「もっと後に言うつもりやったんやけどなぁ……今はこれくらいせぇへんと、機嫌直らんみたいやし」

 仕事だって、始めたばかりだ。給料だって、まだそんなに多くはない。だからきっと、大輝には辛い生活を送らせることになるかもしれないが――

 「ワシんとこに来い、大輝。お前がいるべき場所は、ここ以外あらへん」
 「…んだよ、横暴なのは変わんねぇで……」

 回された腕が、きつく締まる。少し掠れた大輝の声に耳を傾けながら、ワシは抱き締めるように大輝の頭へ手を乗せた。





―――
か、夏白。さんへ相互記念…!遅い、遅いよ私このノロマ!腑抜け!甲斐性なし!!(滅茶苦茶。
あと読み返したらなんか短かったです。もっとつらつら書きたかった!のに!た ん ぶ ん … 。 すみません!

今青で甘くいちゃこらさせろや!とのことだったのに、甘くないね……お堅い八つ橋以上に甘くないね……誰か!私に!スキルポイントを!(ド/ラ/ク/エネタ。
すみませんもう、謝ることしかサクには出来ません……ど、土下座は上手いよ!!←

今青何か久々だったので楽しかったです!楽しむなと怒鳴りつけてくださって構わぬのですよ!
夏白。さんからはうっはきゅんきゅんするうへへ可愛い黄笠可愛いっていう顔面崩壊必至の黄笠ちゃん文頂いたというのに、そのお返しがこんなんで申し訳ないです。あと私の今の発言が気持ち悪くて申し訳ないです。

夏白。さんをサクは愛してます!ので!これからも愛し続けることを許してくださると、うれ、しい……な!
今後も宜しくお願いします^^*




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