捧げ物 | ナノ




 例えばこめかみに口付けてみた。奴は驚いたようにびくりと震えて口付けられた側の目をぎゅっと閉じた。それから目を開けると「何だよ」と不愉快そうにこちらを見る。眉間の皺とは裏腹に、耳は赤く染まっていた。
 例えば額に口付けてみた。奴は珍しく素直に受け入れた。それから反応を確かめようと見下ろすと、ぽすん。隠すように胸元へと顔を埋めてきた。さらには腕が背中に回ってくる。締め付けてくる力が、強い。
 例えば頬に口付けてみた。思いのほか、奴の頬は柔らかかった。奴は何してんだコイツと言わんばかりの蔑みの瞳でこちらを見下ろす。けれどこれは照れ隠しだと知っていたから、特に何とも思わず笑ってやった。視線はすいと逸らされた。
 例えば手の甲に口付けてみた。はっきり言って、奴は引いていた。顔が引き攣り、言葉も出ないといった感じだ。暫くして発せられたものが、「何キモいことしてんだよ」だった。別に、こっちは楽しいのだからいいではないか。
 例えば首筋に口付けてみた。途端、奴の身体が火照ったのがわかった。「首、弱いんか?」と尋ねれば、意固地な奴は「んなこと、ねぇ」と掠れた声で答えた。説得力などないに等しいその答えに、ほくそ笑んでもう一度同じ個所に口付ける。奴の全身に震えが走っていた。
 例えば胸元に口付けてみた。奴は慌てて頭を抑え込んできた。離せ、やめろと不用意に暴れる。本当はその先を望んでいるくせに、柄にもなく恥じらいを見せているのだ。上気した頬が、眼元が、耳が、証のように。こんな姿を見られるのは、世界中でただ一人、自分だけなのだと、胸の内が満たされていくようだった。抵抗しながらも最終的には受け入れてくれる。そんなところも、堪らなく好きだった。
 例えば唇に口付けてみた。そっと、触れるだけの口付けを。奴はたったそれだけのことに満足げに笑むと、そのままくるりと背を向けて去っていった。行ってくると、そう言い残して。そうして一日が過ぎれば、ただいまと言って戻ってくる。同じように口付けてやった。奴はまた満足そうに笑んで、腹が減ったとダイニングへと進んでいった。
 する箇所によって、する反応が全て違う。だからいつまでも、一緒にいて飽きない。愛しているという感情だけが、大きくなっていく。本当に好きだ。今吉翔一は青峰大輝を、狂おしいほどに。





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ワァーーーーーッ謎くなりましたごめんなさいぱくちゃんへ!誕生日間に合わなかったからお年賀ですがうううすみません…滅茶苦茶だこんなの滅茶苦茶だ…!
宜しければ受け取ってやってください〜今年もよろしくね!!




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