捧げ物 | ナノ




 好きな子の喜ばせ方って、いまいちわからないんだよな。
 こんなことを後輩にぼやいてしまったのはいつのことだろう。チームのエースでモデルも兼業しているそいつは、暫し目を瞬かせてはいたけれど、「彼女のことっスか?」とすぐに察してくれた。やはり、恋愛初心者のオレと違って黄瀬は女性の扱いに慣れている。

 「どんな感じなんスか、その彼女。年上なんでしょ?」
 「あ、ああ……まあ」

 いざ自分の恋人のことを聞かれるとなると、羞恥で狂いそうになる。
 オレより年上で、既に社会人である彼女は、オレがリードせずとも経験値の差からむしろオレを引っ張ってくれている。男としては不甲斐ない、それでは駄目だろうと度々思うのだが、こればかりは仕方がないのかもしれない。

 「年上ねぇ……あんま無理して自分がエスコートしようと先走っても、逆効果だし」

 黄瀬の言葉に、ぐ、と胸を一突きされた心地がした。何度かそれに当たることをした記憶がある。

 「だからって甘えるのも、男からっつーのはないですし」

 それは一瞬考えたけど即座に却下したことだ。少なくとも、オレから甘えようなんて思ったこともないし、甘えたとしても自分が望んでいない限り、明らかに無理をしている形になってしまう。

 「いつも、オレといるときは凄く楽しそうにしてくれてるんだけど……でも本当に楽しんでくれてるのか不安で、オレなんかでいいのかなって思っちゃって」

 唸るオレに、真剣な眼差しで何やら考えてくれている後輩。今はその存在が、本当にありがたかった。チームの同級生は、片方は女性が苦手、片方はネットの知識のみと揃いも揃ってこの手の話では使えないときている。便りになるのは、黄瀬だけだ。

 「例えば、の話なんスけど」

 足を組み、右手を軽く顎に添えた黄瀬がゆっくり口を開いた。そんな姿も様になる、こいつがちょっとだけ羨ましい。いるだけで絵になる恋人ならば、オレの彼女も満足してくれるんじゃないだろうか。
 ――オレじゃ、物足りない、とか……

 「…小堀センパイ、今余計なこと考えませんでした?」
 「え…っ」

 我に返り、無意識に間の抜けた声が出たのは図星だったからか。呆れたような溜息を僅かに吐くと、黄瀬はぐいっとこちらに顔を寄せてくる。

 「いいっスか。センパイの恋人は、小堀センパイがいいからセンパイを選んだんス。それなのに、そんな風に変に悩むのは相手に失礼っスよ。相手を信じてない、信頼してないのと同じです」
 「け、ど……」

 それでも、ときどき不安になるのだ。何故彼女がオレを選んだのか、オレと一緒にいることを望むのか。答えなんかまるで見えなくて、だからオレはいつまでも、不安定な足場の上をふらふらと歩いている。

 「……どうしたらいい? どうしたら、この泥の塊みたいな気持ちは薄らぐんだ?」

 ああ、泣きだしてしまいたい。こうやって後輩にすがる格好の悪い自分を、彼女の想いに自信が持てずにいる惨めな自分を、嘲笑いながら。
 そのとき、両頬にぱちん、と軽い衝撃が走った。驚きに目を見開けば、そこにはむすっと唇を尖らせる黄瀬の顔。
 なんだって、お前がそんな顔をするんだ。
 自分を嘲笑おうと思ったのに、出たのは黄瀬の表情に笑う、明るい声だった。なんというか、不思議な心地。黄瀬のおかげで、泥が少しだけ溶けたのを感じる。

 「センパイは優しすぎるんス。自信がなかったり不安だったりするのは、センパイが自分の優しさを勘違いしてるだけってこと。なんでセンパイはそういうの、気が付かないんスか?」

 小堀センパイは優しいんです。他の誰よりも――その彼女に対しては、特別。
 それに彼女が、気付いてないとでも思ってるんスか? 経験値があって社会人で、センパイよりずっと大人の彼女が。

 「…それ、は……あの人、賢いからなぁ…」

 溢し声を立てて再度笑えば、黄瀬も合わせて笑ってくる。
 別にそう、難しいことじゃなかったんだ。変に考えすぎて、自分で自分を追い込んでいただけ。

 「誕生日は、二人で過ごすよ。それでオレがご馳走とケーキ作って、彼女の家で帰り、待ってる」
 「それでいいと思いますよ」

 心が晴れて、清々しい気分。今から彼女の誕生日が、とってもとっても待ち遠しい。




20130617
―――
氷姉に捧げます氷助×小堀!!ひいい大遅刻してすみません!!
そもそもこんなんでよかったのかとかおいなんでデルモがでしゃばってんじゃとか突っ込みたいところは色々ですが、取り敢えずこれで…いやああもうほんとごめんなさい!!
お誕生日、本当におめでとうございました!氷姉にとって、素敵な一年となりますように^^*




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