「ふふ、可愛いな……ほら、こっちですよ」 楽しそうに声を漏らしながら、セシルが小さなボールを転がす。するとすぐさまそれを追って、白い毛の塊がさっと動いた。そいつはボールに追いつくとじゃれるように飛びついて、しかしその所為で再び自分の元から逃げていった相手をまた追いかけて。 拾ってきた白猫を愛おしそうに見つめるセシルを、俺は軽く睨み付けた。折角の休日、それも生憎の天気のお陰で部屋に二人きりだというのに―― 『カミュ、大変です! この子が下の入口に…!』 数刻前、セシルがリビングに飛び込んでくると同時に発した言葉が、俺の脳内を反芻する。 マンションで二人暮らしを始めて、どれくらいが経過しただろうか。時の流れを忘れてしまうくらい満ち足りた生活を送っている俺とセシル。どちらもアイドルという多忙な職に就いているから、互いを気遣って、家事もきちんと分担していて――その中に、郵便物を取りに行く、というものがあった。そして今日、それの担当はセシルだったのだが。 雨宿りでもしていたのだろう、郵便受けの前に一匹の白い猫がいたそうだ。猫は寒さに震えていて、大層気の毒に見えたのだという。 ……だから、何だというんだ。 「はぁ……」 本日何度目とも知れない溜息の中、はしゃぐセシルと白猫をもう一度ねめつける。 震えていて可愛そうだった、寒そうで気の毒だった、だからって何故拾って帰るんだこの阿呆は…! 「? カミュ、どうかしましたか? 顔、怖い……」 誰の所為だと思ってるんだ。 「あ、カミュも一緒に遊びませんか? そうしたらきっと、とても楽しいです!」 「断る」 「え――」 ばっさり切り捨てた俺を、見開かれたセシルの双眸が見つめている。恐らく、こんなにも呆気なく断られるとは思っていなかったのだろう。 動物に嫉妬など、我ながら情けないとはわかっている。けれどたまの休日、それもこの狭い空間に二人きりという貴重な時を、俺は部外者に邪魔された気がしてならないのだ。 狭量……だろうか、でもこれくらい、恋人なのだから許してほしい。 「…カミュ……?」 鋭く見下ろせば、不安げに揺れるグリーンの瞳。 猫などいなくとも、セシル自身猫のようで、俺にはその猫以外必要ない。愛でたいとも、ましてや欲しいなどとも思わない。 「――こちらへ来い」 静かに、有無を言わせまいとして命令すると、セシルは少しばかり恐怖心を煽られたのかピクリと肩を震わせ、しかしその従順さからゆっくり立ち上がって俺の元へとやって来た。手の届く範囲にセシルが足を踏み込んだ、その瞬間―― 「わっ!」 ぐ、とセシルの手首を掴み、己の膝の上へすっぽり収める。そのままきつく抱きしめれば、セシルははっと息を詰めて。 「カ、ミュ……くるし、です」 「黙ってろ」 お前を、取られた気がしてならないのだから。 耳元で囁いたのだから、言葉はしっかりセシルへと伝わっていた。その証拠に赤く染まった耳朶へ軽く歯を立てると、セシルはきゅっとオレにしがみ付きながらもオレの頬へと口づけを返してくれたのだった。 ――― 猫相手にヤキモチ妬いちゃうカミュってどうですか。 そんな訳でさっちゃんに捧げますカミュセシ、ようやくup出来た。短くてごめんよ… そしてサクはカミュのキャラがわからない。どうなの、どんなキャラなの君。 [back] |