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 「真ちゃん、オレ……真ちゃんのこと、好きだよ。他の誰よりも……真ちゃんが」

 いつもと同じ帰り道に、いつもと同じように自転車をこいで、いつもと同じ背中を見せながら高尾が不意にそう零した。いつもと同じ気持ちでリアカーに乗っていたオレは、いつもと違う高尾の様子に気が付きつつも――見て見ぬふりをして、高尾の告白を聞き流した。

 「…真ちゃん、ねぇ……真ちゃん?」

 けれど、そこで流されるような高尾ではない。オレに聞こえていなかったとでも思ったのか、高尾は自転車特有の耳触りなブレーキ音を立て、リアカーの停車と共に振り返りながらオレを真っすぐに見下ろしてきたのだ。

 「オレ、今真ちゃんのこと好きだって言ったんだけど」
 「……そうか」
 「好きって、恋愛対象としてって意味なんだけど」
 「…そう……か」
 「返事は?」

 追い詰められている、そんな気がした。圧迫感がオレの前まで迫ってきて、早く答えを出させようとしている……そんな気が。
 オレは……オレの、素直な気持ちは。

 「悪いが高尾、オレは男同士というものを受け入れていない。非人道的な上、非道徳的だからだ。だから――」

 だから――何だ? オレはお前とは付き合えない、そんな想いを抱かれていると知った今、もうお前とは共にいられない――そう告げる気か?
 そこで言葉を詰まらせたのがいけなかった。迷いを、高尾に見せたことになったのだ。それに気が付いたのは――高尾が自転車から降り、リアカー側に移ってきたときで。

 「真ちゃん、オレ、マジで言ってるんだよ? それなのに、真ちゃんはオレに向き合ってすらくれないワケ?」

 耳にしたことのない高尾の低い声音に、びくりと震えたオレの肩。
 高尾は、怒っていた。その怒りは、普段軽い調子で笑っている分とても恐ろしい物のように見えてきて。
 何故、怒るのか。何故、傷付いた目をしているのか――わかっていたけど、オレはまた、気付かないふりをした。が――

 「ほらな」
 「っ!」

 ひょい、と鋭い目つきで覗き込まれる。あまりの眼力に竦み上がるオレをしかし高尾はスルーして、オレの顎に手をかけ真っすぐに視線を絡ませてきた。

 「また、無視しただろ。オレが今、どんな気持ちかわかってるくせに、そこから目を逸らしただろ」
 「そん、な、ことは……」
 「あるんだよ」

 オレの言葉を遮り、きっぱり言い切る高尾。その剣幕に、オレはこれ以上、何も口にすることが出来なかった。

 「さっきオレが告白したときも、今も――それに、一番腹立つのは、」

 台詞が途切れた、そのときに。オレの唇に、あたたかくて柔らかい感触が伝った。

 「真ちゃん、自分の気持ちに嘘ついてる。オレが返事しろっつって途中で詰まったのは、思ってもないこと言ってたからだろ。言いたくもないこと、言おうとしたからだろ」

 キスなんかされて、近距離から見据えられて――何より、思っていること全てを高尾に見透かされて、金縛りにあったような、そんな感覚に陥った。
 オレが高尾を好きで、けどそれを、オレが押し殺そうとしている――高尾はそれを、知っていたのだ。

 「もう一回言う。オレは本気で、真ちゃんが好きだよ。他の誰より、真ちゃんを一番愛してる――真ちゃんは?」

 受け入れたい、けれど怖い。自分で言ったことではあるが、やはり同性愛というのは非人道的であり、非道徳的であることに変わりはないから。偏見の目で見られ、蔑まれ……それで高尾が傷付く姿を、オレは見たくない。その想いが強いブレーキとなって、オレが気持ちを貫くことへの妨げとなっていた。

 「高尾、やはりオレ、は……」
 「たまたま、」

 唇を噛みしめ眉間に皺を寄せて、ようやく出せた言葉。けれどそれをかき消すように、高尾がオレの声に自分のそれを被せてきた。

 「たまたま、好きになった相手が男だったってだけ。たまたま、運命に導かれた相手が男だったってだけ」

 これでどう?
 ……なんて、聞かれても困るのだが。でも高尾の顔はさっきとは一変、晴々としたものへと変わっていた。

 「…だが、お前は、」
 「オレ、真ちゃん以外の奴と一緒になる気ねーもん」

 笑った高尾は、なんと清々しいことだろう。そんな高尾に思わず笑いながら、オレは――

 「……高尾、オレと――」

 嘘も偽りもかなぐり捨てて、真実だけを――熱く強い想いを告げた。




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