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 クリスマスデートと言えば。
 プラン1、夜景の見えるレストランで食事――どこにそんな金がある。
 プラン2、自宅に招いてクリスマスパーティー――駄目だ、確実にアイツを襲ってしまう。
 プラン3、夜の遊園地で観覧車に乗りながらロマンチックに過ごす――って具体的にどうすんだよ。
 という訳でプラン4、イルミネーションを楽しみながら手を繋いで歩く――これが一番無難だろう。というか、一番ロマンチックだ。しかし――

 「手なんか繋いだら、笠松怒るよな……」

 まずはそこからか、と頷いたオレは、笠松とのクリスマスデートを成功させる為、ネットワークとの決戦に挑んだ。







 「無理に決まってんだろ。阿呆か」

 クリスマスにデートをしようと、翌日張り切って笠松に熱弁したのだが、思った通り、笠松は全く乗り気ではなく、それどころか"馬鹿なこと言ってんじゃねぇ"と言いたげにオレを一瞥した。

 「クリスマスくらいいいだろ。たまには堂々と――」
 「オレ達の関係が世間に受け入れられてると思ってんのか」

 真剣な笠松の言葉に、胸がズキリと痛む。
 そんなこと、わかってる。オレ達は、非人道的なんだって。でも――

 「どうしても、駄目か?」

 懇願するその声音は、無意識のうちに弱々しいものとなっていた。何か情けないな、と自嘲するオレに、笠松は困惑したように眉根を寄せていて。

 「……手、は…無理だけど、まあ…出かけるくらいなら、いいぞ」
 「え……本当?」

 少し赤みの差した顔で小さく頷く笠松。小動物みたいなその反応が可愛くて、オレは思わず笠松を抱き締めていた――が、速攻で腹パンくらった。

 「痛い……笠松の愛情が痛い……」
 「あるかっ! ここは教室だ慎め馬鹿野郎!」

 そんな真っ赤になって叫んでる方が怪しまれそうなんだけど、なんて言ったらもう一発お見舞いされそうだからやめておいた。まあどうせ、傍から見たら馬鹿騒ぎしてるようにしか見えないだろう。

 「とにかくっ、イルミネーション見に行くだけだからな!」
 「わかった。最低限イルミネーションは見に行こう」
 「イルミネーション"だけ"だ!」

 怒鳴られてはいるが、取り敢えずクリスマスは一緒に過ごせそうだ。何だかんだでクリスマスの予定が埋まったオレは、知らず笑みを零していた。







 待ちに待ったクリスマスイブ。今年一番の寒さと言われる気温の中、マフラーも手袋もせず笠松の訪れを待つオレ。これから笠松とデートするんだって思ったら、何かテンション上がりすぎて身体が火照って――

 「……お前、寒くないのか」
 「笠松のお陰でこの通りだ」
 「どの通りだよ」

 勿論、やってきた笠松はこの反応。周囲から浮く程薄着のオレだが、コートはちゃんと着ている。……どちらかと言うと、お洒落着みたいなコートだが。

 「風邪引いてもオレは何もしないからな」
 「恋人なら、風邪引いた彼氏の看病くらいするだろ」
 「……誰から聞いた、それ」
 「勿論インターネットだ!」

 高らかに告げたオレの言葉を最後まで聞かず、さっさと歩き出す笠松。
 いけない、ここで愛想尽かされたら何もかもおしまいだ。

 「ごめん笠松、ふざけすぎた」
 「わかってやってんのか馬鹿にしてんのか阿呆か」

 急いで追いかけた笠松は、オレを振り返るなり冷たく吐き捨てた。
 ああ……マフラーしてくればよかった。笠松の視線と言葉が今吹いてる風より冷たい。

 「……どうしたらいい、オレ」
 「っ……」

 ぽつりと小さな声で、オレは呟いた。それは笠松の機嫌を直さなければと思っての弱気な発言だったのだが、見下ろした笠松は何故か言葉を詰まらせている。
 これは、何というか――困ってる?

 「なぁ、かさま――」
 「も、もういいっ、さっさと行くぞ!」

 慌てて身体を反転させた笠松から、『急に態度変えやがって……こっちが調子狂うだろ』的なニュアンスの呟きが聞こえた――気がした。

 「――ありがとう」

 やっぱり笠松は優しくて男らしい。何となく感謝したくなってオレがそう言葉を投げると、何がだよって眉間に皺を寄せた笠松が頭だけこちらに向けてくれた。







 「……これ、本当に本物?」
 「そうみたいだ」

 やってきたのは赤煉瓦倉庫の前。とあるテレビ番組の企画で、海外から本物のモミの木を日本へと輸送し、ツリーとして飾り付けたものがこの赤煉瓦倉庫前に置かれていると聞いたから、きっとロマンチックな雰囲気になるだろうと選んだのだ。

 「へぇ……凄いな、これ。やっぱ全然違うわ」
 「だな、これ程とはオレも思ってなかった」
 「つかお前、イルミネーション見に行くんじゃなかったのかよ」
 「これはイルミネーションって言わないのか?」
 「違うだろ、確実に」

 呆れられてるけど、まあいい。細かいことは気にしない。笠松さえいれば、オレはそれで満足なのだから。

 「けど……カップルばっか、だな」

 ふと笠松が居心地悪そうに辺りを見回す。オレもそれに倣って周りを見てみた。成程、確かに笠松の言う通り、ラブラブいちゃいちゃの男女二人組ばかりだ。家族や女友達同士で来ている人も若干はいるが、オレと笠松のように男二人で来ている人は誰もいない。

 「オレ達もカッ――」
 「うわああああ! 言うな黙れそれ以上口を開くな!」

 耳まで赤くなった笠松は、オレに掴みかからんばかりの勢いで口を塞ごうとしてくるが――いやもう可愛過ぎる。どうしよう犯したい。

 「ふざけんなっ!」

 げし、と蹴られて気が付いた。どうやら思っていたことが口から零れていたらしい。

 「――な、笠松」
 「っ…、な、んだよ」

 そんなふうに嫌がってるけど、仕方ないと思わないか? 周りがこんだけ甘い空気で充満してて、その中にオレ達はいて。

 「少しだけ、手貸してくれない?」
 「は? それは前に無理だって――っ」
 「お願い、ほんの少しでいいから」

 勝手に、冷えた笠松の手を握る。笠松はビクリと肩を震わせて、全身をすぐ強張らせてしまった。多分、滅茶苦茶周りからの視線を気にしているのだろう。ちょっと気の毒だったから、周囲から死角になるようにオレは笠松に寄った。寒いんだから、きっとこれくらいの距離、誰も気にしない。

 「もりや――」
 「綺麗だな、笠松」

 戸惑う笠松をスルーして、ツリーを見上げたオレがぽつりと零したその声は、寒空の中に溶けていった。同時に、笠松の固い表情も消えていって。

 「――メリークリスマス、森山」
 「メリークリスマス、笠松」

 きゅっと、その手が小さく握り返された。







 「さて、帰るか」
 「…………」
 「笠松? 何でオレ睨まれてるのかわからないんだけど」
 「……手、離せ」
 「え?」
 「だから手! 離せっつってんだろ!」
 「……、………………、…………ナンノコト?」
 「誤魔化せてねぇからな、何だ今の不自然な間は何で片言なんだ」
 「いいじゃないか、別に。ほら、行こう」
 「おい! 人の話を聞け! お前マジふざけんな!」
 「あー、楽しかった。また来年も来たいな」
 「一生来るか馬鹿!!」




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