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 真ちゃん。
 交差点を渡る前、赤信号で高尾は言う。
 オレの名を、大切そうにその口から紡ぎだして。
 真ちゃん、オレね。
 少しだけ顔を上げ、はにかみながら高尾は言う。
 躊躇いながら、それでも嬉しそうに目を細めて。
 どうした、とか、何だ、とか、返す言葉というのは色々あるだろう。けれどオレは、敢えて何も言わなかった。促すこともせず、問い詰めるようなこともせず、ただただ、高尾の言葉を待つ――そういうのも嫌いではないなんて、たった今気が付いたのだから何だか笑えた。
 リアカーの中から見上げた高尾の顔は、夕日が差してキラキラと輝いて見える。綺麗だ、と思ったその瞬間に、高尾の唇が動く気配がしたのと、目の前を二台のトラックが通過したのはほぼ同時だった。
 トラック二台分のエンジン音が、高尾の言葉を浚っていく。使おうと思った読唇術も、あまり備わっていないオレには逆光という障害が強すぎた。
 何か言ったか。
 問いかけたオレに、高尾は少しだけ悲しそうに微笑んで。
 何でもねーよ、と笑った顔は、いつもの輝きを取り戻していた。







 高尾。
 交差点を渡りながら、青信号で真ちゃんは言う。
 少しだけ声を震わせて、それでも懸命に緊張を隠しながら。
 高尾、オレは。
 後ろから身を乗り出したのか、揺れるリアカーの中で真ちゃんは言う。
 ちょっと焦った声音を、飲み込んだり吐き出したりしながら。
 どったの、とか、何?、とか、いつものオレならすぐそう返していただろう。けれどオレは、敢えてそうしなかった。さっきオレが声をかけたとき、真ちゃんは何も言わなかったから――たまにはそういうのもいいんじゃないかな、なんて思ったんだ。
 夕日に照らされた真ちゃんは、どれだけ綺麗なんだろう。そんなことを考えて横断歩道を渡りきったとき、不意に真ちゃんがオレの制服の裾を掴んだ。止まれ、という意味なのだろうが、何となくそこで止まって振り返るのが怖くて。
 オレが何を言いかけたのか、何を言ったのか、そう聞かれるんじゃないかと思ったから、そんなこと聞かれたら、どう誤魔化せばいいかわかんないから。だから逃げるようにペダルに力を込めたのに、真ちゃんはそれを許すまいとさらにオレの制服を引っ張った。
 何だよ。
 尋ねようとしたオレの口は、"な"という形で止まった。だって、夕日で輝いた真ちゃんが、あまりにも綺麗だったから。綺麗な真ちゃんが、今まで見たことないくらい、綺麗に微笑んでいたから。そして――







 ――好きだ。
 はっきりと、オレはそう口にした。さっきオレがやらかしてしまったみたいに、高尾がオレの声を聞き逃してしまったとしても伝わるように、しっかりと唇を動かして。
 高尾の顔が、輝きを増したように見えたのは――オレの錯覚か。
 高尾の顔が、夕日より赤く染まって見えたのは――オレの、願望か。
 お前はどうなのだよ。
 傷付くのは怖い。けどきちんとオレの気持ちと向き合ってほしい。
 相反する想いを抱えるオレは、何て貪欲なんだろう――自嘲しながら、高尾の返事を待った。







 ――すき、なの?
 自信なく、オレはそう口にした。さっきオレがやらかそうとしていた、逃げるという行為。それだけはさせたくないと、瞳だけはしっかり捉えて。
 真ちゃんの顔が、またさらに美しさを増して笑って見えたのは――オレの錯覚か。
 真ちゃんの顔が、もっと温かくて優しいものになって見えたのは――オレの、願望か。
 本当に、信じてもいいの?
 嘘だったらどうしよう。そういう意味じゃなかったらどうしよう。
 不安ばっかり抱えたオレは、何て臆病なんだろう――涙を堪えながら、真ちゃんの返事を待った。







 「――お前は、オレが信じられないのか?」
 「そんなこと……ない、けど。でも……」
 「ならば信じろ。オレは、お前を――愛している」
 「……狡いよ、真ちゃん。オレが言ったときは聞こえてなかったくせに……」

 申し訳なさそうに自分を嘲笑ったエースと、涙を浮かべながらも破顔する司令塔は、どちらも夕日に照らされ輝いていた。
 好きだぜ、真ちゃん。
 告げた司令塔の唇にそっと左手を伸ばし、エースもまた、幸せを顔に浮かべた。





―――
無糖様へ提出の緑高です遅くなって申し訳ないです……
こういう形のお話書いたのは初めてで、ちょっと新たな挑戦的な感じでやらせて頂きました。テーマにあっているのか否かはわかりませんが。ふざけんなよってね。
素敵な企画に参加させて頂き、本当にありがとうございました!




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