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※星空の恋路様へ提出作品。



 「つっ…」

 部費の予算を計算しているときだった。書類を繰ろうとしたら、オレは見事に小指を引っかけてしまったのだ。一筋入った小さな傷口からは、見る間に鮮やかな鮮血が浮かんでくる。

 「どうしたの?」

 一緒に作業をしていたカントクが、オレの声が聞こえたのかこちらの様子を伺ってきた。赤く膨らんだ液体を眺めながら、オレは苦笑を零す。

 「いや、紙で手を切っちゃっただけだよ」

 そう告げると、紙で手を切ったときの痛みを思い出したのか、カントクが痛みを堪えるように顔を顰めた。

 「あー、あれって地味に痛いのよね。やっちゃったとき、油断してた過去の自分を呪いたくなるわ」
 「傷は小さいのに――はっ! 傷がズキズキ痛む…ってキタコレ!」
 「きてねぇわダァホ!」

 と、素晴らしいダジャレを閃いたオレの頭が後ろからはたかれた。その勢いで前のめり、軽く頭をさすりながら顔だけ背後に向けると、立っていたのは険しい顔をした日向だった。

 「指なんか怪我して満足なプレー出来んのかよ!」
 「これくらい、我慢すれば……」
 「そういうこと言ってんじゃねぇ!」

 あまりの剣幕に目を見開き日向を正面から見つめると、日向は無言でオレの手を取った。

 「あ、じゃあそろそろ終わりそうだし、伊月君、後はお願いね」

 その横で突然カントクがガタリと音を立てて立ち上がり、そそくさと部室から出て行く。何か空気読んだ、みたいな雰囲気で出てったけど何でだろう、なんて思ってたら――

 「っ!?」

 小指に、生暖かい感触があった。ビビって慌ててそちらを見ると、日向がオレの前に跪いて件の指をその口に含み、強く吸っている。
 え、え……何で!? 何で日向がオレの指を……
 あまりの事態に口をパクパクさせていると、その間に日向は傷口に綺麗に絆創膏を貼ってくれていた。

 「っし、これでまあ平気だろ」
 「ひ、ひゅ…が……」
 「ん?」

 無自覚が一番恐ろしい。
 聞いたことのあるフレーズを、たった今身を持って実感した。

 「や、その……ゆ、び…口に……」

 しどろもどろ、やっとの思いでオレが言うと、自分のしたことをようやく理解したのか、日向の顔がたちまち赤く染まっていった。

 「あ、あ…オレ……っ」

 うわ何この空気。めっちゃ照れる。
 それでも日向をじっと見つめていると、日向は焦ったように目を瞬かせて何か言いたげに口を動かしていた。しかし言葉は発せないようで。

 「……ひゅー、が…?」

 オレが名前を呼ぶと、跪いてた日向はそのまま自分の顔を隠すようにオレの膝に突っ伏した。
 え、何この可愛い生き物。
 たまらずその頭に手を伸ばそうとしたら、

 「…怪我、もうすんなよ。心配かけんな」

 オレを悩殺する一言を呟いた。

 「……また怪我したら、今みたいに治療してくれる?」

 そんな恋人にたまには甘えてみようかな、なんて思って聞いてみる。日向のことだから、またアホって言われてど突かれるのが関の山だろうと思ったのだが、

 「…………ん」

 小さく頷いて、ぎゅっとオレにしがみついてきた。そんな日向に、オレは完全にヤられて固まるのだった。




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