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 「それじゃ、また明晩」

 ぼんやりとした意識の中、聞こえた気がしたあいつの声。ガチャンと無情にも閉まる扉の音、全身が怠く腰に痛みを抱えたオレが、はっきりと確かめることは叶わない。
 中学時代の友人――だった筈の男、赤司征十郎と、こんな関係を持ち始めてどれ程経ったのか。お互い高校を卒業し、大学へと進んで成人した。問題なく大学も終え、社会へと出ていった。それまで何の連絡もとっていなかったのに、突然赤司の方から一本の電話が入ったのは社会人になってから数か月といったときであった。
 実は中学卒業以来、オレは恋人というものを作っていなかった。というのも、その頃から赤司に対して密かな恋情を抱いていたからだった。だが中学のとき、豹変した赤司に伝えることも出来ず、高校になり、考えに幼さが薄れていけば逆に、こんなものは世の理に反していると勝手に抑え込んでいた。思い悩み、結果、オレは他の誰へも淡い想いすら感じずここまで来てしまった。そこへ舞い込んだ赤司からの電話だ。

 『久々に会わないか』

 たった一言、それだけの言葉に、捨てきれぬ心を隠したオレは舞い上がっていた。元チームメイトとしてでも、旧友としてでもいい、とにかく赤司が自分に会いたいと望んでくれたことが嬉しかった。
 誘われた、赤司らしい小洒落たバーで、昔話に花を咲かせながらとにかく飲んだ。それはオレの、緊張の表れだったのかもしれない。
 若干の意識は残っていた。だがはっきりとは思い返せない。何となく、ぼんやりと覚えているのはあの瞳。二つの色に光る眼と、あの笑み。何を言われたかはわからないが、あの後オレは、連れて行かれたホテルで赤司に犯された。意識を失い、次に目覚めたとき、あったのは『また連絡する』とだけ記された一枚のメモだった。
 そこから、始まったのだ。

 「あ、かし…っ、あ、あ…っぅん、ふ……ああっ、ひ、」
 「どうしたの、真太郎。僕にこうされることを、ずっと夢見てきたんだろう?」
 「ひ、ぃあ、ちが…っあ、う、は…っ」

 赤司は、知っていたのだろう。オレが赤司をどう思っていたのか、赤司とどうなることを望んでいたのか。そこにつけ込まれていることに、オレも気が付いていた。でも、それでもよかった。どんな理由でもいい、赤司に、ようやく彼に、必要とされたことがただただ純粋に嬉しかった。

 「ああ、また…出せないのに、また達してしまったんだね。本当に真太郎は淫乱だ」
 「ぅ、や……あ、かし、これ…を、はずし……出し、た、ぃ…い、かせ、っひぁ!」
 「出せなくても十分幸せ、なんだろう? 僕に弄ってもらえてる、その事実だけで、お前は」

 "違う。"
 その意思を伝えたくて首を振るも、がくがくと膝が震え正直な身体は反応する。
 辛い、苦しい、解放されたい――…気持ちがいい、幸せ…赤司、赤司赤司赤司。
 戒めを解いてもらえないまま、後ろから貫かれた。辛いのに、苦しいのに、解放されたいのに、気持ちが良くて、幸せ。そんな自分が、虚しかった。こんな扱いを受けても、それでも忘れられず、これでもいいと思ってしまう自分が、悲しかった。
 結局その晩はまともに解放されぬまま、意識を手放した。次に気が付いたときには、扉が閉まる音を聞いた。また明晩、その言葉に心を浮き立たせながら。
 今日も日が沈めば、赤司に会える。どのように酷い仕打ちを受けようと、待ち望んでしまう。きっと一生届かないまま、身体だけの関係を強いられるとしても――

 「あい、してる……愛している、赤司」

 オレは最後まで、彼を求めることをやめられず、朽ちていくのだろう。




20140101

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