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 「どっちかっつーと真ちゃんに似てるっすよね」

 高校時代は同ポジションの先輩後輩、成人してからは似たような恋人を持つ酒飲み仲間。
 こんな関係を作ってくれたのは高尾の方だった。流石だな、と思う。どんなタイプの人間ともコミュニケーションを取れる、それは高尾の一番の美徳だ。

 「はぁ? オレとあいつのどこが似てるってんだよ」

 しかし高尾と飲みに来るのは久しぶりだった。最近はお互い仕事が忙しく、なかなか時間を取れないでいたのだ。だから久々の飲みの席、近況報告を兼ねた話をすると、必ずどちらも恋人の話題が上がる。そんなときだ、高尾が、訳のわからないことを口走ったのは。

 「んー、何て言うか、素直じゃないところ? ツンデレ? みたいな。似てません?」
 「似てねえよっ」

 心外だった。別に高尾の恋人こと緑間のことは、嫌いではない。むしろ昔に比べて角が取れた――高尾が取ったとも言うが――おかげか、好感すら持てる。変人、変り者という点を除けば、緑間はかなりまともな神経が通った男なのだ。が――

 「占いなんか信じてねえしあんな不遜で偉そうでもねえし、大体――」
 「占いはともかくその態度オレ限定っすよ〜」
 「惚気かっ」
 「へへ、めっちゃ幸せだもんね」

 そうして見せる締まりのない顔は、けれどどれだけ高尾が幸福な人生を送っているかを如実に表しているかのようだった。そして思った、黄瀬もこんな風に笑うのだろうか、と。
 ストレートでキラキラしてて、くしゃっと笑う、そんなところをオレは、高尾も黄瀬も何となく重なって感じてならなかった。だからふと、思ってしまったのかもしれない。黄瀬が今の高尾のように、オレ以外の者の前で、オレの存在があるから幸せなのだと、そう笑ってくれているのだろうか、と。

 「…いいな、お前らは」

 溜息と共に吐き出せば、高尾はきょとんとしてアルコールで少し潤んだ瞳をこちらに向けた。

 「何がっすか?」
 「何つーか、こう、何でもそのまま態度や表情に出せて」

 オレには無理だった。殊と黄瀬の前に関しては、思っていることと真逆のことを言ってしまったり、本当は嬉しいのに顔を背けてしまったりなどしょっちゅうであった。どうにかしたいとは何度も思った、でも出来ないのだ、生来持った性格の為か。

 「たまにさ、羨ましいって思うんだよ、黄瀬のこと見てると…こう、何だろうな、直球だろ? オレには出来ねえけど、出来たらどんだけいいんだろうなって……」
 「…くくっ、」

 と、高尾が笑った。一応堪えているつもりなのだろうが、その方が小刻みに震えている。

 「おま…っ、人が真剣に話してるってときに、何――」
 「いや、ほんと…真ちゃんにそっくりだなぁって……ははっ!」

 もう我慢できないと言わんばかりに大笑いしやがる高尾は、いっそ清々しいくらいだった。オレは顔を顰めながらもそれが収まるのを待つしかない。

 「…真ちゃんもさ、いっつも思ってることと真逆の反応してきて、ほんっと面白いんすよね。こっちからしてみれば、それを読み取るなんて当然すぎてクセみたいになっちまってんすけど。だから、もしかしたら真ちゃんも今の笠松さんみたいに、悩んでくれちゃったりしてるのかなーって、思ったら…ふっ、はは、あはははっ!」

 完全にツボに入ってしまったらしい。こうなればこちらはもう放っておくしかなかった。けれど――
 もし、高尾の言うことが本当だとしたら。もしそうであれば、黄瀬も高尾と同じようにオレのことを読み取ってくれているのかもしれない。面白がられてる云々はこの際目を瞑るとして、ならば黄瀬は別段、オレが無理して性格から捻じ曲げようとしているのは望んでいない、ということになる。
 緑間を愛している高尾を見ていれば、わかる。きっと黄瀬も同じように、オレのことを愛してくれている――あいつは、そういう男だったではないか。

 「…成程な」

 改めて振り返ってみれば、自分でも笑えてくるような悩みだったのかもしれない。そして一度そんな風に考えてしまえば、アルコールが回った身体で笑いを抑えるのは酷く困難なことだった。
 未だに笑い続ける高尾を見ながら、オレも堪え切れずに吹き出す。確かに高尾が言う通り、オレはほんの少しでも緑間と共通する点があるのかもしれない、と、ちょっと認めてからグラスを手に取り緩む口元で傾けた。




20140224

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