※病み氷室さん注意。 ※最後監禁ネタ有。 アメリカから戻ってきてお前に会ったとき、思ったんだ―― オレには、お前だけなんだって。 そう言ったオレを見上げたのは、恐怖のみを宿して震えた二つの瞳だった。 * 久々の日本。そこで見たストバスの試合。部で禁じられているということも忘れて、いつの間にか一つのチームへ助っ人としてオレはそれに参加していた。 懐かしかった。外の空気を吸いながらプレイすることも、ルールに縛られずに身体を動かせるのも。そして何より、アイツの面影が思い起こされたことも。 だから驚いたよ。まさかお前のことを考えていたら、当の本人が目の前に現れるなんて。 結局、タイガのプレイはろくに見ることが出来なかったが、まあWCでゆっくり見られるだろうからいいか、と――そのときは、何の気なしに、思った。 けれど―― 「光と影、ね……」 誠凛との試合で、オレと対峙したタイガの姿。 オレは、見たことがあったかな。あんなに楽しそうにバスケをするタイガを。オレとやってたときより、ずっと生き生きしてるんじゃないか? 悔しい、のだろうか。それとも――苛立ち? 「どっちでもいいか」 一つだけ、これだけは変わらないということがわかったんだから。 オレは――タイガを無性に、欲している。 「おい、平気か?」 試合が終わって、オレは何故か殴られて。何でだったかな、なんてぼんやり思い出そうとしていたら、オレを気遣う赤みがかった瞳に覗き込まれた。 「ああ、あれくらい、何てことないよ」 アレックスは救急箱でも探しに行ったのか、既にこの場から姿を消していた。おかげで今現在、ここにはオレと、タイガの二人だけだ。 「そんなことよりタイガ。お前も随分強くなってしまったんだね」 「タツヤも、な」 ゾーン入れなかったら無理だったわ、と天を仰ぐタイガはいつも通りで、試合中の激しさは欠片も残っていない。普通に話せるという安堵と、何だろう――この、強く靄がかかったような気持ちは。 「タイガには遠く及ばなかったけど、ね」 「そうか?」 本気で言ってるのか、気遣ってるのか。 どっちでもいい。今はタイガがオレだけを見てくれていることが嬉しかった。 「またやりてぇな、試合」 呟くタイガを見上げながら、どうしてお前はそう純心なんだと――汚してしまったらどうなるだろうかと、そんなことがふと頭を過った。 何を、考えているんだ。 小さく笑って自分を叱責しようとするも、驚いたことにそんなことを考えた、という事実には何も違和を感じなかった。 「ってことは、オレは――」 「タツヤ?」 純粋な双眸に純白な表情。 恐らく、オレはこんなタイガが滅茶苦茶になっても、何とも思わない。それどころか―― 「ねぇ、タイガ」 明日、オレが泊まってるホテルに来てくれない? 練習があるというタイガに笑いかけ、有無を言わせまいとすると、タイガは黙ってぎこちなく頷いた。 * ホテルの正しい住所なんか、教えていない。オレが教えたのは、廃墟と化したボロアパートの住所。 首を傾げるタイガの腹に一発埋め込めば、不意を突かれたタイガはもろにそれをくらい、呻きながらその場に崩れた。慈しむように見下ろしてから、アパートの一室までタイガを運ぶ。オレより体格のいいタイガを運ぶのは骨が折れたが、けれどそんなもの、タイガへの愛があればどうとでもなるだろう。そんな臭いことを考えながら、ようやく目的の場所に辿り着いた。 「わかったんだよ、タイガ」 まだ意識の戻らないタイガを後ろ手に縛り、足もしっかり拘束する。聞こえていないとわかっていながらも、オレはさらに言葉を続けた。 「何で昨日の試合中、変な気持ちになったのか。何でバスケに、物足りなさを感じていたのか」 横たえたタイガの髪をゆっくり撫で、その額に唇を落とす。 「タイガが、オレのところにいなかったからなんだね」 兄弟なんて、もう嫌なんだよ。オレはタイガと、そんな優しい関係になりたい訳じゃない。 「オレはね、タイガ。お前が欲しくて欲しくて、堪らなかったんだ」 今まで気付かなかったのが不思議なくらいに。 そう思うことが当たり前に感じるくらいに。 「タイガを、愛してるんだ」 タイガの着ているジャケットをそっと脱がし、シャツのボタンへと手をかける。上から一つ一つ外していると、ふと意識を取り戻したタイガが目を開けた。 「た、つや……? ここ、は……」 「ここは……オレとタイガの、二人だけの居場所、かな」 ゆっくりと紡いだ言葉と同じ様に、ゆっくりと唇の端を持ち上げる。意識がはっきりしてきたのか、それとも寒さに身を震わせたから気が付いたのか、タイガは自分の置かれている状態に驚きと怒りで目を見開いていた。 「タツヤ…!? お前、これ……!」 「黙ってて」 今のタイガに、抵抗するすべなどない。それをわかった上で、オレはタイガに深く口付ける。口腔内を舌で弄り、たっぷりと堪能して。 「タイガは、オレのものなんだ」 オレには、お前だけなんだから。 そう告げたオレの目は、今どんな色を宿しているのだろう。 もう一度、目の前の唇に自分のそれを寄せれば、恐怖に戦いた瞳と一瞬だけ視線が絡んだ。 20130220 ――― 移転一発目がこれって……あとなにが何が書きたかったの私。 [back] |