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※4月5日今青の日記念!



 「…じゃあ、あんたはオレと離れても平気だって言うのかよ」
 「せやかてしゃあないやん、ワシが卒業するんも自分がこのまま高校なんも、変えられへんことやし」

 本当は、今吉だって泣きたい気分だったのだ。けど恋人の前でそんな惨めな姿を晒すようなことは、今吉の性格では絶対に出来ない。だからもう、突き放すような言い方しか思いつかなくて。

 「……わかったよ」
 「あおみ、」
 「あんたにとって、オレはその程度のヤツだったってことだろ!」

 踵を返し、走り去っていく青峰。しかし今吉は、青峰のことを追おうとはしなかった。

 「ええねん、これで」

 これが、正解やねん。
 自分でわかって理解して、その上でとった選択だ。間違えている筈なんて、絶対にない。
 もう見えない姿を求めるように先程青峰が去っていった方角を見据えた今吉の瞳から、一筋の光が流れ落ちた。







 入学式は、今吉にとって退屈の一言でしかなかった。内容のない学長の挨拶から、在校生やら来賓やらの話。どれもこれも聞いているだけで眠くなる、そんな内容。
 青峰やったら、確実に爆睡しとるな。
 内心呟いて小さく笑った今吉は、その笑みをすぐ苦笑へと変えた。
 自分から突き放して、終わらせて――それなのに、まだあいつのことを考えている。あいつのことばかり、思ってしまっている。

 「恋煩い、なんかな」
 「は?」

 知らず零れた言葉を、隣に座っていた自分と同じ新入生に聞かれてしまったらしい。訝しげに寄せられた眉に対して、何でもあらへんよ、と答えながら、今吉はまた、あの浅黒い肌を持つ男を脳内に浮かべていた。







 「ふぁ……ほんま怠かったわ…」

 会場を出、誰にともなくそう漏らす。事実そう思っていた生徒は少なくなかったようだし、聞かれて困るようなことでもないだろう。

 「ん?」

 と、サイレントマナーモードにしていた携帯電話から、淡い青色のランプが点滅していることに気が付いた。このランプの色も変えた方がええんかな、と一つ息を吐き出しながら、今吉はメールボックスの確認に入る。
 一件目は親戚からだった。入学おめでとうだとかこれからも頑張りなさいだとか、そんな在り来たりな言葉が並べられている文面。
 二件目は諏佐だ。結局学校は異なったが、入学式の日付は同じだったらしい。お疲れ、こっちも退屈だった――そう書かれているあたり、今吉が入学式を退屈だと感じていたことを予測していたのだろう。流石に、付き合いが長いだけのことはある。
 可笑しそうに笑った今吉はしかし、文章の一番最後、ついでのように添えられた疑問文に目を止めた。

 『青峰からは何か連絡あったのか?』

 そういえば高校の卒業式の日。青峰と入れ替わるようにしてやってきた諏佐に、今吉は涙を見られてしまっていたのだ。平気か、と問われ、何でもない、と答え――諏佐は青峰と擦れ違ったのだろう、状況を説明せずとも既に全てわかっているようだった。
 青峰、青峰か――…
 別れる、とは直接言っていない。が、自分としては自然消滅したものだと思っていた。三月頭、卒業式の日以来、青峰とは顔も会わせていないうえ連絡もとっていない。それならば、そう考えるのが妥当だろう。
 あの選択は、本当に正しかったのだろうか。今まであんなふうに、一人の人間に執着したことのなかった今吉が、唯一愛した人だ。人を愛することへの幸福、人から愛されることへの喜び――青峰という存在は、今吉に大切なことをたくさん教えてくれた。

 「――今頃思て、何になるっちゅーねん」

 選択を誤った、青峰を手放してはいけなかった――もしそうだとしても、だからどうしろと? もう青峰は、今吉のことなど吹っ切れているかもしれないのに。
 木陰に入り、しゃがみ込む。抑えた目頭は次第に湿り気を帯びてゆき、その指先を薄らと濡らした。
 と、そのとき。

 「…?」

 消えた筈の青いランプが、再び瞬いた。ハンカチで軽く目元を拭ってから、先程と同じ作業を繰り返す。開いた受信ボックス、表示されていた名前は――

 「あお、みね…?」

 青峰大輝。
 見紛う筈がない。昨年度、この受信ボックスを埋め尽くしていたその名前。それが確かに、画面に浮き出されていたのだ。
 入学おめでとう――そんなタイトルで始まる、青峰からのメール。

 『あんたももう、大学なんだな。まあテキトーに頑張れば』

 そんな、素っ気ない文面だったけど――
 そう思ってふと気がつけば、スクロールバーがまだ続きがあることを示していた。何かと思って急ぎバーをスクロールさせる。そこには――

 『すきだ』

 読み終えたと同時にかかってきた着信、それに思わず今吉は肩を跳ねさせたが。
 名前を確認しなくてもわかる、待ちわびた発信者。

 「青峰……?」

 呼びかけても、何も返ってこない。変わりに聞えてきたのは啜り泣きのようなわずかな音だけで。

 「あお、」
 「…会いたい」

 蚊の鳴くような、微かな声に息を飲む。

 「会いたい、翔さん――…」

 今、青峰は泣いているのだろうか。
 今、青峰は一人で肩を震わせているのだろうか。

 「ちっ、」

 軽い舌打ちと共に走り出す。目指す先は、青峰がいるであろうあの場所。
 もう、選択は誤らない。二度とあいつを手放すものかと、その一心で今吉は大学を後にした。




20130405
―――
4月5日は今青の日!ってことで今青!
今笠も今青も何故別れからの再熱的な話に…ワンパターンかよ…
この後の二人がどうなったかはご想像にお任せします、終わる!




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