※4月4日今笠の日記念! ※二人とも30才くらい 「隣、ええ?」 カウンター席で一人グラスを傾けていた笠松の隣を示しながら、眼鏡の長身男が声をかけてきた。 「別にいいですよ。空いてますし」 「おおきに」 軽く会釈し椅子を引く男は、一見人のよさそうな笑みを浮かべているように見えるが、同時に腹に一物ありそうな、そんな空気を纏っていた。 「ここにはよく来はるんですか?」 注文を済ませた男が己の頬に手をつき笠松に尋ねてくる。たったそれだけで魅惑的に見える、同性でありながらそんなことを考えた笠松は、頭の片隅で苦笑を零した。 「ええ、まあ。わりと来やすいんで」 「へえ、ほんならええ店なんやね。ワシは初めてやからようけ知らんけど」 「この辺りじゃ一番気に入ってますよ、オレはね」 フルーツ系のカクテルか何かだろうか、笠松の話を聞きながら、男は運ばれてきた細身のグラスに注がれる爽やかな色の液体を流し込む。注文したものから想像するに、もしかしたら気を晴らしたい気分なのかもしれない。 「今日は何かええことでも?」 笠松を横目で見遣った男が、ふとそう口にした。 「何でです?」 「何となく、粧し込んどる気ぃしたから」 「……まあ」 今夜は知人の結婚式に呼ばれていた。しかし、笑顔で溢れる会場や幸せ一色の新郎新婦は、笠松にとって目の毒でしかなくて。 「自分が結婚してへんから?」 笠松の左手に視線を送り小首を傾げる男に、笠松は小さく笑いながらかぶりを降った。 「そんなんじゃないですよ。二人のことは心から祝福してます」 「なら……何で」 男の声は何かを躊躇っているようにも聞こえたが、敢えて無視して何でもなさそうに笠松の声がそれに答える。 「オレは、一生に一度の恋を失ったから」 昔――高校時代に出会った、最愛の人。ずっとその人と共に生きていくものだと思っていたのに、自分の所為で相手を裏切らせてしまった。 「あれから悔やんで悔やんで――悔やみきれなくて、どんどんそいつでいっぱいになっていって。我ながら重症だなって思ったけど、こういうのは意識すればどうにかなるもんでもないだろ?」 レンズの向こう、男の瞳が揺らいだ。泣きたいような、笑ってしまいたいような――そんな色を浮かべて。 「…今更、なのかな。もう間に合うことはねぇのかな」 「笠松――」 「なぁ、今吉」 男――今吉の目を、笠松の潤んだそれが見上げる。泣いてしまうんじゃないか、頼りなさげなその肩に、今吉はそっと手を添えて微笑んでやった。 「あんときはお互い、まだ餓鬼やってん。せやから不安になって、怖くもなって――結果的に笠松はワシから逃げて、ワシは笠松を裏切った」 けどな。 何もついていない左手で相手の左手を握りながら、今吉の優しい声はまだ続く。 「何年時を隔てても、ワシらは答えを変えんかった。結局それやんな」 笠松は今吉を欲していて、今吉も笠松を欲している。 互いに互いでないと満たされない、それをよく理解している。 「――また、始めてくれるか…? オレと」 「当たり前のこと聞くな、阿呆」 二人の指が、きゅ、と確かに絡まった。 20130404 ――― キャプ×キャプの日記念、今回は今笠を選択させていただきました! こういう"何年越しの恋"みたいなの好きなので書いてて楽しかったです。あと下書きしたのにこのクオリティってほんと私なんなの。 [back] |