人間は空、飛べないんだよ


そんな声が頭上から降ってきた。
逆光で顔は見えないけど、並中の制服が見えて恥ずかしさに顔を赤くする。

ふっ、と小さく笑ってこちらに手を伸ばす。
どうしようかと迷っていれば、ん、と催促するように言われて手を握る。

意外にも力強く引っ張り上げられて一瞬倒れそうになるけど、日頃伊達にリボーンに鍛えられてるわけじゃない。




「あっ…ありが、とう」

「うん」




逆光で見えなかった顔が見える。
言えば、可愛いより美人に部類されるのかもしれない。




「人間は空、飛べないんだよ」




二回目のこの言葉に赤面する。
ああ、なんて恥ずかしいんだ。

増してクスクスと彼女は笑うものだから余計に恥ずかしくなってくる。

ちらりと顔を盗み見る。
……あれ?っていうかこんな人並中に居たっけ…?




「でも僕はいいと思うよ」

「…え?」

「そんなチャレンジ精神」

「いやこれは…!」

「僕も昔は空を飛ぼうとしたよ」

「いやだから…!」

「諦めたのは確か、兄に小馬鹿にされた時だったかな」

「あの……」

「今思い出してもムカつくよ。
空なんて飛ぼうとして恥ずかしい奴だな…だったかな」

「はぁ……」

「あの瞬間だよな。僕の空を飛ぶという事へのチャレンジ精神が無くなったのは」




楽しそうに話し出す彼女。

いや、それはいい。ただ、空を飛ぼうとしていたって誤解を解きたい。

あれもこれも全部、




「「リボーンの所為だ」」




………、……え?
今この人、リボーンって…。

いやいやいや、無いよな。

勘違い…だよ……な…?

でも目を見開き驚く彼女をみる限りは勘違いや幻聴と考えるには少し難しい。




「…あの、いま、…リボーンって…」

「言った」

「リボーンって、リボーン…?」

「兄を知っているの!?」

「うわ、」




ガシッと肩を掴まれよろければハッとしたように手を離し、謝った。

てかちょっと待てよ。

リボーンったって赤ん坊だぞ?
その赤ん坊の妹となれば…。

でも目の前の子はどうみても俺と同学年かひとつ上ってくらいだ。

多分、人違いだろう。




「おいダメツナ」

「あ…痛ぁぁぁぁあ!」

「!!」




噂をすればなんとやら。
後頭部に小さな足がクリーンヒット。

さっき、家の窓から目の前の道路まで蹴り飛ばしてくれた張本人だ。




「兄さん!」

「!!………、……」




痛む後頭部を押さえながら起き上がればそうそうに家に戻ろうとするリボーン。

あれ。今この子、リボーンを見て兄さんって言ったよな?

……いやいやいやいやいや!

……え、いやいやいやいやいや!

万に一、いや億に一、この子の兄がリボーンだとしてなんでリボーンは逃げるんだよ。




「兄、さん…!」

「さっさと帰るぞダメツナ」

「え?この子お前の…」

「よくも…よくも……。

颯爽と姿を消してくれたな!
今まででもろくに家に姿を見せなかったくせになにが少し家を開ける、だよ。

ええ?

しかも可愛い妹が苦労して会いに来たのに他人のフリをするのかい、兄さん?」




今更かもしれないけど思った事はこの子の喋り方がすこし男の子みたいだって事。

一人称が僕だからかもしれないけど。

…まさか。まさか実は男の子




「なわけねーだろダメツナ」

「な!心読むなよな!リボーン!」

「……、…まぁ、なんだ。あがってけ」

「ありがとう、兄さん」




途端にへにょりと笑う彼女。もしかしたらリボーンの弱点なのかもしれないと思った。




「兄さんが家庭教師するのって君だったんだね」

「あー…うん…」

「……空、飛べるといいね」




花が咲くように笑った顔は無邪気で、こう言われたら本当に空が飛べる気がした。


















「あ!ビアンキ姉さん!」

「!!ななしじゃないの!」

「姉さんまで姿が見えないと思ったら兄さんと一緒に居たの」

「ええ、私がリボーンを追いかけて来たの。
落ち着いたら貴方に会いに行こうとしたのだけど…、リボーンに止められて…」

「大丈夫よ、姉さん。
寧ろ姉さんが居たなら心配する必要なんかなかったね」

「おいななし。ところでお前がなんで並中の制服を着てんだ」

「明日から転校するからだよ」

「え!」

「元はといえば並盛周辺に兄さんが居るって情報しか無かったから通う予定だったんだけど……」

「いいじゃない、別に」

「余計な事言うんじゃねぇビアンキ」

「兄さんがなんと言おうと僕は並中に通うよ。
イタリアでひとりぼっちなんて寂しいからね。
それに年相応の青春をエンジョイしたっていいじゃない…!」

「……」

「…と言う事でダメツナくん、よろしく」

「なぁ!俺は沢田綱吉だよ!!」

「じゃあよろしく、綱吉くん」




花咲くような笑顔に胸の奥が僅かに音をたてた。




 end



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