私は気づいてしまった。群れるのを嫌う彼の目の奥の感情に。
それは寂しさに近かったけど、あの感情を寂しさと言うにはぴったりではなくて、泣きたそうなわけでも、恐怖でもない。

ただその目をみた時に私が感じた情と言うのは、言えば、雨に打たれて尚、生と死の二つを感じ、見据えた捨てられた子犬に寄せる哀れみを含んだものに近いのかもしれない。
でも彼が生と死の二つを見据えた子犬とは言い難い為、ちゃんとはわからない。

群れるのを嫌うと言えど慣れればどうやらあまりうるさくはなかった。
まぁ、私1人だからかもしれないが。

仕事の邪魔にならない程度に世間話をし、時折コーヒーを淹れたり簡単な手伝いをしたり、そんな風に応接室で放課後を過ごすのは既に私の日課になっていた。

私や草壁さんが居るときの彼はどことなく満足…と言うのは少し違うのかもしれないが、言うなれば満足気で。

そんな顔が嬉しくて。

今日も、ほら。
本当に僅か 2mmか3mmだけあがったか口角。目は伏せてしまっているから見えないが、普段の彼に比べたら幾分も 幾分も柔らかいのだと思う。

そう思い、微笑みを浮かべた時。雲雀さんは伏せた瞼はそのままでぽつりと、その表現どうり言葉を零した。



「ねぇ、いかないでよ」



あまりにいきなりだったもので、目を見開き驚くと彼はまた、同じ言葉を零した。



「私はここにいますよ」

「……そう…」



居る、それを自分で確かめるように自分の腕を握りながら言った。それでも雲雀さんは納得しない。
でもなぜ納得出来ないかがわからずに居たようで、僅かに開けた瞼の奥から瞳を覗かせ私を見据えた。


「私はできる限り貴方のそばにいます」



そして、満足気に笑っている貴方を見ていたい。

一度見つけてしまった子犬はそう、捨てられるものではない。
雲雀さんがああやって笑うのは、そこに私が居たからだと思う。

自惚れなのだろうか?



「…君はくだらない綺麗事ばかりをのべないんだね。
絶対にそばにいる、なんて出来もしない嘘はつかない」

「嘘なんかついてどうするんですか。
嘘は必要な時だけでいいんです」

「……、…そう かもしれないね」



ギィ、と音を立てて雲雀さんは高そうな椅子に背中を深く預けた。



「ずっと、でも、絶対、でもないです。
完璧はありません 絶対もありません。
でも、それを有ることにしておく嘘はあります」

「嘘を、つくのかい?」

「必要な嘘です
嘘が無くては貴方は頷かないでしょう?」

「ハッ…確かにね。
……ななし、僕のそばに一生いなよ」

「はい」



そんな私の心に浮かんだのは、愛。
愛なんてわからないけど、きっとこれが愛と呼ぶに相応しい感情。

ねぇ?雲雀さん。私は一生貴方のそばに居ますから、私が居るときにはその満足気な顔を見せてくださいね。

いつか私が居なくなった時は、満足気な顔は出来ないかもしれないけど。月並な言葉で戯言になるかもしれないけど、また満足気な顔を見せられる相手を見つけてください。

どうもこう、湿っぽく、ぐちぐちと難しくなってしまうのはきっと一目みた時から貴方に"コイ"をしてしまったからかしら。









 end



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