短編 | ナノ

私にはベグライターがいる。

ユキカゼが死んで、それ以来、私はベグライターをつくらなかった。
カツラギ大佐がいる為、支障はない(大佐には悪いが)。つくる必要もなかった。否、もう二度とあのような思いはしたくなかったというのが本音だったのかもしれない。

それからというもの、私は誰も近付かせないようにした(元々大勢の者と馴れ合う性格ではなかったが)。
誰の差し金で来るのか、ほぼ毎日のようにベグライターとして来た者は容赦無くクビにしてきた。そうして、ベグライターとして来る者は次第にいなくなっていった。





ある日、私はミロク様に呼ばれ、ベグライターを紹介された。
正直、余計なお節介だ。
この老いぼれが言うには、とても優秀で、事務処理は勿論、戦闘も出来るベグライターだという。性格も良く、容姿も良く、彼女をベグライターにしたいと申し出る者は多かったらしい。
断る事も出来ず、仕方なく彼女をベグライターとした。きっとすぐに止めるだろうと思っていた。今までがそうであったのだから。





「アヤナミ様、会議の時間です」


だが、一ヶ月経った今も、彼女は未だに私のベグライターをしている。
その理由はもちろん優秀で、気が利くというものだが、いつの間にか、この短期間に、私の中で大きな存在になっていた、というのが本当の理由だ。


「もうそんな時間か、」


区切りのいいところで書類にサインをするのを止め、お気に入りの万年筆を仕舞った。





会議室までの廊下を二人で歩く。彼女は自分の少し斜め後ろを歩いている。
カツカツと二人の靴音だけがこだまする廊下。私はふと足を止めた。


「・・・アヤナミ様?」


私が止まったことに不思議に思った彼女が首を傾げてこちらを伺う。
それをじっと見つめ、何かを言おうと口を開いて、止めた。
言いたかった言葉が見つからず、どこかへさ迷って消えた。
目を細めて彼女をもう一度見ると、私は前を向き直り、会議室に向けて歩きだした。
少し遅れてから、慌てた靴音が追い掛けて来る。





「アヤナミ様」


透き通った声が心地好く耳に響く。顔を書類から上げると、コーヒーをちょうど煎れて運んできた私のベグライターが目の前でカップを差し出していた。
それを受け取って、一口飲むと机に置いた。


「美味しいな」

「アヤナミ様に言われると凄く嬉しいです」


ふふっ、と柔らかく笑う彼女を見ると、心が安らんだ。
どうしようもなく愛おしく感じる。その笑顔を自分だけのものにしたい、と。私の中で、いつの間に、こんなにも彼女への気持ちが膨らんでいたとは。
そういえば、先日ヒュウガに、最近笑うようになった、と言われた。それも彼女の影響かと思うと、驚きつつも、頬が緩む。
ふと会議の議題を思い出し、ふっ、と笑みが零れた。


「どうかなさいましたか?アヤナミ様」

「・・・光触媒を知っているか?」

「はい、少しですが」

「今日の会議の議題で上がったのだが・・・」


国のエネルギー源を確保する為の対策として、光触媒とザイフォンの二つが仮の候補で上がった。結局、結論は出ぬまま持ち越しとなったわけだが、


「光触媒を考えていて、まるでお前のようだと思った」

「え?・・・な、何故私が光触媒に、」

「私はお前といると、化学反応を引き起こさせられる。お前が私を変えてくれる。もちろん、いい方向に、だ」

「・・・アヤナミ様、」


そうだ、私は変わった。それは自分でも理解している。それが彼女のおかげであるということも、私はわかっている。
そして、私は彼女を愛している。この想いが届いているのか、はたまた気付かれていないか、行方はまだ私にもわからぬ。だが、このもどかしい時間さえも、私にとっては大切なもので、壊したくない。いや、ただ恐れているだけかもしれぬ。
それでも、


「私が光触媒と言うのでしたら・・・」

「アヤナミ様は、私にとって、光ですね」


私は彼女を愛している。





(ゆっくりと)
(深く)


-----キリトリ-----
箒星』さまに提出。
(初)企画参加、ありがとうございました。

光触媒・・・光を吸収すると、他の物質に化学反応を引き起こさせる触媒機能をもつ物質。

 

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