A子さんの盤上遊戯 | ナノ
-SIDE 蔵ノ介-
中学生とは思えない程に艶(なまめ)かしい肢体は、俺を誘った。
どうしてこんな事になったんやろう?
甘やかな艶を増した吐息に欲情する。
昼間は楚々とした淑女が娼婦に変わる瞬間を身を以って体験した気分や。
切っ掛けは謙也だったと思う。
アイツだけは柚妃をマネとして認めておらんかった。
女嫌いもあるんやろうけど、その謙也が自分から目の前で俺を誘惑する女に声を掛けて行くのが不思議でならんかったんや。
柚妃は、毎日俺等のサポートをしているだけあって、自分よりも他校のマネと仲良くなるのが悲しかったんやろうな。
「考え事、出来ないようにしてあげる。」
嫣然と艶やかに宣言を下した女は、宣言通り俺の意識を快楽の海に落とした。
その手の経験が少ないわけでもないのに、この女は男を悦ばせる方法を熟知している。
こうして俺は山田栄子の虜になっていった。
最初は身体だけだと言い聞かせていたが、山田栄子には柚妃以上の魅力があったんや。
よく観察すれば柚妃はマネの仕事を殆どしとらん。
それに比べ山田栄子は、きちんと選手のサポートをしていた。
これで正マネじゃないというのには驚きやったわ。
ミーハーという言葉から一番縁遠い女やね。
何せ俺と寝た理由が
「欲求不満解消に決まっているでしょう。」
の一言でバッサリと斬り捨てたんやしな。
まぁ、立海の部長さんとかなら喜んで相手してくれそうやけど…
とそれとなしに聞けば彼女は
「好意なんて面倒臭いもの不要(いら)ないもの。その点、貴方は私を嫌っている。いえ、快く思ってないわね。だからかしら?後腐れがないのが一番よ。」
潔くキッパリと斬り捨てた。
ほんまに漢前過ぎんで…
-SIDE 栄子-
お年頃って事かしら?
そんな一言で済ませるなって言われてもねぇ…
ふふ、男を誘惑して虜にするなんて造作もない事よ?
あのチビちゃんが私を鬼の形相で見ているわ。
あははは、自分の王子様と信じていた人を盗られたんだもんね。
でも、本当に彼は貴女の王子様だったのかしら?
快楽に溺れさせて、抜け出せないようにしてあげた彼は立派な私の下僕。
人目を盗んで行為に及んでいると思っているのは、チビちゃんと彼だけよ。
貴方達以外は私が彼と事に及んでいる事は知っているもの。
といっても恋愛感情なんて甘ったるいモノは存在しないんだけれどね?
「なぁ、栄子。俺のモノになってや。」
狂気と欲望を宿した眼に私は予定通りと細く嘲笑(ほほえ)んだ。
「そうやって笑うだけや…栄子はどうやったら手に入るん?俺やったらあかん?」
ずっと、ずっと傍におるさかい…
と愛を請う彼に私は
「君には竜胆さんがいるじゃないか。私は一時だけの関係で終わる薄っぺらなものなのよ。」
クツクツと嗤った。
「アイツなんか要らへん。栄子さえ居ればそれで良え。」
あらあら今まで大事にしてきたチビちゃんをアッサリと捨てるのね。
ふふ、そう仕向けたのは私だけれども!
「……蔵ノ介、 ……」
今まで一度も呼んだ事のない彼の名前を呼べば、彼は嬉しそうに笑った。
まるで喜劇だね。
チビちゃんが、どんな行動で私を愉しませてくれるのか凄く期待しているの。
だって、南国の島(バカンス)にいるんだから起爆剤(スパイス)があっても良いでしょう?
ねぇ、性春(せいしゅん)しましょう?
だって、私達お年頃なんだもん。
なーんてね!