転職 プログラマー A子さんの盤上遊戯 | ナノ

俺の視線の先は、飛び入りでこの合宿に参加させられた少女に向けられている。

心底面倒臭いとブツブツと文句を言う割にはクルクルと動き回って選手のサポートをする彼女の名前は山田栄子。

それに比べて四天王寺のマネは何もしてなかった。

している振りだけは上手だと思う。

「謙也ったら此処におったんやね。蔵が呼んでおったで?」

コテンと首を傾ける見た目小学生のマネにウンザリとする。

ほんま、コイツの何処が良えんかサッパリ理解出来んわ。

ミーハーを必死で隠してるんバレバレやん。

「今から行きますわ。」

犬を追い払うようにシッシと手を振れば、何を勘違いしたのかロリマネは

「蔵に気ぃ使こうてんねんなぁ。うちは謙也も好きやで!」

明後日の方向に会話が飛んだ。

話が通じない宇宙人と会話しているみたいだ。

此処でコイツに文句を言っても良い方向にしか捉えないボジティブさが忌々しい。

俺は奴を無視して簡易コートに向かった。

後ろでロリマネが何か言ってるが俺は無関係や。

あんなんの何処が良えのかホンマ謎じゃ。

「ウザいっスね。」

忌々しく呟いた俺の言葉に

「彼等が?それとも彼女が?」

いつの間にかドリンクとタオルを持って立っていた山田栄子。

問いに答えない俺に彼女は飽きた様子で

「水分補給しないと熱中症で倒れるわよ。」

タオルとドリンクを手渡して立ち去ろうとした。

普通の女子の反応なら頬を染めるなりするんじゃないだろうか?

「何でこんな面倒臭いことしとんの?」

ぶっちゃけマネなんて面倒以外に何物でもないだろうと思うんや。

山田栄子は物凄く嫌そうな表情(かお)で

「仕事だからよ。ドMでもないのに嬉々としてムサ苦しい奴等の面倒を見るなんて拷問じゃない。仕事じゃなきゃ世話なんてしないわよ。」

キッパリと言い切った。

俺が言うんも何やけど、男としてのレベルが高いと思うで?

アイドルグループ顔負けやと思う俺等を捕まえてムサ苦しい野郎に一括りする山田栄子は変な女やと思ったわ。

でも、悪ぅない。

あんなミーハーロリ女より山田栄子の方が何万倍も魅力的や。

「なぁ、手伝ってくれへん?」

俺の誘いに山田栄子は嫣然と笑い

「ふふ、あははっは!良いわよ。但し、どうなっても知らないわよ?彼女も君の大事な仲間も壊れちゃうかもしれないけど、ね。」

サラリと告げる残酷な言葉。

ほんまに面白いわ。

従兄弟が嵌った気持ちが解る気がするわ。

「壊したかったら壊せば良え。あんなんに熱を上げてる奴等なんか要らん。」

山田栄子の腕を引っ張り掠めるように唇を奪った。

彼女は平然とし

「役作りするなら本格的にね。」

胸元をグイっと引っ張られ貪るような口付けをされる。

翻弄されるような濃厚な口付けに俺は情けなくもへたり込んだ。

さして彼女は俺の事を気にする事なく、サッサと持ち場へ戻る後姿をただ見ているだけ。

絶対今の俺の顔は真っ赤だと思う。

あー山田栄子を使ってあのマネを突き落とそうと思うたんやけど、こっちが喰われてしまうわ。

まぁ、それも良えかもしれん。

きっとこれから面白くなる。


少年は、クツクツと愉悦を浮かべて嗤った。

最高の女(役者)が舞台に上がったのだから。