A子さんの盤上遊戯 | ナノ
これは間違いなく不幸の手紙だったと思うのよ。
事の発端は、会社関係のリゾート開発の下見という名の視察だった筈。
決して癒される為の南国旅行では無かった。
何でも屋を立ち上げて上場株になった安定した頃にもう少し手を伸ばしてみようかな、と欲張ったのが敗因の元だと思う。
跡部の援助もあって断れなかったのも言い訳だわ。
豪華客船に何故奴等がいる?
夏休み真っ只中で暑苦しい青春でもしてろ!
とばかりにテニスコート走り回るのが仕事の奴等が、何故豪華客船にいる?
親睦会という名のパーティだったと私は記憶しているのだけれど…
「お、栄子じゃねーか!」
ギューっと突進して抱き着いて来る丸井ブン太に
「お、も、い!丸井、今後からは丸太って呼ぶわよ?」
暗に退けと言えば
「それも最悪だっつーの!マトモな渾名はないのかよ?」
華麗に突っ込みを入れた。
出会った当初はボケ体質だった筈なのに突っ込みを即座に入れれるようになったのは、やはり周りのお陰か。
立海は突っ込みが少ないから貴重なんだよね。
いつもはジャッカルやたまに柳生にボケ突っ込みをマスターしている後輩の赤也ぐらいだろう。
確信犯的なボケをする幸村に天然ボケの真田、観音様の如く観察と称してスルーする柳と面倒臭いの一言で済ませる仁王。
碌な奴等じゃないわね。
「最近、会ってなかったものね。」
副韻に“俺に逢いに来いよ”という声が聞こえたが無視ムシ。
「栄子、暑いぜよ…マー君、溶ける…」
グッタリと半屍化している仁王を背負いつつ
「お久しぶりです、栄子さん。栄子さんは旅行ですか?」
爽やかとは程遠い胡散臭い笑顔で疑問を根掘り葉掘りぶつけてこようとする紳士こと柳生に
「いや、取引先から親睦会に御呼ばれしていたんだよ。折角の夏休みなのに(無駄にムサ苦しい)貴方達がいるのかしら?」
跡部印のパーティの招待状をペラリと見せた。
彼等は興味津々とばかりに招待状を見ている。
「この開催地って合同合宿じゃね?」
丸井の言葉を肯定するように
「跡部財閥のリゾート施設だしな。」
駄目押しをした。
「…ちなみに合同合宿って何校あるのさ?」
跡部、五体満足で本国に戻れると思うなよ?
「全部で9校だ。知りたいか?」
ノート片手にニヤリと笑う柳に私は引き攣った笑みでいらないと返した。
「栄子、立海のマネ宜しくねv」
語尾にハートを飛ばす幸村に私はガックリと肩を落とした。
此処は海のど真ん中。
どう足掻いても逃げられねー!
うふふ、跡部ブチ殺すわよ。
招待状…
それは一人の少女を地獄に落とす不幸の手紙。
地獄の死者?
それは、アナタが良く知っているヒトよ。
さぁ、演目が始まるわ。