A子さんの盤上遊戯 | ナノ
-SIDE 栄子-
「あら、アホ部。御機嫌よう。」
丹精な顔がヒクリと引き攣った。
私はシレっとした顔で珈琲を啜る。
「随分な挨拶だな、栄子。」
青筋を立てて睨んでも全然怖くないわよ。
「茶ぐらい出さねーのかよ。」
ブツブツと文句を言うお坊ちゃまに私は飲み掛けの珈琲を置いて簡易台所へ向かった。
生温い水の入ったグラスを跡部の目の前に置けば秀麗な顔が渋面に歪む。
「氷ぐらい入れろよ!」
「我侭なお坊ちゃまね。水を出してあげただけでも感謝して欲しいわ。」
嫌なら自分で用意すれば?
と簡易台所を指せば渋々と彼は温い水の入ったグラスを手に取った。
本当に可愛いんだから!
まぁ、そんな馬鹿な事はどうでも良いわね。
そろそろこの茶番も終わらせたいし私は跡部に切り出した。
「そうそう、そろそろ騒がしくなるから。」
邪魔するなよ、と釘を刺す。
だって邪魔されたら詰まらないでしょう?
私が!
私の夏休み(バカンス)を不意にしてくれたんだもの。
あの娘は可愛いお姫様!
バリバリと極悪非道の魔女(私)に食べられちゃう運命なのよ。
な〜んて、ね?
-SIDE 跡部-
山田栄子との付き合いは他の奴等に比べて多い方だろう。
それはビジネス限定になるが…
目の前にいる女は、自分の価値を誰よりも理解している。
全て計算の上で俺達は踊らされているのだ。
「何を企んでんだ?」
歪曲に問質しても栄子は煙に巻く。
直球であれば彼女は割とアッサリと答えをくれるのだ。
案の定、栄子は嫣然と笑みを浮かべ
「からくりサーカスの上演かしら。」
悪趣味な栄子の遊戯に
「良いご趣味だな。」
嫌味を吐けば、栄子は良い笑顔で
「当然でしょう。」
嗤った。
退屈と零し、暇潰しと称して人で遊ぶ彼女の遊戯は、極悪非道そのもの。
でも不快には感じなかった。
いや、感じさせない栄子の独特な雰囲気だろう。
山田栄子は自分の起した行動には責任を持つ。
行動に伴う責任と義務を当然とばかりに背負うのだ。
同世代の奴等は勿論、俺みたいな財閥の跡取りとして教育された者でも見なかった事、無かった事にする事が多い。
だからこそ栄子の行動を悪趣味だと思っても彼女自身を嫌悪する事はない。
「彼女は主役でお姫様だもの。」
ふふ、と嫣然と嗤う栄子に俺は目を付けられた四天王寺のマネに同情した。
まぁ、介入するつもりはないが
「俺は になってやるよ。」
クツクツと笑いながら栄子の提案に乗る。
栄子は目を細め妖艶に微笑んだ。
その姿はまるで妖しく魅了する花の如く