いきなりBASARAの世界に飛ばされた不幸な少女です。

飛ばされた先が森で、落ち武者に乱暴され絶望を味わい、食う物に困って生死を彷徨った憐れな少女です。

不幸は続き、保護してくれた先では何処かの間者なのではないか?と始終見張りが付き息苦しい毎日を過ごす日々が続いています。

そして誰も私の名前を呼んでくれません。

それでも私は生きたかったのです。

死にたくありませんでした。

だから精一杯笑顔で明るく人当たりの良い人を演じました。

どんなに蔑まれても嫌われても能天気に笑うようにしました。

いつかきっと受け入れてくれるのではないか?

と期待しながら!



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私がトリップして数年の月日が流れました。

いつしか私が間者でないと警戒が解かれ、周囲の人も私を受け入れてくれました。

「ハルキ殿」

と名前を呼ばれる度に私は嬉しくなります。

それは認められた証だと思ったから。

「幸村様、如何されましたか?」

ニコリと微笑みながら幸村様の顔を見れば、何故か顔を赤くして

「そ、その一緒に甘味処へ行かぬか?」

お誘いをして下さいます。

お仕事で忙しいにも関わらず憐れな私に気を使って下さる年下の彼は優しい人なのです。

私は

「有難う御座います。ですが、一介の使用人である私がお供をしても宜しいのでしょうか?」

城下と云えど何が起きるか分からない。

幸村様の御身をお守り出来る事は出来ないのだ。

盾にはなれるのだろうけど…

「構ない。その、ハルキ殿さえ良ければ…」

そう仰られる幸村様に私は

「分かりました。支度をして参りますので少しお待ち頂けますでしょうか?」

と断りを入れた。

幸村様はそれを快諾して下さり、私は支度をしに一度場所を離れる。

支度と同時に幸村様に仕えていらっしゃる佐助様に声を掛けた。

「佐助様、幸村様と城下へ行っても宜しいでしょうか?」

これは私と佐助様の暗黙の了解になっている。

佐助様は

「構わないよ。俺様のお土産も買ってきてくれるかい?」

出逢った当初と違い気軽に外出許可を出してくれるようになった。

それでも私一人での単独行動は許されていないのだけれども。

「はい、楽しみにして下さいね。」

私はニコニコと笑って幸村様の元へ駆けていく。




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倖せな時間は一瞬で崩壊しました。

私と同じ世界から来た同胞の彼女は天女として愛されたのです。

どうして彼女は不審に思われないのですか?

どうして彼女を天女と崇めるのですか?

疑問符ばかり浮かんでは消える繰り返しで、幸村様達が彼女の言いなりになって行くのが耐えられませんでした。

幸村様や親方様達のお心は天女様の虜になられ、周囲に何と言われているのかご存知ですか?

甲斐の虎は天女の飼い猫に成り下がった…と。

天女様の説く「人を殺めてはならない」、「戦は憎しみしか生まない」、「争いはダメだ」と乱世では命取りの言葉を鵜呑みになさるのですか?

私とて現代人でした。

だからこそ命を奪う行為が怖いと思うのは致し方ないと思うのです。

しかし彼女の言葉は薄っぺらいものだった。

このままでは武田は天女と崇められている彼女によって滅亡の一途と辿る事でしょう。

唯一彼女を良く思ってない佐助様に

「佐助様、私に戦い方を教えて下さいませ。」

弟子入りしたのです。

幸いにもこの世界に来てから体力は人並み以上についたせいか、修行を苦に感じませんでした。

「ハルキちゃんが無理する事ないんだよ?」

そう慰めて下さる佐助様に

「私は私の出来る事をしたいのです。」

と笑うのです。

鍛錬所に顔を出さなくなった幸村様達と入れ替わりに女の身でありながら一緒に訓練させてくれと土下座して何とか鍛錬所に通い続けた私。

同じ下働きの同僚達は毎日こさえて来る傷に顔を顰め

「女の子なのだから、もっと自分を大事にしなくちゃ。」

と心配するのでした。

綺麗な着物、綺麗な玉で着飾った天女様は私達を蔑んだ目で見るのです。

現代から来た彼女は彼等をキャラクターとして見ているのでしょうね。

でもこの世界は現実なのだといつか思い知る時が来るのでしょう。

彼女の評判と連座して幸村様達の評判も地に落ちて行くのが哀しかった。




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伊達軍との戦に正直、私は負けるのではないかと不安でなりませんでした。

一つの要因として、今まで鍛錬を怠っていた幸村様が果して伊達政宗に勝てるのでしょうか?

もう一つの要因として、天女様と崇めている彼女を戦場に連れて行く事です。

正直、戦う術を持たぬ人間を守りながら戦うのは熟練者でも厳しいものだと聞きました。

私は幸村様の部隊に配置され万が一は盾に成る事を誓ったのです。

「ゆっきー頑張ってねv」

ニコニコと暢気に笑う天女様に殺意が湧きました。

武田軍を腑抜けにした張本人が!

とこの場で切り捨ててしまいたいぐらいです。

しかし、一介の兵である私がそんな事を許される筈も無く、私はキツク拳を握って耐えました。

戦の合図が響き渡り戦場に緊張が走ります。

私も覚悟を決めて剣を抜き敵に向かいました。

何人斬り捨てたのか覚えてません。

ただ必死に勝利を目指したのです。

BASARAを使えるわけでもない私ですが、現実の世界での知識をフル活用し味方を鼓舞して立ち向かった。

幸村様が伊達政宗と衝突し斬られる寸前の所で私は体を滑り込ませ

「幸村様っ!!」

血で染まった剣で刃を防いだのです。

非力な女の力では押し負けてしまうと冷や汗が流れました。

どうせ死するならば相打ち覚悟で私は刃な薙ぎ払い捨て身の覚悟で間合いを詰め斬り付けました。

しかし相手は百戦錬磨だけあり、私の刃は彼に届く事なく斬り捨てられたのです。

「ゆき、むら様っ!お逃げ下さいませっ」

最後の力を振り絞って、佐助様から頂いた煙幕を使い目くらましをしました。

逃げてくれると良いのですが…

薄れ行く意識の中で

「ハルキ」

と悲痛に私の名を呼んだのは誰なのでしょう?



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何故生きているのだろう?

私は戦場で斬られた筈なのにと…

見慣れない部屋に私は困惑した。

「此処は奥州だぜ。」

いきなり部屋に入ってきた伊達政宗に私は警戒を露にする。

「そう警戒すんなって。アンタは殺すには惜しかった、ただそれだけだ。」

ケラケラと笑う伊達政宗に私は呆れた視線を向けた。

「そうですか…ですが私は武田軍の情報は何一つ持ち合わせておりませんよ。」

本当に単なる一平卒ですしね。

真っ直ぐと彼を見て宣言すれば

「別に情報なんざ要らねぇーよ。俺はアンタが気に入ったから手元に置きたいから連れて来た。それだけだ。俺は伊達政宗。アンタは?」

気安く自己紹介された。

奥州筆頭に名乗らせて私が名乗らないなど礼儀の欠いた事などしたくなく仕方なく

「私はハルキと申します。敵を懐に入れるなど寝首を掻かれても知りませぬよ。」

と警告すれば

「アンタみたいな良い女なら大歓迎さ!」

と馬鹿にされてしまった。

まぁ、私の力量では傷一つ付ける事も不可能だろう。

こうして奥州での生活が始まり、三ヶ月が経過した頃、武田が上杉と衝突し敗れたと知らせが届いた。

その知らせに私は愕然とし涙を流す。

幸村様は、親方様は、佐助様はご無事だろうか?

否、敗北した将は死を意味するのだから無事な筈がない。

「正宗殿、一つお伺いしたい。武田軍の将達はどうなったか教えて頂けませぬか?」

私の言葉に正宗殿は

「……猿飛以外は皆、討ち取られたと聞くぜ。」

淡々と事実だけを述べてくれた。

そうか、佐助様は生きておられるかもしれない。

ならこのまま何処かで生きていてくれれば良いのだけれど…

「あと、天女と崇められた女はどうなりましたか?」

私と同じ世界から来た忌まわしき同胞の生死を問えば

「上杉の所で持て囃されているそうだぜ。」

図々しくも生き永らえていると知った。

とても赦せるものではなかった。

武田を滅ぼした元凶であるお前こそ死ねば良かったのだ!

もう仕える主君もおらず、私を支えるのは復讐という二文字のみ。

私はプライドを捨て

「伊達政宗様、私を伊達軍の一員にして下さいまし。」

頭を下げた。

「それは俺に忠誠を誓うってことか?」

試すような彼の言葉に

「いいえ、私の忠誠は亡き幸村様のみで御座います。ですが、あの女狐を私の手で殺すまで生き永らえねばなりません。その為には何でもいたしましょう。」

きっと目の前の男は偽りの忠誠など不要だろう。

嘘を吐けば斬り捨てるような男だと短い間ではあるが知ったのだから!

私の答えに満足したのか、政宗殿は高らかに笑い

「いいぜ。天女の皮を被った女狐を仕留めたらお前は俺のものだ。」

と宣言した。

私は頭を垂れ

「御意」

是と返事をする。



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私が伊達の配下に下ってから半年が経過した頃、政宗殿が用意した青の鎧を纏い上杉軍と戦う事になった。

私は先陣を切り本陣を目指す。

「勝利は我にあり!」

鼓舞し士気を上げ前に前進した。

一心不乱に敵を切り捨てて行く。

政宗殿と合流し、本陣まであと一歩と云う所で忍びである春日に邪魔をされた。

「政宗殿、此処は私が何とかします故、先に行かれよ!」

BASARAを使えない上に忍びである彼女を相手にするのは私では荷が重過ぎる。

彼女を足止め出来れば勝機はあるのだ。

戸惑う政宗様を

「勝利を逃されるのですかっ!!」

叱責し本陣へ向わせた。

「此処からは私がお相手仕る。」

武田の皆様を死に追いやった女狐を仕留めるまでは私は死ぬわけにはいかない。

春日と何度か刃を交える中で私の方が圧されて行く。

負けると思った瞬間

「ハルキちゃんっ!」

懐かしい声がした。

切り裂かれる衝撃もなく目を開けると懐かしい人が立っていた。

「佐助様…」

春日の刃をクナイで受け止めている佐助様がそこにいたのだ。

「此処は俺様が何とかするからハルキちゃんは、あの女を討つんでしょ?行きな。」

どうして生きているのか?

とか色々と聞きたい事はあったが、私は全部飲み込んで

「佐助様、どうかご無事で!全てが終ったらキチンと話して頂きますからね!」

私は政宗様の後を追って本陣へ走った。

本陣では政宗様と上杉謙信が激しい戦いを繰り広げていた。

その後ろで豪華絢爛な衣装を纏った天女と呼ばれた女狐がいる。

「武田を惑わした女狐よ、その命頂戴する!」

彼女を守るように兵士達が私に向ってくるが私は彼等を迷う事なく斬り捨てた。

「ヒっ!」

と悲鳴を上げた彼女に私は嘲笑を浮かべ

「此処は戦場…死が怖いのであれば城にでも引っ込んでいれば良いものを!」

剣を喉元に突き付けた。

「わ、私は天女なのよ!こんな事が赦されるとでも思っているの?」

何処までも愚かしい戯言を吐く女狐を私は容赦なく斬り捨てた。

勿論、急所は外してある。

楽に死なせてやるものか!

政宗様の方も決着が付いたのか私の傍に来た。

「あ、あぁ…助けて、死にたくないっ!!痛い、痛いよ…」

必死に政宗様に手を伸ばす女狐の手の甲を容赦なく剣で突き刺す。

「ギャーーーーーー痛い!痛い!痛いぃいいー」

天女と呼ばれた面影すらない取り乱しように

「こんなブスが天女と呼ばれてたなんざ世も末だな。」

と嘲笑を漏らした。

天女と呼ばれた少女は政宗の言葉が信じられないと謂うような顔をする。

そうね、貴女は武田と上杉を誑かした天女様だったのでしょう?

でも残念、政宗様にはその魅力は伝わらなかったのね。

だから

「死んで下さい。」

私は極上の笑みを浮かべ彼女の胸を剣で貫いた。

断末魔が何て心地良いのでしょう?

そう思う私は、もう狂ってしまったのですね。


後に伊達が天下統一を果した。


<欲は際限がありませんね。天女と呼ばれたAliceは、彼女によって天に返されたのだからそれもまた結末の一つなのでしょう。 著者:語部少女>


※佐助は、そのまま伊達軍に引き取られてます(笑)