夫婦になった兄弟 | ナノ


▼ 21 体が変になった ※

医術師から俺のことを「普通の男子だから身ごもる可能性はほぼゼロ」と言われて以来、兄はいっそうやる気に満ちていた。
今だって朝風呂の最中だというのに、俺は散々な目に合っている。

「あっ、んあっ、はぁっ、だめえっ」
「こらユータ、逃げるな、奥まで入らんだろう」
「だってっ、夜もずっと、したのにぃ……っ」
「そうだな。ふふ。だからお前の色香が漂い続け、俺を誘って離さないのだ。ほら、もう出すぞ、ユータ」
「……や、やあぁ、またっ、……んあぁあ!」

最初は体を洗われてただけなはずなのに、風呂桶近くのシャワーのように湯が落ちてくる場所で、ケージャは後ろから俺を捕まえて交わりを行っていた。

中に射精されると同時に達してしまい、びくびく腰が震える。

「ばかあ……もうやだって言っただろ……」
「……そうか? 体は真逆のようだ。俺の逸物が好きになってきたのだろう?」

まるで悪びれない兄の唇が、肩先に優しく音をたてて吸いつく。
否定して振り払えばいいのに、体に残る余韻に、頭がぼうっとしてくる。

反転されて、見慣れたはずの引き締まった肉体と向き合う。
兄はまだ甘い雰囲気の中、乱れた髪を優しい手つきで直してくる。

本気を出した大人は怖い。毎日抱かれ続け、俺のまっさらだった経験値では歯が立たないことを知った。

汗を流し湯に入ろうとしたのだろうか、兄がふと俺から離れ、背を向けた。
密着していた肌を失った俺は、思わず手を伸ばした。

「……ま、まって兄ちゃんーー」

ケージャは振り返り、驚いた顔で動きを止めた。
俺はなぜかその分厚い胸板に自ら飛び込み、背中に腕を回した。

「……! どうしたのだ、突然。……甘えているのか? 嬉しいぞ、ユータ」

ぎゅうっと抱きしめ返されて我に返る。
確かに、俺はいったい何をやっているのだろう。自分からこんなことをするなんて。

「に、にいちゃん、離して」
「なぜだ。だめだ。これほど珍しく幸せなことは、長く味わう必要がある」

自分が蒔いた種なのだが、しばらく俺は頑なに主張する大きな体に、囚われていた。


こうして朝から際どい出来事が起こっていた俺達兄弟は、今日狩猟に出かける予定だった。
兄の頑張りのおかげか、俺の体にはたぐいまれなる速さで精霊力が宿り、練習のかいあってなんと簡単な魔法なら使えるようになった。

威力は弱いし、戦闘要員のレベルではもちろんないが。
今日は嵐の前の最後ということで、保存食を得る目的もあり、一泊の野営つきで大々的な狩りが行われる。

ケージャに自分も同行したいと言うと、やはり兄らしく「危険だ」と難色を示された。しかし俺は何度もせがんだ。普通ならば運動神経の悪い自分がそんな所、行きたいとも思わなかったのだが、どうしてか、今回は兄と離れがたかった。

そう正直に説明をすると、兄も考え始める。

「お前は……俺を翻弄するのがうまいな。仕方がない。ユータ、お前も男だ。同行を許可しよう。しかし安全な場所にいるのだぞ。俺が守るから心配はいらんが」

頭をくしゃっと撫でられ、嬉しくなる。
これで兄ちゃんとずーっと一緒にいられる。このたくましい、強さと勇敢さを兼ね備えた魅力的な男とーー。

え? なんだその乙女チックな思考は。
すぐに異常を感じて頭を振った。


狩りの場は住んでいる東地区内の森だったが、いつもより奥深まったジャングルへ集団で移動をする。
半裸の部族民たちの列には獲物の運搬用の台車や、馬に似た乗り物の動物、そして俺を運んでくれる籠などが並んでいた。

開けた平地に到着すると、大きな火が焚かれ、野営のためのテントが併設された。
俺はそこで待機しているように言われたのだが、気がつくと兄の広い背中を追っていた。

「もうすぐ群れがくるぞ。皆、構えよ!」
「「ハッ」」

兄の号令で草木の茂みに潜む男達の中に、俺もいた。
皆集中していて、俺も気配が薄いのだろうか気づかれない。とくに恐怖を感じることなく、ケージャの隣にくっついていると、驚きの形相で振り向かれた。

「なっ、ユータ、こんなところで何をしている!」
「だって兄ちゃんと一緒にいたくて」
「……な、なんだと? それは嬉しいがーー」
「部族長! 獣がなだれこんできています! お気をつけください!」

俺を背後に隠し立ち上がったケージャは、手をまっすぐ前にかざして詠唱をした。青い光線が広がり、俺の体をきらきらと包み込む。

「そこを動くな!」と叫んだあと、低い姿勢から駆け出した兄の後ろ姿は身軽な動作で木々をすり抜け、岩を飛び越えあっという間に獲物の群れへと飛び込んでいった。

「兄ちゃん!」

初めて兄が戦う姿を見た俺はようやく震え出す。
だが巨大なイノシシのような猛獣の群れは、即座に部族民の餌食になった。
降り注ぐ弓矢に倒れ、また男達の鋭い刃物に切りつけられ、縄をかけられ、残酷に仕留められていく。

その中にケージャの姿もあった。部族長とはいえ島の一戦士として、返り血を浴びることも厭わず映画で見るマチェーテのような剣を振り回している。

唖然と見ていると、群れを離れたひとまわり大きな一頭が俺のほうに猛進してきた。
やばい。こんなとこ来るんじゃなかった。
後悔するものの兄の言う通り防御壁から動けなかった。付与された碧の石の加護は、物理攻撃にはそれほど強くないことを思い出す。

窮地に陥っていると突如エルハンさんの「奥方様!」という声が遠くから響いた。
彼の放った魔法矢だろうか、バチバチと光るそれが猛獣の尻に二発刺さるが、止まらなかった。

もうだめだーー。
そう思ったとき、巨大なイノシシの頭上から二つの刃物を手に宙に高く跳躍する兄が見えた。
グサリ!と肉塊に突き刺さる音が響くほどすれすれの場所で、勇猛な兄が血しぶきを浴びて標的を仕留めてくれた。

「はあぁ……」
「……くっ……大丈夫か、ユータ」

刃物を抜き、腰が抜けそうになった俺に近づいてくる。

「兄ちゃん、ごめんなさーー」
「馬鹿者! このような前線に来るとは何を考えているのだ! お前に何かあったらどうする!」

激怒されてすぐに血だらけの体に抱き締められる。
びびった俺は何度も謝り、心から反省をした。

「兄ちゃんありがとう。びしょびしょになっちゃったね、ごめんね」
「そんなことは構わん。いつものことだ。……ふう、まあいい。今回は俺の注意が足らなかった。お前も俺が思ったより、度胸の据わった男だったということだな」

腕の中に閉じ込めて安心したのか、心が広い兄に許される。
何十頭もの倒れた獲物を運び始める部族民たちに混じり、兄もさきほど仕留めた大きなイノシシをなんと持ち上げ、首の後ろに背負った。

馬鹿力を目の当たりにして驚いていると、側近のエルハンさんが駆け寄ってきた。

「ケージャ様、奥方様! 先程は申し訳ございませんでした。私の注意散漫により、奥方様が危険な目にーー」
「え、いや違いますよ、俺のせいですみません」
「本当だ、エルハン。もっと目を配れ、と言いたいところだが、妻を守る責任は俺にある。それにな、こいつはどうやら少しじゃじゃ馬らしい。概して俺の好みであるぞ」

冗談めかして言う兄に救われたのかよく分からない。
結局その後は反省を続け、俺はケージャから「木の実を集めろ」と促され、野営地近くの森周辺に留まった。

背の高い樹木に両手を当て、教えてもらった呪文を唱えると木が左右に揺れる。
大きな力ではないが、ぼとぼとと上から果実が落ちてきた。

「わああ!」

想像より大量で想定してなかった俺は逃げる。
しかしそれらが急にゆっくり落下し、地面にばらついた。
近くで手を掲げていたのは、エルハンさんだ。俺を心配してついてくれることを兄に申し出てくれたらしい。お礼を言うと微笑まれた。

「あの、兄ちゃん何してるのかな。怒ってないかな?」
「大丈夫ですよ。少し興奮しておられるようでしたが、再び狩猟に出かけています」

側近である彼の穏やかな雰囲気には安心した。元部族長なのに、兄とは違いあまり血の気が見られない。
そんな彼と二人になったため、思いきって相談してみた。

「エルハンさん、さっきのこともだけど、俺朝からおかしいんだ。なぜか兄ちゃんのそばにいたいとか、くっついていたいなんて考えちゃったりして。……もしかして、また勝手に変なことされてるんじゃないですか?」

すでに碧の石による刻印のことを知っていた彼は、俺の疑問に目を見張る。しかし真面目に説明すると、彼は持っていた槍を地に突き刺し、両腕を組んで熟考した。

「そうですか……なるほど。では言い伝えは本当だったのだな……」

エルハンさんが思わせ振りに語り始める。それは俺に何度目か分からぬ驚愕をもたらした。
彼が言うには、精霊力の付与を目的に特定の相手と交わり続けると、二人の親和性が急激に高まり、された側は物理的にも心理的にも離れがたくなるらしい。

「なので奥方様は無意識にケージャ様の近くが、異様に心地よくなっているのでしょう。島の中では通常これを避けるため、相手を分散させるのです。一人の人間に執着してしまうと、男社会の中では不都合が生まれますから」
「……えっ。でも、分散って……つまり、色んな人とえっちするってことですか?」
「ええと……その通りです」

顔を赤らめ瞳を伏せる年上男性だが、俺は再び震えていた。
そんなカラクリがあったとは。

「じゃ、じゃあ俺やばいですよね。すげえ兄ちゃんにぞっこんみたいな感じになっちゃいますよねっ?」
「はい。しかしながら、お二人は運命のご夫婦なので問題はございません」

笑顔で話されて、いやあるだろうと密かに突っ込む。俺とケージャが兄弟だって知ってるのに、この人なにげに鬼畜か?やっぱり長老の孫だからか。

かといって彼を責めても解決にならないため、俺はがっくりと肩を落とした。
無意識に兄ちゃんを求めてるなんて俺のキャラじゃないし、恥ずかしすぎる。





真っ暗闇に松明が点在する夜。部族の男達とともに焚き火を囲んで夕食を食べたあと、俺と兄は四角いテントの中にいた。
棚や装備台の他に、中央に置かれた大きなダブルベッドにならんで座るが、俺は兄にぴたりとくっつきながらため息をついていた。

「はあ。兄ちゃんの腕気持ちいい……じゃなくて、なんで教えてくれなかったんだよ。俺、このままじゃおかしくなっちゃうよ」
「俺も半信半疑であったのだ。ここまでお前が可愛らしく懐いてくるとはな。それに、俺以外の者はありえんのだからいいだろう」

勝手に断言されるが、真正面に向き直り、やたらと嬉しそうに俺の頭を撫でる。
どうしよう、変な気分だ。いつもならベタベタされて怒るところなのに、気力が削がれるというか、むしろ兄のまとう心地よい体温を求めたくなる。

俺はケージャに抱かれておかしくなったんだ。
もう寝よう。
そう思って布団に入ると、忙しい一日だったはずなのに体力が有り余ってる様子の兄に、そっと押し倒された。

「にいちゃ……駄目だよ、こんなとこで」
「……ではなぜそんな潤んだ瞳をするのだ。俺の胸も掴んだままだぞ」

にやりと教える兄の浴衣の胸元を、確かに握って離さないでいた。
ーーああ、今、兄ちゃんと……したい。

「ねえ、キスして……」

自然と口からこぼれでた言葉に、兄が眉間を寄せる。

「それは、心からの言葉か? それとも、『ケイジ』に会いたいだけか」

ケージャの口から兄の名が出て、めまいがしそうになった。
俺はすぐに答えられなかった。
熱い手のひらが胸の先を撫でてくる。寝間着の浴衣が少しずつ脱がされる。

「分かんない、兄ちゃんのせいだよ、俺のことおかしくしたから……」
「……ふふ。そうだ。お前は俺の手によって、俺のものになるのだ。他の男には渡さん」

もどかしく唇をなぞられる。
でも俺は、今このときに兄のくちづけを求めてしまっていた。
欲求からくるものなのか、ただもう限界を感じていて兄に会いたかっただけなのか、分からない。

「お願い、口に……」
「だめだ。約束しただろう。わがままはよせ、ユータ。お前の華奢な体にぶつけてしまうぞ」

珍しく焦燥を浮かべた顔で見下ろしてくる。
俺はうっとりしたまま、兄の首に手を回した。
これ以上はよくない。そう思いながらも足を強靭な腰にからめる。

ケージャはまるで俺の本当の兄のように、うろたえて俯いた。

「……参ったぞ。これは何なのだ。ユータ。……約束しろ。そんな風に求めるのは、この俺だけであると」

独占欲に褐色の瞳を燃やし、俺の頬をそっとつついてくる。
俺は理性がどこかに飛んでいた。兄は兄で、この兄がほしい。
もうどちらも同じだ。

「今すぐ抱いてよ、兄ちゃん……」
「……ああ。お前が誓ったらな。俺の子種だけを望むとーー」

首を掴まれて、そこに噛みつかれるような激しいキスをされた。
まるでマーキングのように、吸い付く唇が徐々に下に落ちていき、無抵抗な体は完全に組み敷かれた。

「んっ、んっ」
「はあ……お前は感じやすい、すぐに濡れて……ここも勃ちあがってしまうな?」

愉悦の笑みで指摘されて、息を切らして見つめる。
身体中を這う武骨な手と、体温の上がった良い匂いの肌には、あらがえなかった。

しかしケージャの次の挙動には悲鳴が生まれる。
奴は俺の両足をひらかせ、内腿に口付けた。それが段々股間のほうへと向かい、一気に顔が熱くなる。

「やっ、やだ、そこだめ! ……やっ、やあぁ…っ!」

兄の口に俺のがくわえられてしまった。
ありえない。兄ちゃんに黙ってそんなこと、と気が動転する。
しかし生温かい男の大きな舌は根本からじゅぽじゅぽと吸い俺の快感を押し上げてきた。

「あっ、やっ、んあぁ、舐めないでえっ」
「……うむ、お前のはなんと可愛らしく美味しいのだ。俺はずっとこうしたかったぞ、ユータ。……我慢をするな、遠慮せずに出せ」

実の兄がフェラをするという衝撃的な光景を目にしながら、俺はどうしようもなくなり、短い茶髪を太ももでぎゅっと挟んでしまった。

「ああぁぁっ」

がくがくと震え、兄の口に吐き出す。信じられないことに、奴は満足げに飲み干した。そして放心する俺に、体を乗り出し覆い被さってくる。

「気持ちが良かったか? ユータ」
「ばか……」
「ふふ。いつものお前に戻ったな」
「どうすんだよ、兄ちゃんの体なのに…っ」
「ほう? つまり俺が先にお前の蜜を味わったというわけか」

それは気分がいいと、達したばかりの敏感な場所を撫でてくる。
こんなことをされたのに、俺は逃げ出すことすらせず、まだ兄の体の下でおとなしくしていた。

後ろがうずく。肌には刻印が浮き出ていて、自分の変わってしまった淫らな身体にショックを受ける。
しかしこの悲しみは、兄にしか和らげないものだということも、すでに悟っていた。

ケージャは俺の気持ちに気がついたのか、腰を抱いて持ち上げた。
意図せずベッドにあぐらをかく男の上に座らせられる。

「何が欲しいのだ。俺に話してみろ、ユータ」
「……あ、……ああ……兄ちゃんの……」
「俺の、なんだ? きちんと言葉に出すのだ」

命令しているのに優しい瞳で髪をといてくる。
だがそんなことは言えるわけもなく、心から涌き出た感情をもらした。

「兄ちゃんが好き……お願い……」

くたり、と汗ばむ肌に体を預けて乞う。
しかしケージャは、また微かに眉をよせて苦しげに唸った。

「俺のことは、どうなのだ。教えろ、ユータ……」

尻が掴まれて、上に持ち上げられる。
その問いが頭を支配する一方、いきなり入ってきた大きな兄のモノに、俺は呻いた。

「あ、あ、んあぁぁ」

がっしりと持った手が、下から突いてくる腰の動きと連動する。
ヌプヌプ上下に中をこすられ、必死に掴まった。

「んっ、んあっ、やっ、ゆっ、ゆっくりっ」
「それは出来ん。お前が答えるまで、根本までうずめ中をかき回してやる」

卑猥な言葉を口にし、離れないように抱きしめてさらに深く打ち付けてくる。中に広がる気持ちよさで、どうにかなりそうだった。

「あぁ! いく、いくっ、もうイクよぉっ」

奥の奥を硬くて太いモノに突かれ過ぎて、視線が飛んで腰がガクつく。兄は後ろの枕に頭と背を倒し、仰向けになった体勢で俺を見上げる。

「ああ、お前がイッたのを感じるぞ、何度も締め付けてきて、素晴らしい。もっともっと、乱れさせたくなるな」

上気した様子で口角を上げ、俺のウエストをもってさらに腰を突き立てる。俺は声にならない声を出し、兄の上に股がった状態で長く揺さぶられ続けた。

「またイクっ、もうだめ、ん、あ、あぁぁ〜〜っ」

兄ときつく両手を繋ぎ合わせ、背中をびくびくそらした。
射精感があり先っぽからぽとぽとと液が兄の腹筋に垂れる。
だが簡単には解放してくれず、兄は俺を自身の胸に引き倒して分厚い身体にがっちり抱き留めた。

「よいぞ、たくさんイクのだ、今お前に、俺も子種を注いでやる、たっぷりと中に、かけてやるからな」

興奮した様子で髪をかきあげられ、頬に熱いキスをされる。
本当は唇にもしてほしかったが、顔が近くにあって、触れているだけで全身がぞわぞわと刺激に満ちていった。

「……ぐッ、出すぞユータ、お前は俺のものだということを、身体中で感じるがいい……!」

ドクドクと体内に入り込む力の源。
ああ、兄ちゃんに、いま出されている……。

「気持ち、いい、もっと、もっとぉ……っ」

俺は我を忘れて腰を揺らし、ケージャの与える快楽にひれ伏していた。



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