セラウェ記憶喪失編 | ナノ


▼ 15 少しずつ? T

俺は騎士団最上階にある、弟の部屋にいた。
まだ一度しか訪れたことがないはずだが、冬の暖かそうなパジャマを着て、二人で仲良くソファに座っている。 

クレッドの肩に、俺は頭を預けながら本を読んでいた。 
何やら話しかけられるのだが、あんまり聞いていない。

しびれを切らした奴は、俺の顎をそっと掴むと、傾けた自分の顔を近づけた。
そしてゆっくり重ね合わせる。

俺は動じることなくそれを受け入れ、一緒に笑顔になったクレッドと見つめ合う。
何かを話すと、弟がまたにこりと笑って俺を抱き締めた。
とたんに気持ちが温かくなり、互いの鼓動に包まれるーー



なんだ今のは。
弟と、き、キスしちゃってたんだが。しかも唇に。
柔らかく当たった感触がリアル過ぎて、卒倒しそうになった。

「…………ぅ、わああああッ」

驚きのあまり絶叫し、布団を思いきり剥いだ。
まだ心臓ばくばくで、口もぱくぱくさせる。

薄暗い室内を見渡すと、近くの机に本が何冊も重なった、自分の部屋だった。
天井を見上げていた俺の隣には、いつものように白虎の使役獣が寄り添っている。

「どうした? 何の夢を見ていたんだ、セラウェ。心音がとてつもなく鳴り響いているぞ」
「……ロイザ。おれ弟とキスしてた……」

半分現実が分かっていなかったのか、思ったことをそのまま口にした。
使役獣はゆっくりと体を起こす。上から俺の頬をぺろりと舐めるが、反応出来ない。

「なんであんな夢を……おかしいだろ。弟だぞ。しかも俺笑って……」

頭を抱えながら起き上がると、だんだんぼうっとしてきた。
なんだか体が熱い。熱でもあるのかもしれない。

その時、ふと下半身に違和感を感じた。
信じられない思いで顔を下に向けると、まさに信じられないことが起きていた。

「セラウェ。それは夢じゃないぞ」

突如冷静な声音が耳に届く。
俺は現状を隠すため着ていたガウンを必死にささっと直し、奴を見た。

「……ん、ええ? 何が? どういう意味だよ」
「俺が言えるのはここまでだ。主のお前に嘘はつけんからな」

いや普通につかれたことあるが。
それより夢じゃないって、どういうことだ。幻覚か?

しかしこの体の反応は一体……。
シャレになんねえぞ。潜在意識的に興奮したとでもいうのか。

確かに結構気持ちよかっーーじゃねえよッ。弟だぞ! 犯罪だろ!

いや、きっとこの前ジャレッドとあんな話をしたからだ。
弟は同性が好きかもって思って、あの日は色んなことがあったから。

しかも今日までその事をぐだぐだ考えてもいた。だから変な夢を見たんだ。

うなだれて隣をキッと見る。ロイザは眠そうにあくびをしていた。

「……このこと言うなよ!」
「ああ、分かった。……だがどちらのことだ? 接吻のことか、それともお前の生理現象のーー」
「どっちもに決まってんだろうがっ」
「顔が赤いぞ、セラウェ。少し休め。まだ朝までは時間がある」

口の減らない使役獣に悠々と指摘され、力なく再びベッドに倒れ込んだ。

俺はどうしたっていうんだろう。
最近気がつくとクレッドのことばかり、考えてしまっている。





その日の午前中は、仮住まいの居間で休んでいた。
近いうちに任務があるらしく、出来るうちに怠けておこうという算段である。

しかし忙しなく家事を行っていた弟子のオズが、突然思いもしない事を言ってきた。

「マスター最近暇そうですね。そういえば、クレッドさんとはどうなってるんですか? もっと仲良くなれました?」
「え!? ま、まぁぼちぼち……だけど。なんでだよ」
「そりゃあ気になりますから。二人の応援団なんで。そうだ! 今日マスター時間あるなら、クレッドさんにお弁当でも作って、持っていってあげたらどうですか?」

にこりと差し向けられた茶色の瞳を二度見する。
いきなり何言い出すんだこいつ。

「……は? なんで俺が弁当なんか……そんな可愛らしいキャラじゃねえだろ、しかも弟相手に…おかしくないか」
「全然おかしくないですよ。以前はよく作って届けてあげてましたし」

うんうん頷きながら言われるが、こちらは唖然とするのみなんだが。

「まじか? どんだけ弟思いなんだよ俺は。そんなマメに尽くしていたとは…」
「だから言ったでしょう、超仲が良いんだって。それにこの前、クレッドさんに手料理ご馳走になったんですよね。ちゃんとお礼したんですか?」

うっ。まだしてない。
それどころか騎士と一緒にいるところを見られて以来、なんとなく気まずい状態なのだ。

弟子に痛いところを突かれた俺は、ソファからすくっと起き上がった。
仕方がねえ、覚悟を決めるか。たまには勇気出さないとな。

「分かったよ。持ってってやるか。えーっと、確かあいつ揚げ鶏好きだったよな……オズ、鶏肉ある?」
「あ、はい! ありますよ〜。すごいマスター、ちゃんと好物覚えてるんですね、クレッドさん昔から好きだったんですか?」

台所で準備しながら、弟子の台詞に動きが止まる。
あれ、違う。俺は何を言ってるんだ。
 
「……いや、あいつ小さい時、肉の脂身が嫌だっていって、苦手だったはずだ……」

ぽつりと呟いてオズを見ると、奴も俺と同じく、鳩が豆鉄砲食らったみたいな顔をしていた。

「え、じゃあなんでマスター好きだって知ってるんですか? まさか思い出したんですか!」
「ち、ちげえよ。なんとなくそう思っただけで……変だよな、なんでだろ」
「変じゃないです! もしかしたら段々記憶が戻ってくるのかもしれないですよっ」

弟子が飛び跳ねながら、自分のことのように俺の兆候を喜んでいる。
俺はそれを見て、そんなに嬉しいのか?と半ば呆気に取られてはいたのだが、ふとクレッドのことを考えた。

あいつもこんな風に喜ぶかもしれない。
だったら俺も、単純に嬉しい。失ってしまった記憶を思い出せば、弟の笑顔が見られるかもしれないと、密かに考えたのだった。

「よっしゃ、とにかく作るか! ええっと弁当箱、弁当箱ーー」

台所を漁り、弟子が見守る中俺はクレッドへの昼御飯を作り始める。
喜んでもらえるといいんだけどな。



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