騎士団員おいしい。 | ナノ


▼ 2 騎士うまそう

ここは俺の好きな暗闇で、中は温かい。
ガシャ、ガシャとすぐ近くで鎧の金属音が響く。ローブの中に潜む俺は、男が歩く度にゆらゆらと小さな体を揺らされていた。

「着いたぞ。出てこい、淫魔」

ぴたりと動きを止めたべリアスが、言うと同時に自らのローブをばさっと開き、コウモリに変化した俺をポケットから引っ張り出した。

手のひらに乗せられ、小さな翼を開き、くたっと這いつくばる。
眩しい。青のカーテンに囲まれた部屋の無機質な照明が、容赦なく俺の体に降り注ぐ。
けれど萎んだ瞳が次の瞬間、歓びに息を吹き返した。

「団長。それは一体なんだ。ペットか? 小さなコウモリだな…」

上から覗き込んできたのは、屈強な騎士その二。
体はべリアスよりややデカイ。だが俺の愛らしい姿を前に、故意に威圧感を抑えているのが分かる。

髪色と同じくこげ茶の瞳は優しげで、気のいい兄さんといった風体だ。
俺は即座に決心した。絶対こいつも食べるぞ!

この男だけではない。
背後には、同様に黒いローブに身を包んだ騎士達が、神妙な顔つきで規律正しく整列していた。
おお、ずらりと並ぶマッチョ集団ーーなんたる壮観だ。小さく舌なめずりする。

兄上、俺は悪魔なのに今天国にいます!!

ぶるぶると身震いしていると、べリアスが「大人しくしてろ」と呟き、大きな手の中にぎゅっと包んできた。

「俺がそんなものを飼うタマに見えるか、ネイガン。こいつは淫魔だ」

ざわざわと室内がどよめく。
騎士たちの疑いの眼差し、もとい「この男頭大丈夫か?」という空気が辺りに漂い始める。
べリアスはわずかに表情を歪ませ舌打ちをした。

「ルニア。皆に本来の姿を見せろ」

予期せぬ言葉にぴくっと頭を上げる。
この男に命じられるとぞくぞくしてくる。この場で今すぐ犯される妄想に浸りながら、俺は変化した。

初対面から全裸を晒したい欲を抑え、人と変わりない衣服をまとった姿を現す。
黒の尻尾と角も出してやった。

我が公爵家では金髪や銀髪が多く、色素の薄い瞳の色をもつ者が多数派だ。
しかし俺だけは黒髪に黒目。外見からして異端であった俺はもの珍しく、余計に父や兄弟から可愛がられた。

魔族ならではの透明感を持つ白肌を見せる。
俺は男の腹筋に目がないが、服の下にある自分のもちゃんと程よく割れている。

「よお、俺はルニアだ。訳あってあんたらの団長に捕まった。しばらく厄介になりたい。よろしく頼む」

腕を組み正々堂々と自己紹介をしたのだが、しん、と静けさが広まった。
しかし疎外と嫌悪に満ちた空間で、連中が俺を好奇の目、いや好色の目で見ているのを見逃さない。

「ほんとに悪魔なのか。随分綺麗な体……いや顔立ちだな。おいお前ら、手出しすんなよ。こいつは団長の獲物だ」

牽制を含む男の命令に、一同は姿勢をびしっと正す。
その姿は美しい。けれど。

何を余計なことを言っているのか?
君たち騎士団員が俺の獲物なのだが?

悪魔らしからぬ混乱が襲い、疑問符が脳内を埋めつくす。
営業妨害も甚だしい!

べリアスは無反応だった。
否定も肯定もしないとは、この男は俺のことをどう捉えているのか。
所有物と言ったからには、また交接出来るのだろうが……早くデカチンポ喰らいたい。

奴を視姦し淫らな光景を思い描いていると、別の男の声が静寂を切り裂いた。

「へえ。淫魔ですか。団長の支配下に置かれたとしても、騎士団内の風紀が乱れる可能性が十分あるのでは?」

うん。もちろん乱すつもりだよ!
列の端で声を上げた騎士を、自信満々で見やった。
一人だけ白地のローブを羽織った年若い男が、俺を睨み返す。体は頑強だが、小生意気そうな態度に大いにそそられる。

「おい。お前は団長の力を疑うのか。従騎士のくせに、偉そうに私見を述べるとは。少しは立場をわきまえろ」

ネイガンと呼ばれた騎士から情が消え失せ、冷たい言葉が吐き捨てられた。
年若い騎士が奥歯をぎしりと噛みながら、不快感を露わにした。

「俺はべリアス様の従者だ。貴方にとやかく言われる筋合いはない」

おっ男同士の争いか? わくわくと胸が高鳴る。
殴り合うなら衣服が裂けるまでやって欲しい。

「お前らは本当に仲が悪いな。俺達が見張るべきは、表向きは団と連携をとる教会の聖職者だ。仲間内でいがみ合うのはやめろ」

べリアスの呆れたような物言いには、どこか失笑も含まれていた。

聖職者という単語に頭痛がしてくる。
どうやらこの騎士団は俺の好むマッチョ達だけの巣ではないらしい。
奴らは白魔法使いの魔術師でもある。いわば悪魔の敵だ。

だが世間知らずの自負がある俺は、そんなことで諦めたりはしない。
騎士たちを吸い尽くし、団員コンプリートの野望を秘めた俺を、もう誰にも止められない!

「以上だ。職務に戻れ」

べリアスの一声でその場は解散となった。






騎士団に捕らえられ、数日が過ぎた。
驚くべきことに、その間俺は一切男漁りをしていない。正確には出来なかった。
最初の日にべリアスにかけられた魔法、浮かび上がった紋章は俺の自由を封じていた。

奴がそのつもりなのかは知らないが、下腹部に淫紋と呼ばれる小さな黒の印がついている。
簡潔に言えば他の人間との交わりを禁じる、貞操帯のようなものだ。

兄上! 俺は下等な人間にこのような紋を施され、貴方のものである証がなくなってしまった!

などと声を張り上げるつもりはない。
べリアスは野性味あふれる体躯に風格、どれをとっても実に良い男だ。
まだ地上へ来て間もないが、おそらくこれ程の上物はやすやすとは掴めないだろう。

しかし、兄上に勝る者はない。とくに力の上では。

人間に俺を縛ることなど不可能なのだ。
俺はすでに兄上により魔印を施されている。それは何者にも上書きすることなど叶わない、家族の者も知らぬ、二人だけの秘めた契りーー

だからこんな淫紋など、本気出せばすぐに解くことが出来るんだよ!



「べリアス。あんた、今日も俺を抱いてくれないのか?」

騎士団長の執務室の奥にある、秘密の間。いわゆる尋問部屋の一角に俺は囚われていた。
一日に一度だけこの場所を訪れる男に、何気なく問いかける。

べリアスはじろっと睨みつけてきた。

「お前を捕らえた日に言ったよな。一度のみなら精気を与えてやると」
「でも俺はあんたのものなんだろ? 手を出さないって、そんなことあり得るのか。なああんた、俺に欲情しないの?」

服の上からでも分かる分厚い胸板に手をのせ、冷たく見下ろしてくる金色の瞳を見つめる。
そろっと撫でても微動だにしない。
けれどあの時の熱の昂りを思い起こせば、この男の中には確かに劣情が存在しているのを知っている。

「ルニア」

突然、手首をぱしっと掴まれた。
ああ、そのまま力ずくで床に押し倒し、俺が動けないように体にのしかかり、乱暴にこの身を奪ってほしい。

「お前をヤるかどうかは、俺が決める。お前はここで大人しく待っていろ」

すっかり期待が外れた。

もう我慢できない。俺はすでに数日間の禁欲生活を経ている。
べリアスという餌をぶらさげられて、食いつくことが出来ないとは。
それだけじゃない、扉の外には美味しい騎士達がうようよしているというのにーー

夜になったらこの部屋を出て、計画を遂行してやる。
こんな男、もう知るか。




その晩、準備にいそしんでいると、執務室に誰かが入ってきた。
おかしい。
べリアスは一日に二度訪れることはない。

俺は即座に体内に術式をかけ、透明化した。尋問室を通り抜け、気配を断ち、様子を窺う。

そこに居たのは、あの強気な感じの年若い従騎士だった。
おもむろにソファに近づき、背もたれに置かれたべリアスのシャツを手に取る。
大事そうに抱えたままどさっと腰を下ろし、服の匂いをくんくん嗅ぎながら、自らの股間に手を伸ばした。

「……ッ、あ……ぅあ……団長ッ」

この男、俺が間近で見ていることにも気づかず、自慰に耽り始めた。

なるほど。
そういう性癖の持ち主だったか。
特段驚きはないが、相手があのべリアスだとは。

ここは男色がまかり通った騎士団なのか?
期待値がどんどん上昇してくる!

俺は透明化を解除した。
ソファの背後から近づき、快感に悶える男の肩に、ぽんと手を置く。

「なあ。お前そんなとこで何やってんの? 団長の服でオナニー? 綺麗な面に似合わずド変態だなぁ」

はっきりとよく通る声で告げる。
頬を紅潮させ自慰に耽っていた従騎士が、ゆっくりと振り向き、顔を真っ青に染めた。

「お、お前……いつからそこに……!」

なかなか可愛い表情をしている。美味そうだ。

決めた。今夜はこいつを堕とす。
団長のことは俺が忘れさせてやろう。



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