騎士団員おいしい。 | ナノ


▼ 24 結ばれる

屋敷の最深層にある地下部屋の前で、俺はお兄様から預かった水晶の鍵をかざした。
淡い光とともに重い鋼鉄の扉がゆっくりと開かれる。

この中にベリアスが囚われている。
心臓が悲鳴を上げながら、俺は室内へと足を踏み入れた。

窓も何もない薄暗がりの空間に、騎士の姿があった。
床に足を伸ばし、壁にもたれかかったまま頭をうつむかせている。

「ベリアス!」

俺は急いで駆け寄り、そばにしゃがみ込んだ。
制服は脱がされ、シャツも所々裂かれ、見るも無惨な姿だ。顔や腕にも血が滲み、体中に痛々しい裂傷を負っている。

酷い。なぜこんな事を。
胸に強い痛みが走り、歯を食いしばる。
ベリアスの顔を上向かせると、眉に深い皺が刻まれ、閉じている瞼がピクリと動いた。

「……ッ」

確かな反応がある。意識が戻ったのかもしれない。
頬に手を当てて、上下に優しく撫でる。

「ベリアス、俺だよ。もう大丈夫だ」
「……ルニア」

俺の名を呼んだかと思うと、徐々に目を開けた。
久しぶりに視線を交わす金色の瞳が、まっさらに澄んで見えた。

思いがこみ上げ、衝動的に騎士に抱きついた。すると間近から、痛みに苦しむ呻きが聞こえた。

「ご、ごめん。ベリアス」
「……いや、平気だ。離れるな」

騎士は静かな声で告げると、片腕を伸ばし俺を抱き寄せた。
控えめに抱擁を返し、どきどきと心臓が収まるのを待つ。

「は、早くあんたの傷を治さないと。お兄様から魔石をもらったんだ。どこを負傷したか見せてーー」

体を一旦離し、ごそごそと魔石を取り出そうとした。すると、ベリアスの手が俺の顔に伸びてきた。
痛みに表情を歪ませながら、上半身を起こし、そっと唇を重ね合わせてきた。

「ん、んん……っ」

口内に柔らかい舌が触れ、ゆっくりと絡められる。
血の味が滲み、騎士が受けた傷を想像して、さらに胸が苦しくなった。

「はぁ、はぁ……駄目だ、ベリアス。じっとしてて……」

しかし騎士はぐっと俺の肩を抱き、口付けを止めようとしなかった。
どうしたというのだろう?
いつもと違った振る舞いに、心配になってくる。

俺は無理やり体を引き剥がし、治療を開始することにした。
周囲に淡い緑の光が立ち込め、騎士の全身に吸収されるように消えていく。
ベリアスは浅く息づいて、俺をじっと見ていた。

「……なんだよ、ルニア。もう俺のこと、忘れたのか? 欲しがらねえのかよ」

しばらくして問われた言葉に、目を見開く。
騎士には不似合いな弱音のようにも聞こえ、動揺が走ったのだ。

「そんなわけないだろ。だってあんたは、俺のせいでこんなにボロボロになって……本当に、すまなかった。兄上が酷いことを」

俺が謝って済むことじゃないとは思うが、申し訳ない気持ちに潰されそうになり、頭を下げた。
するとぐいっと体を引っ張られ、また騎士の腕の中に収められた。
治癒魔法が効いたのか、さっきよりも力が込められている。

「ああ……お前の兄貴は頭がイカれてるな。あんな拷問は俺でも参考に出来ない」

自虐的に告げられるが、俺の中では兄上に対する怒りがさらに湧いてきた。
そんなに酷い目にあったというのか。

胸を痛めるとともに、今こうして話が出来る事に、心から安堵を感じてもいた。
ベリアスは俺を心配げな顔で見つめている。

「なあ、あいつはお前にも酷いことをするのか?」
「……え? いや、しないよ。あれだけ激怒したのは初めて見た。……でももういいんだ。兄上のことは」

そうだ。
俺はあの方の手を振りほどいて騎士のもとに来た。
兄上の庇護下から抜け出し、自分の道を選んだのだ。
この先どうなろうと、後悔はしていない。

けれどこの騎士は、もしかしたら心変わりしたかもしれない。
こんな異常な事態に陥ってしまったのだから。

「ベリアス、もう俺のこと嫌になった? だって、おかしいだろ。俺の家とか、色々……」
「……ルニア」

自信無く問いかけた俺の口を、騎士がまた塞いできた。
力づくで言い聞かせるような、深みのある甘いキスだ。

「……んうぅっ……な、なに」
「俺にお前を諦める選択肢はない。何回言ったら分かってくれるんだ」
「だって……あんた、変だ。こんな目にあったのに、なんで……」

口元を何度もベリアスに捕えられ、言葉を奪われる。
騎士が与えてくる馴染みのある熱に、段々頭がぼうっとしてきて、ふわりと浮く感覚がする。

敏感に反応する腰を引き、俺はベリアスから離れようとした。

「おい。なんでさっきから逃げようとするんだ。いつもの勢いはどうした」
「あ、あんた怪我してたんだ。俺にも良識はあるぞ、こんな状況で……よくないだろっ」

いつも淫らに誘惑する俺を知っている為、怪訝に思うに違いない。
でも今は、ベリアスの体が心配だ。
俺の心はものすごく痛んでいた。

「こんな状況だからだ、ルニア。俺はお前が欲しい。……お前を失うかもしれないと思って、恐ろしくなった」

騎士の口から初めて聞く言葉に、思考が止まる。
硬直する俺の目を、ベリアスはまっすぐ見つめてきた。

「お前が好きなんだ。失いたくない。俺から離れないでくれ」

縋るような騎士の声は、どこか心細さを滲ませていた。
その不安が俺たちを繋ぎ合わせるかのように、二人の思いが共有されていく感覚がした。

明かりを知らなかった俺の心は、騎士によって、こうして幾度となく優しい火が灯される。

「ベリアス……俺は、あんたと一緒にいる。自分でそう決めたんだ」

鼓動がうるさく脈打ち始める。
はっきりと気持ちを伝えようとする自分に、震えが起こる。

「俺は、あんたにずっと求められたかった。手に入れた後でも、なぜかあんただけを強く求めてしまう。……好きって言われると、嬉しい。だから俺もあんたのことが、好きなんだ」

俺は他人を好きになったことはなかった。
だからその感情もよく分かっていなかった。肉親か他人かの違いでしかなかったのだ。

けれどベリアスは違う。
この男の腕の中にいると、ドキドキするのに安心する。
今まで満たされなかった場所が、みるみるうちに幸せな感情で溢れ出していく。

これほど強く求め、惹かれる存在は、きっとこの先現れないだろう。
ベリアスは俺にとって、最初から最後まで特別な騎士なのだ。

ぼんやりと幸福に浸っていると、騎士の真剣な顔に覗き込まれた。

「ルニア、もっとこっちに来てくれ」
「……え? うあぁっなにっ」
「動くな。今すぐお前が抱きたい。いいだろ?」

何が起こっているんだ。
この男にそんな事を言われたのは、初めてだ。
騎士の瞳がいつもの厳しさを取り払い、柔らかい目元に変化している。

「どうしたんだ、ベリアス、駄目だって言ってるだろ……っ」
「なんで駄目なんだ。今俺を求めてるって言ったばかりだろ。もっといつもみたいに俺を欲しがれよ」
「ま、まって、そこ触るなぁ…!」

いつの間にか服の中にベリアスの両手が滑り込んできた。
シャツをまくり、肌がさらけ出される。
騎士は俺を正面に抱きかかえ、足の間に座らせると、俺の胸に吸い付いてきた。

「んっ、んぅっ」

熱をもった舌が胸の先を舐め取り、唇で優しくつまんでくる。
その間も長い腕に腰をがっちりと固定され、背中を大きな手で撫でられる。

「はぁ、あぁ、んぁ」

他の者とは違う、騎士だけに与えられる愛撫に、体が喜んでいる。
この男をずっと待ちわびていた。
もう離れるのが嫌になるぐらいに。

俺はべリアスの服に手をかけて、広い肩を露わにした。
厚い胸板にぴたりとくっつき、肌を合わせる。ずっと求めていたものに触れ、全身がびりびりと甘い痺れに覆われる。

「あ、あんたの体、すごく熱い」
「お前のせいだ、お前に触れてるから……」

二人で呼吸を浅くしながら、何度もキスを交わす。
騎士の手により下着ごとズボンを脱がされ、後ろを愛撫される。

求めるあまり濡れそぼった秘部を、優しく指の腹で押し広げられ、すぐにもっと大きな刺激が欲しくなる。

「だ、め……ッ……ん、んっ」
「ルニア、もう俺が欲しいか?」
「……ん、んぅ……ほしい、べリアス、あ……あぁっ」

まるでこっちが催促されているように、騎士の昂りが俺を追い立ててくる。
騎士は嬉しそうに笑み、さらに抱擁を強めた。

すぐそばに感じる熱がゆっくりと俺の中へ入り込んでくる。
何度も迎え入れたはずが、今始めて結ばれたかのように、互いの中心で熱く交じり合っていく感覚がする。

ああ、嬉しい。
気持ちよさを凌駕するほどの感情が、全身を包み込んでいく。

「べリアス……俺、あんたが好き……好きだ……」

肩に掴まり、下から揺さぶりを受けながら見つめ合う。
自然に漏れた言葉に、騎士はまた目を細めて喜びの表情を浮かべた。

「俺もだ、ルニア。……あぁ、一度だけじゃ足りない、もっと言ってくれ」

いつもは俺が懇願しているのに、顔を紅潮させた騎士が俺にその言葉を求めてくる。
思いに応え、何度も気持ちを伝えながら、ふと思った。
こういう感情を、愛しいというのだろうか。
俺を抱いて離すまいとする腕の中で、ぼうっと想像しているだけで、幸せが広がっていく。

「あ、あぁ、もうだめ……ベリアス……っ」

騎士を包み込んだ内側がびくびくと締め付けを起こす。
ベリアスは下から揺らしながら、心地よい熱で中を優しく愛撫していく。
合間に深い口付けを与えられ、あらゆる場所が騎士によって、気持ちよくほぐされていく。

「ふぁ、あ……っ、ん、んぅ、や、ぁ」
「ルニア、気持ちいいか?」
「き、きもちい……っ、あ、ぁ、また……いくっ」

快感に喘いでいると、騎士は動きを速めた。
見つめ合う瞳が恍惚に濡れて、二人の絶頂が近いことを知らせる。

「あ、あんたも一緒にいって、お願い」

肩にくたっとしがみつき、必死に告げる。
べリアスの汗ばんだ肌がドクドクと心臓の音を伝える。

「ああ、俺もお前と一緒がいい……」

金色の瞳が俺だけを映し、うっとりと見つめてくる。
嬉しい。
今日だけで騎士の新しい表情を、たくさん見つけた気がする。
それに、甘やかな言葉も。

「ん、んぅ、あ、あぁ、べリアス……!」

幸せに満たされる中、二人でともに果てた。
過ぎた時間を惜しむように、騎士の背中をぎゅっと掴む。

俺はもうこの男を絶対に手放したくない。
何があっても、この温もりを離さない。

「ルニア、このまま俺のそばに……いてくれないか」

俺の心を読んだのか、同じことを思っていたのか、騎士が切なそうな瞳で告げてきた。
やっぱり今日は、珍しくベリアスが弱気に見える。

俺は騎士を安心させたかった。
自分も同じ気持ちなのだと、変わらないのだと。
そのためならば、何度でも伝えようと思った。

「ずっと一緒にいるよ。だからあんたも、もう俺から離れないで……」

ほっとしたように笑う騎士の頬に、俺はそっとキスをして、生まれたばかりの愛を囁いた。



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