騎士団員おいしい。 | ナノ


▼ 23 遅れた反抗期

俺は何度意識を失っているのだろう。
目を覚ますと、そこは懐かしの我が家だった。
屋敷の中の一室でーーくしくも兄上に「精気を集めて来い」と命じられた日と、完全に同じ状況に陥っていた。

「あっ、あぁぁっ……」

俺の上で裸の男が腰を揺らしている。
銀色の髪がぱさりと肩に触れ、艶かしく揺らめいている。

「目覚めたか、ルニア。お前の肉体、味わうのは久しぶりだが、なかなか良い具合に変貌したな。どれだけの男を咥え込んだのだ」

記憶が途切れる前は冷酷な表情だったのに、今は妖艶な笑みを浮かべ、満足そうだ。

「うぁ、あ、兄上……!」
「質問に答えろ。あの騎士団の男達は、全員食らったのか?」

惜しくも全員ではない。
俺はその前に、団長に捕まってしまったのだから。

「いいえ、実際に咥えたのは……ええっと……五人だけ、ですね」
「ほう? それだけか。淫売の名が廃るぞ、ルニア」

兄上は相変わらず手厳しい。
いや、のほほんと会話してる場合じゃない。
騎士達は、ベリアスはどうなってしまったんだ?

「何を考えている。今は私との交接中だ。集中しろ、我が弟よ」
「あっ、あぅ、んぁぁ!」

揺らめいていた腰つきが深くをつき、速度を速めだした。
久々の兄上の打ち付けに、下半身がびくびくと跳ね上がる。

ああ、やはり気持ちいい。
快楽のほとんどをこのお方に教わったと言っても、過言ではない。
兄上は言わば俺に巣食う、淫欲の源なのだ。

「はぁ、あぁ、兄上……ッ」
「そんなに私が良いのか? ルニア」
「……っ、ああ、んぁあ……は、はい、良いです……!」

否定は許されない。事実、兄上の極上チンポの地位は、俺にとって揺るぎないものだった。
そう。あの騎士に出会うまでは。

「はぁ、はぁ、兄上……皆は、どうしたのです」
「誰だ。皆とは」
「うぁぁっ、ぁあっ、みんな、あの、騎士達です、彼らはどこへーー」

訴えかける口元を、すぐさま唇にきつく塞がれる。
まるで何も喋るなとでも言うように。

「んんっ、んむ、っうぅ」

はぁはぁ息をついて、俺を見下ろす紫紺の瞳をじっと見つめる。
兄上は途端に、その非の打ち所のない麗しい相貌を歪ませ、苛立ちを浮かべ始めた。

「あの男共が気になるか? 今頃楽しい目に合っているだろう。済み次第お前にも見せてやる」

あの者達に、俺の大切なマッチョ達に、一体何をしたというのだ?
あってはならない反抗心が、急激に湧き起こってくる。

「どういう、ことですか、兄上。俺はちゃんと貴方の言う事を聞いて、戻ってきた……お願いです。彼らを酷な目に合わせないで……あげてください。どうか……」

感情を抑え、普段は遠慮がちに触れていた兄上の白肌を、ぐっと掴んだ。
怪訝な顔で見返される。

「どうしたのだ、ルニア。少しの間地上へ降りただけだというのに、何がお前をそんな風に変えたというんだ? 私を困らせるな」
「……お願いです、兄上。俺の頼みを聞いてもらえませんか……」
「無理だな。私の命令を忘れたのか? お前の精気集めはもう終わったのだ。使い果たした体に用はないだろう」

その言葉に、俺の心が大きな音を立てて崩れ落ちそうになる。

「どうして……ひどい……人間には俺たちと、俺と同じように、心があるのです! いきなりこんな所に、魔界に連れて来られて、瘴気だって酷いはずだ。もう傷つけないであげてください!」

兄上は俺の顎をぐっと掴んだ。怒りを隠さず、俺をすごい形相で睨みつける。

「お前が心配なのはあの男だろう。いいか、あの騎士は一人だけ特別に惨い拷問に合わせている。私からお前を奪おうとしたからだ。相応の報いを受けなければならん」

拷問だと……?
なんてことを。酷すぎる。
頭が真っ白になり、身体が小刻みに震えだした。

「ベリアスに何をしたんだ、ひどい、兄上……ッ」
「ああ、泣くな。ルニア。あんな男はもう忘れろ。何の価値もない、ただの人間だ」

憐れみの瞳で俺を抱きしめてくる兄上を、両手で押しのけた。
腰を引き、俺は兄上の腹に向かって、ドシッと思い切り蹴りを入れた。

「……くッ」

怯んだところで、俺はベッドの上から急いで降りようとした。
すると後ろから強く腕を掴まれる。

「離せ……ッ、兄上なんか、もう知るか!!」
「ふざけるな、ルニア、何をーー」
「俺はベリアスに会いたいんだ! あいつと一緒にいるんだ!」
「馬鹿を言うな、頭を冷やせ、お前は無知すぎるんだ」

絡みつく長い腕を振りほどき、意を決して口を開いた。

「うるさい、黙れ……ッ! もう兄上なんか、大っ嫌いだ!!」

目を見てはっきりと言うと、俺の兄は見たこともないような、呆然とした表情をしていた。
ぽかんと口を開けた間抜け面だ。
俺の初めての本気の反抗に、驚愕しているのだろう。

「おい待て、行くな、ルニア」
「……バイバイ。兄上」

もういい。
こんな意地悪な男、愛想を尽かせてやる。
可愛い弟に捨てられて、めそめそと泣いていればいいのだ!!



俺は急いで部屋を抜け出した。
要塞のごとき頑丈で広い屋敷を歩き回り、騎士達を探す。中は何層にもなっており、全てを調べると数時間はかかってしまうほどの広さだ。

まず執事室へ向かった。
兄上の忠臣であるデシエならば、全てを把握しているに違いない。
堅固な黒扉の前に立ち、ひと呼吸をついてからバン!と開ける。

中にいたのは、数人の使用人とお茶をする目的の執事だった。

「お前っ、何のんきに茶なんか飲んでるんだ、デシエ!」
「ルニア。ああ、そんな全裸で現れるとは。何を考えているのです。ーーお前達、あっちを向いていろ」

使用人に注意し、俺を取り出したシーツの中にくるむ。
腹が立ち、急いで衣服をまとった。睨みつけると、優しげな顔で微笑まれた。
この男、状況が分かっているのか?

「ベリアスはどこだ! 言わないと、お前をクビにするぞッ」
「貴方に私をクビにする事は出来ませんよ、ルニア。私は貴方の父上と兄上にお仕えしているので」

余裕で告げられ、地団駄を踏みたくなる。
この男とやり合っても勝ち目はない。どうすればーー

「なあ、どうして兄上は酷いことをするんだ。拷問するなんてそんな、非人道的だと思わないか?」
「ゼフィル様をそのように思われるなんて、可愛らしい方ですね。我々魔族にとって、人間など畜生と変わらないのですよ。貴方は外の世界を全く知らないから、そんな優しい考えをお持ちなのでしょう」
「何言ってんだ! あいつが何をしたっていうんだ、早く解放しろ!」
「それは出来ません。命令ですので」

俺は執事の言う通り、無力で無知で、この屋敷ではただ子供のように喚くことしか出来ない。
けれど騎士の顔を見たくてしょうがない。
俺のせいで、辛い目に合ってほしくないのだ。

「デシエ、お願いだ。ひと目だけでも会わせて……そうしたら、諦めるから……」

嘘でもなんでもついてやる。もうなりふりかまっていられない。
涙ぐんだ俺の目を見て、執事は深いため息を吐いた。

「ルニア。私に出来ることは限られています。ですがー一緒に来てください」

俺は執事に連れられ、ある部屋へと向かった。
屋敷の中層に位置する、物々しい空気を放つ大広間だ。
ここで凄惨たる拷問が繰り広げられているのか。

恐る恐る重厚な扉を叩くと、いつの間にか、隣にいた執事の姿は消えていた。
代わりに部屋の中から現れたのは、エアフルト公爵家次男のお兄様だった。

「おや、ルニア。久しぶりだね。元気にしてたか?」
「お兄様……!」

長身で気品あふれる金色の髪がまばゆい、魔族らしからぬ優しいオーラをまとうお方。
俺を笑顔で迎え、その腕の中に抱き寄せた。

「お前に会えて嬉しいよ。地上に降りていたのだろう? 心配していたんだ」

顔をじっと見つめられ、不思議と緊張がほどけていく。
だがその時、お兄様の背後に何やら人の気配を感じた。

体を離して部屋の中を覗くと、広間の大きなテーブルを屈強な騎士達が囲み、俺達に冷めた目を向けているのが見えた。

「なに、やってんだ、お前ら……」
「それはこっちの台詞だぜ、ルニア。お前の兄貴たち頭おかしいだろ、魔界に連れて来られたと思ったら、こんな所に閉じ込めやがって」
「ああ、本当だよ。武器も全て取り上げられて、まるで籠の中の鳥になった気分だ」

足を組んでふんぞり返っていたのは、隊長のリーディスだった。
隣で副団長のネイガンが不服そうに文句を述べる。向かいにはアルシャの姿もあり、俺を心配そうに見つめていた。
その他にも数人の騎士たちが、大人しく席についていた。

マッチョ騎士達が、俺の屋敷に勢揃いとはーー本来ならば心温まる光景だが、気分はどん底だ。
一番大切な騎士の姿が見当たらない。一体どこへ行ったんだ?

「ルニア。実は今ちょうど騎士団の皆さんと、お茶をしようと思っていたんだ。地上からやって来て疲れただろうからね。今は屋敷内も瘴気から守ってあるし、安全だよ」
「え?」

無関係の人間たちに対しても、お兄様は慈悲深さを発揮していたのか。
兄上とは違い、誇らしい存在だ。
けれど俺は心を鬼にして、問い正さなければならない。

「皆をもてなして下さり、ありがとうございます、お兄様。あの……ベリアスという騎士をご存知ですか? ここに居ないようなのですが」
「……ああ、彼のことか」

優しい顔に、急に影が潜む。
すると広間のテーブルから、ドタ!と大きな物音がした。
ネイガンが眉を吊り上げ、足音を鳴らしてこちらに向かってくる。

「おいあんた、早くベリアスのいる場所へ連れて行け! 俺達はあの銀髪の男の相手を、あいつだけにさせるつもりはないぞ!」

凄い剣幕で凄むと、背後の騎士たちも一斉に立ち上がり、副団長に追随する勢いを見せた。

兄上はさっきまで俺と一緒にいた。
ではベリアスは今一人でどこに居るんだ?
言い様のない恐怖が襲い、頭がぐらつく。

「おい、ルニア。お前なに死にそうな面してんだよ」

鋭い目つきで様子を窺っていたリーディスが、俺のそばに立ち、頭を無造作に撫でてきた。

「だって……心配なんだ、俺はあいつがいないと……」
「しょうがねえな奴だな。あのしつこい団長が簡単にくたばるわけねえだろ。なぁ、アルシャ」
「ええ、俺もそう思います、隊長。……ルニア、君はそんなに団長が大切なのか? 君に執心しているあのお兄さんを、振り切ってでも……?」

アルシャが少し辛そうに、切ない瞳で俺を見つめる。
俺のことを好きだと言ってくれた騎士の気持ちが、なんとなく分かった気がした。

胸にこみ上げるこの感情は、いつも幸せなばかりじゃない。
相手のことを思うと、途端に苦しくなるのだ。

「うん、そうなんだ。俺は、ベリアスが大切なんだ」

素直に告げると、アルシャは少し悲しそうに微笑んだ。
そんな時、近くで成り行きを見守っていたお兄様が、俺の肩に手を置いた。

「ルニア、お前は騎士団の人たちに随分お世話になったようだね」

優しく語りかけられるが、その瞳には困惑の色が窺えた。

「はい、皆優しい人々です。……べリアスだってそうだ。お願いです、お兄様。あの者は俺にとって、ただの人間ではなく、大事な存在なのです……! 何か知っているのならば、どうか教えて下さい!」

胸に縋り付くと、お兄様の表情が曇る。
一気に不穏な気配が立ち込め、心臓がきりきりと痛み出す。

「お前は行かないほうがいい。つらい思いをするだけだ」
「それは……どういう意味ですか?」
「すまない。私も止めようとしたのだが、次期当主の命には逆らえなくてな……」

言葉を濁すお兄様の胸ぐらを、俺は下からぐっと掴んだ。
精一杯凄み、沸々と湧き起こる思いをぶつけようとする。

「お兄様……教えてくれないと……き、嫌いになるぞ……ッ!」
「えっ、ルニア?」

驚愕の面持ちで聞き返す男を必死に睨む。
周りにいた騎士たちも、一瞬どよめいた。

「俺は本気なんだ……お願いだ、皆して俺からあの騎士を、奪わないでくれ!」

涙を堪え訴えかけると、お兄様は俺の手を上からぎゅっと握りしめた。
その青い瞳は揺らめき、やがてこれまでにないほどの慈愛の色を浮かばせた。

「そんな事を言わないでおくれ、ルニア。私はお前の愛を失えば、生きてはいけない」

真摯に見つめられ、鼓動が高鳴る。俺だって愛する兄弟を失いたくはない。
けれど今はそれ以上に、心を突き動かす存在があるのだ。

騎士達が固唾を飲む中、俺とお兄様のやり取りは続けられた。

「……分かった。お前がそんなに本気なら、教えてあげよう」
「ほ、本当に? いいんですか、お兄様」
「ああ。兄というのは、弟を守る為に存在するのだからな。……だからもう嫌いになるなんて、言ったら駄目だよ」

俺はお兄様の胸に抱きつき、その温かな抱擁を得た。
やっぱりこの方は兄上とは違う。
俺の訴えを最後まで聞いてくれた、優しいお人だ……

「ルニア、ベリアスを連れ戻してくれ。頼んだぞ」
「ああ、分かった。皆、すまない。もう少しだけ、辛抱してくれ」

申し訳無さを募らせて伝えると、お兄様が優しく俺の肩を抱いた。

「心配いらないよ、ルニア。皆さんのことは私がかけ合ってみよう。お前は彼のもとへ、早く向かうといい」
「あ、ありがとうございます、お兄様……!」

騎士達に見届けられる中、お兄様からベリアスの居所を掴んだ俺は、急いで目的の場所へと向かった。

騎士が囚われているのは、屋敷の地下にある一室だった。
早く会いたい、無事を確認し、力強い腕の中に抱かれたい。
その一心で俺は駆け出していた。



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