騎士団員おいしい。 | ナノ


▼ 20 断食の末に

目覚めると、俺は騎士の首に腕を回して、抱きかかえられていた。
窓の外から明るい光が差込み、眩しい。なぜか宿舎内の廊下を歩いている。

「起きたのか、ルニア」

ベリアスに顔を覗き込まれ、どきりとする。

「……また俺は眠っていたのか?」
「ああ。今度は数日寝ていた。悪かったな、俺のせいだ」

初めて謝罪された気がする。
落ちついて見えるが、後悔が滲むような口調だ。

最初の交接では意識は途切れなかった。けれどあの後二人で何度も交わり合い、いつしか記憶が飛んでしまったようだ。

「どこ行くんだ、ベリアス。歩けるから下ろしてくれ」
「待ってろ。もう着いた」

立ち止まったのは、訪れたことのある部屋だった。
騎士が俺を下ろし、無遠慮にドンドン扉を叩くと、見知った顔が現れる。

「……ああ、何だよこんな朝っぱらから。……ベリアス」

茶色の髪を掻き、寝ぼけた表情で文句を言う騎士は、副団長のネイガンだった。
おい。
完全なる既視感が襲い、くるくると目眩が再発しそうになった。

「ネイガン。しばらくこいつを預かってくれ」
「は? 俺がか。……ああ、そうか。お前今日から任務だもんな」

なんだと。
頭をガツンと殴られたような衝撃が走り、俺はベリアスの胸元を掴んで見上げた。

「どうして? あんたどっか行くのか? なんでいつも俺を一人にするんだ」

騎士が狼狽えたのを見て、自分の言葉が困らせているのだと分かった。
でも酷すぎる。二人で契を交わしたばかりじゃないか。
あんなに身も心も溶け合って、通じ合えたと思ったのに。

それに切実な問題だってある……食事はどうするんだよ!

ベリアスは俺を抱きしめた。
硬い胸板に鼻先が当たり、ぶっと間抜けな声を出す。

「我慢しろ、ルニア。すぐに戻るから」
「……嫌だ、俺も連れてってくれ、ベリアス……約束しただろ」

懇願も虚しく体を離され、ネイガンに押し付けられる。
睦み合った仲だというのに、なんて非情な男なんだ。
副団長を見ると、俺を憐れんでいるのか、優しく微笑まれた。

「ルニア。ベリアスは重要な任務があるんだ、分かってやれ。それに、ここは安全だ。俺のところにいればいい」

言っていることは理解できるが、やすやすと納得できない。
問題の男に目を向けると、ため息を吐いて俺の頭をくしゃっと撫でた。

「そうだ。こいつは信用できる男だ。……お前さえ変なことしなけりゃな」

ベリアスがじろっと俺を見据えた。
おい。俺よりこの騎士を信じてるわけか。
ネイガンは団長の言葉に照れた様子だった。

こうして俺はひょんなことから、副団長に預けられることになったのだ。
たった数日といえど、単なる禁欲生活ではない。
分かっているのか。淫魔の俺にとっては、ほぼ断食だぞ!







副団長ネイガンの部屋で過ごしてまる二日が経った。
端的に言えば、快適だ。
この騎士はさすが俺の第二のお兄様といえるだけあって、慈愛に溢れ、気配りのできる優しい男だった。

「ルニア、今日のご飯は牛スジの煮込みと焼きたてのパンだ。一緒に食べないか?」

ネイガンがまた夕食の誘いをしてくる。
騎士団内にある自室に、大きなキッチンが備わっているのは、俺の知る限りこいつだけだ。

「あんた、よく毎日自炊してるな。仕事終わりで疲れてないのか」
「はは、俺の趣味だよ。食堂も味は悪くないが、栄養はこっちのほうがいい」

テーブルについて俺を手招きする。
俺は人間の食事には向いてない。魔族と食す物が違うのだ。
けれどこの騎士の微笑みを前にすると、断れなかった。

「うまいか、ルニア」
「ああ、結構美味いな。精気のほうがいいけど。あんたくれないか」
「またそれか。駄目だと言ってるだろう。ベリアスが悲しむぞ」

騎士はベリアスの友人らしく、断固として俺の誘いには乗らない。
俺も他の男を受け入れないと、約束をした身だ。
交接をする気はない。ーーそうだ。なんという心の入れかえ様だ!

俺はベリアスの言う事を守り、これからは貞操を守ろうとしている。
けれど、今あいつは俺のそばにいない。
ふざけるなよ。精気なしにどうやって生きて行けと? 

そこで考えた。
繋がらなければいいのだ。騎士団に来る前のように、無意識下の人間に対する夜這いなら、許されるだろう。

人間に操を立てようとするなんて、俺も相当頭がおかしくなったものだ。

「じゃあ俺は寝るよ。おやすみ、ルニア。あ、明日も同じ時間に起こしてくれ」
「分かった。おやすみネイガン」

ラフな格好に着替え、就寝の準備をする副団長。
この騎士は眠りが深く、起きることが苦手らしかった。
ここへ来て以来、眠る必要のない俺が起こしてやっていたのだ。

ふっ。油断したな。
今日こそ実行してやる。
一人ほくそ笑んだ俺は、騎士が眠りにつくのを待って、寝室へと忍び込んだ。

広いベッドにうつ伏せに寝ている。
これじゃ術式がかけづらい。魔法で体を反転させ仰向けにした。
ぐっすり眠る騎士に淫らな夢を見せ、覚醒しないよう術式を施す。

(やはり、いい体だ)

ごくりと唾を飲み、騎士のシャツをまくり上半身をチェックする。
肌はそれほど焼けていない。腹筋は割れて引き締まっている。
肉付きもよく、健康的な肉体美からは、色気すら漂ってくる。

ああ。よだれが出そう。
操を立てることがこれほど辛いとは。

(ここぐらい、見てもいいだろう)

俺は我慢できずネイガンの下着をズリ下ろした。
うそだろ。かなりでかい。
くそ、最初に無理やりやっとくんだった!

苦い気持ちになりながら、眼前のやらしい光景をオカズに自慰を始める。

「っあ、あぁ、……はぁ、んあぁっ」

薄目で腹筋を眺めていたが、一度目を閉じると思い浮かぶのは違う男だった。

「ああ、……んぁ、あ……ベリ、アス……」

まるで自慰に集中できない。俺はトチ狂ってしまったのだろうか。
あいつはいないのに、心も身体も乱されていく。

「あ、あぁ、もう出るっ、出して、いい……?」

こんな風に一人で会話して馬鹿としか言いようがない。
細かく体を震わせ、騎士の上半身にぶっかけた。

俺の精液を与えた事により、じわりと体内から漏れ出る精気を味わう。
期待に漏れず、柔らかな甘みが優しく広がり、おいしい。

息をつきながら、すぐに魔法で処理をする。

対象の体にかけることによる精気の摂取は、量的にさほど多くない。
つまり数をこなさなれば、腹は満足に膨れないのだ。

(あと数人は必要だ。また夜這いしなければ……)

俺は部屋を抜け出し、時間まで狩りに出ることに決めた。



数時間後。
宿舎内をコウモリ姿で飛び回り、騎士たちが眠る部屋の物色を続けていた。
すでに何人かを襲い、ノルマも終わりに近づいている。

次で最後にしよう。
手をつけていない一角を見つけると、透明化し、こっそりと忍び込んだ。

室内は静かだった。まだ深夜は過ぎてないが、二つ並ぶベッドのうち、一人の男が仰向けで寝ていた。
速攻で術式をかけ、騎士の上に馬乗りになる。
先ほどと同じく気分を高め、騎士の裸体チェックに移る。

体つきはまさにマッチョそのもので、かなり厳つい。
顔立ちも荒くれ者といった雰囲気で、さぞや鬼気迫る交接をしそうな男だ!

いや、気分を盛り上げても苦しいだけだ。

「んっ、く、あぁっ、だめえ、気持ち、いい……っ」

前のめりになり、自身を握る手の動きに集中する。
すると男の腹筋がピクピク動いた。
あれ、これはまずい。また起きるパターンか?

ここの団員達は魔術が標準装備のため、感覚や耐性に優れているのか、時折こうした事故が起きるのがネックである。
とっさに身を退けようとすると、両手に腰をがっちりと掴まれた。

「……てめえ、何してんだ……どっから入ってきた」

ドスの効いた声が下から聞こえた。
完全に柄の悪そうな男が覚醒している。

「なんだ、俺の術をやぶって起きれるなんて、お前凄いな。俺は淫魔だけど、何か文句あるか?」

悪魔らしく慌てず喧嘩腰に問うと、男は眉間に皺を寄せた。

「ああ、お前か……知ってるぜ。可愛い面して生意気な野郎だ。俺に相手してほしいのか」

不遜な態度で言い放ち、起き上がった。
勇ましい体躯が簡単に俺の体を覆い、体勢を変えてベッドに押しつけてきた。

「アァぁッ」

うつ伏せに組み敷かれ、予期せぬ事態に悲鳴を上げる。
荒々しい振る舞いに一瞬心が踊るが、どうやらこの騎士はかなり不穏な空気を漂わせている。

「おい。お前、噂通り綺麗な体だな。ヤッちまうぞ?」

すでに裸だった下半身を撫で回され、尻に手を這わされた。
俺は焦りながらジタバタともがく。
どうすればいい、俺の貞操がーー

ベリアスの顔が浮かぶ。
俺は動揺していた。
淫魔のくせに、あの約束以来自分が誰かのものだと、すっかり認めてしまっているようだ。

「あぁ、あ、やめ、て」
「何言ってやがる。自分で襲いにきたくせに、犯されんのは怖いのかよ」

男の嘲笑が響き、体を弄られた。
抵抗しようと更に大きく悲鳴をあげると、扉が急にバタン!と開かれた。

「おい、何やってんだお前ーー」

違う騎士が入ってきたようだ。
男に乗っかられたまま顔を後ろに向けると、見覚えのある人物が強張った表情でこっちを見ていた。

「……あんた団長の、確か……ルニアだろ」

それは若きマッチョの騎士、俺と野営地で交接をしたセイラだった。
すぐに俺の上にいた男を引っ張り、ベッドから引きずり降ろそうとした。

「っんだよ、邪魔すんなセイラ!」
「お前馬鹿じゃねえのか、止めろ! そいつは団長のもんだぞ!」
「ああ? 別にいいだろ。バレやしねえよ」

二人の騎士が言い争いを始めた。
以前の俺ならばこの展開に胸が踊り、複数プレイを持ちかけたとしても不思議じゃない。
だがなぜか俺は今、セイラが現れてほっとしていた。

やはり調子に乗ったせいで、面倒な事態を巻き起こしてしまったみたいだ。
深く後悔し、罪悪感すら湧き出そうだった。
大人しくネイガンのところに居ればよかったのだ。

「……悪かったよ、俺もう帰るから。喧嘩しないでくれ」

精神的に疲労し、その場を去ろうとしたその時。
ドサッと大きな音が響いた。
見ると、セイラが頭をもたげて壁から床に滑り落ちている。

「おい……?」

完全に意識を失った騎士を見て唖然としていると、いつの間にか隣に立っていた騎士に首を掴まれていた。

「ああ、こいつうるせえから魔法で眠らせてやったよ。じゃあ続きしようか? 淫魔」
「……ぐっ……なんだ、てめえ……ッ」
「怯えるな、冗談だよ。お前を犯したいとこだが、別の用があってな。一緒に来てもらうぜ」

騎士はにやりと呟き、口元を素早く動かした。
短い詠唱が行われ、ガクンと肩の力が抜ける。
体の自由を奪われた俺は、そのまま乱暴に担がれ、部屋から連れ出された。



prev / list / next


back to top



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -