騎士団員おいしい。 | ナノ


▼ 17 美しき騎士の思い

美形の騎士アルシャは、瞬時に怒りが頂点に達したかのような顔つきだった。
俺に覆いかぶさっていた魔術師を掴み、ぶん!と引き剥がした。

「うおッ! ちょ、何すんだよアルシャ!」
「ヴィネット殿、貴方こそルニアに何してるんだ!」
「あのね、誤解だよ。俺は淫魔ちゃんの看病をベリアスに頼まれてるんだ。触診しようと思っただけだって」

二人が言い争っている合間に、俺はベッドの上で、はだけたシャツを急いで直した。
騎士の動揺した視線がバッと向けられる。

「看病? ルニア、君は病気なのか。……大丈夫か?」
「えっ。いや、違うよ。ちょっと目眩が起きて、休んでたんだ」

騎士が現れたことにより事なきを得たが、淫紋云々の話を正直に話すわけにはいかない。
俺の存在と目的に関わる案件なのだ。

「そうだったのか。心配だな……」

物憂げに見つめてくる騎士だったが、やがて厳しい目つきを魔術師に向けた。

「ヴィネット殿。ここは私に任せて、任務へ向かって頂けませんか。教会の不穏分子である、例の魔術師の男の行方が途絶えたのです。怪しまれないように、他の聖職者達の動きを探れとの命令です」
「ああ、あの男やっと動き出したのか。分かった、俺も連中のとこに戻るとするよ」

急に真面目に仕事の話をしだした。
例の魔術師というのは、この間の作戦会議の時に話題に上っていた、悪徳魔術師のことだろうか。
しかし、そんな事よりも気になったことがあった。

「おい、あんた。ヴィネットだっけ。人のこと魔族のスパイ呼ばわりしといて、あんたも教会でスパイやってんじゃねえか。魔術師のくせに騎士団の小間使いなのかよ?」
「はは、まあ否定のしようがないな。確かに俺は騎士団の命令で隠密行動してるんだ。この騎士と同じだよ」

アルシャはまるで一括にされたくないと言うように、怪訝な顔を示した。
目の前にスパイが二人ーーきな臭い騎士団だ。
マッチョ達がわらわらいるという事だけが、救いである。

「じゃあ俺はもう行くよ。あ、ルニアちゃん。ここにいる間は君に特別な術式をかけたから、勝手には抜け出せないんだ。変なことしちゃ駄目だよ?」

なんだと。
俺はベリアスが戻るまで、ここに閉じ込められるのか。
睨みつける俺にヴィネットは嫌らしい笑みを向け、研究室から出ていった。

ベッドに座る俺と、美形の騎士アルシャが取り残される。
俺はちらっと前に佇む騎士を見た。
なぜか若干照れたような顔で見返された。

「ルニア、君の隣に座っても、いいかな?」
「うん。いいよ」

俺の答えに微笑みを浮かべたアルシャを見て、思い出す。
そうだ。
この男はコウモリ姿の俺を見初めたことに始まり、その後も人間の俺に好意を持っているらしかった。

室内に二人きり、誰の邪魔もない。
これはーーチャンスなんじゃないのか?

まる一日寝ていたせいで、腹の中の精気はとっくに尽きている。
目眩はするし、体は本調子ではない。でも、お腹が空いてしょうがない。

それに、淫紋は消えかかっている。
今なら何をしても、きっとベリアスにはバレやしないだろう。
沸々と邪な考えが脳裏をよぎる。

けれど。
ふと昨夜のベリアスの言葉が思い出された。
あいつは俺に、『何でも好きなだけ与えてやる、俺のものになれ』と言ってきた。

なぜ胸の底でくすぶるように、騎士の言葉が残り続けるのだろう。
淫紋とは違い、けっして消えない刻印のように。

「……俺、君のこと考えてたんだ。あんな風に団長のものだと宣言されても、俺はーー」

つらつらと思考を巡らせる俺の隣で、アルシャが語り始めた。
急に肩をがしりと掴まれ、騎士のほうに向けさせられる。

「俺は、君を諦めるなんて、出来そうもない。一度きりのことだったけど、君との時間が素晴らしすぎて、忘れられないんだ……」

気がつくと、アルシャの真剣な顔が迫っていた。
唇を見据え、ゆっくりと重ね合わせられる。

「んんぅ……っ」

騎士の手に頬を包まれ、優しく愛おしむような口付けをされた。
息継ぎの合間に開いた唇から、舌がそろりと入り込む。
うっすらと目を開けると、劣情を覗かせる騎士の瞳とかち合った。

「アルシャ……?」

戸惑いつつ呼びかける俺を見つめ、騎士は苦しげに眉を寄せて、頬をなぞってくる。

「……ルニア。俺とこういう事するの、嫌?」

俺はなぜか言葉に詰まった。
嫌ではない。ただ、複雑な思いがした。

一体どうしたというのだ。
いつものように淫らな腰つきを披露し、隙を与える間もなく、相手を誘惑すべきなのに。

「この間はすごく積極的にしてくれたのに……やっぱり俺のことは、もう、飽きちゃった?」

騎士が淡い緑の瞳を揺らめかせ、切なげに尋ねてくる。

俺は、人間の気持ちなどどうでもいいのだ。
ただ精気を味わい、食欲を満たせれば。

そうだ、目の前で魅力的な餌が、俺に食ってほしいと願っている。
それを無視する悪魔がどこにいる?

「違う、アルシャ。俺は……」

言い淀んでいると、騎士は突然俺をベッドの上に押し倒してきた。
はぁはぁと呼吸を荒げ、顔を上気させている。
金色の髪を揺らす端正な顔立ちが、惜しげもなく欲情を見せつけている。

「ルニア。君に触れさせて、お願いだ、一度だけでいいから……」

騎士は俺の腰を両膝で挟み、見下ろした。
手を徐々に服の中に潜り込ませ、肌の上を、胸の先を指の腹で撫でてくる。

「んっんん……!」
「可愛い、ルニア。ここ、感じるみたいだね」

優しく声をかけながら、シャツを捲し上げ、前かがみになった。
俺の乳首を口に含み、柔らかな舌で舐めたり吸ったりして、刺激を与えてくる。

「あ、あぁ、ん、だ、めっ」
「……どうして? ずっと気持ち良さそうな顔、してるよ」

甘い囁きが耳に心地良い。
激しく奪われるようなベリアスの交接とは異なり、自分の意識が変なふうに乱されてしまう。

「ごめんね。今の君にこんな事して……けど俺、こんなに愛らしい君を前にしていると、自分が抑えられなくなるんだ」

熱のこもった言葉を伝えられ、舌と手が上半身にくまなく這わされる。
絶え間ない愛撫に体がビクビクと仰け反ってしまう。

「んぁ、あぁ、やぁぁ、まって……っ」
「触ったらだめ? でも、君のここも……気持ちよくしてあげたいな」

ズボンの上から、手のひらでやらしく撫で上げてくる。
腰を震わせた俺を見て騎士は微笑むと、ゆっくりボタンを開けた。
下着を少しずらし、勃起した俺のモノにそっと触れる。

しかしその表情に陰りが見えた。

「……君の印、消えかかってる。どうしたんだ?」

下腹部にある淫紋をなぞられ、腰がさらに大きく跳ねた。
当然だが、見つかってしまったみたいだ。

「……っはぁ、はぁ……お前も、気づいてたのか……」
「ああ。団長がつけたものだろう? どうしてーー」

何も答えずにいると、騎士は俺の上に覆いかぶさってきた。
打って変わって、がっちりと腰を押さえつけられる。
アルシャの興奮した目つきに、どきどきと心臓が高鳴った。

「ルニア。俺やっぱり、君が欲しい。まだ俺にもチャンス、あるのかな?」
「んあ、あ、ぁ、アルシャ……っ」

騎士は黒い制服を脱ぎ始めた。
上半身が裸になり、しなやかな筋肉が張った体がすぐ前に現れる。
俺はごくりと喉を鳴らした。

「どうして欲しい? ルニア。君がして欲しいことを、してあげたい」

すぐにでも繋がりたいと言うべきなのに、俺は何故か踏みとどまっていた。
けれど食欲はおさまらない。
美味そうな騎士の精気を喰らいたいという思いは、簡単には消せないのだ。

「あ、アルシャ、俺、イキたい……お前の手で、触って……」

ぐるぐると欲求に苛まれながら、控えめな要求を告げた。
騎士は眉を上げて驚きを見せながら、すぐに笑みを浮かべる。

「いいよ。いっぱい気持ちよくしてあげる。……俺のも、一緒にしてもいい?」

耳元で優しく囁かれ、俺はこくこくと頭を頷けた。
騎士は勃ち上がった自身を俺のチンポに這わせ、ゆっくりと擦りつけた。

「あ、ああぁ! はぁ、あ、やぁあっ」
「ルニア、あぁ、やっぱり可愛い、君の顔、よく見せて」

腰を揺らしながら、囲むように手をついて俺を見つめてくる。
時折口を首筋や頬に触れさせ、やさしく愛撫するのを忘れない。

「だめ、あぁッ、もう、いっちゃう、アルシャ……!」
「俺もだ、君とこうしてるの、すごく気持ちよくて、少しも……我慢できない……ッ」

騎士は動きを強め、前のめりになった。
汗ばんだ胸板に強く抱かれながら、互いを擦り合わせ、二人で絶頂へと向かう。

「あ、んああぁぁッッ」

肌の間に温かい液が放たれ、ともに果てたことを知る。
アルシャの精液を体に浴び、じわりと精気が体内に染み渡る。

ああ。未だ劣情を漂わせる仄かな甘みーー
この間よりもさらに深みを増した騎士の味を、一滴も残さず堪能する。

この時ばかりは、何も考えられない。
頭が真っ白になり、ただ腹が満たされていくのを感じ取るだけだ。

けれど騎士の甘やかな囁きが、俺を現実へと引き戻す。

「ルニア、君が好きだ。手に入らなくても、止められない。好きになってしまったんだ……」

顔を上げて、愛おしそうに呟く。
俺はまた、餌に惑わされるような事を言われている。
呆然としていると、再び騎士の口づけが落とされた。



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