騎士団員おいしい。 | ナノ


▼ 14 初めてのこと

その夜。
兵舎に戻った俺は、怒りの形相の騎士によって、即座に浴室へと連れ込まれた。
シャツとズボンを剥かれ、同じく裸になったベリアスに引っ張られ、シャワーの下へと突き出される。

「うぁあ、なにすんだ、尻尾も濡れるだろっ」

ベリアスの命令で本来の姿となった俺は、黒い尾を必死に水滴から守ろうとした。
そもそも俺は水に濡れるのが好きではない。
風呂に浸かる物好きな魔族もいるが、魔力をまとった体は汚れ知らずで必要ないのだ。

「大人しくしてろ。俺が洗ってやると言ってるんだ」

壁に逞しい腕をつき、囲むように鋭い目で見下ろしてくる。
日に焼けた肌が覆うガッチリとした胸板から、芸術的に引き締まり割れた腹筋に水が滴り、目を奪われる。

ああ、風呂から今すぐ出たいのに、卑猥な裸体を前に足踏みしてしまう!

「待って、やだ、ぅあっ」
「おかしな奴だな。何が嫌なんだよ」
「ここで、した事ない……っ」
「そうか。お前でも初めてのことがあるんだな」
「ん、んぅ、あぁ」

冷たい騎士の声と俺の喘ぎが、湿り気をおびた浴室に反響する。
泡立たせた大きな手を俺の胸に這わせ、そのまま首や背中、脇腹を撫でるように洗ってくる。
抱きしめられて密着すると、尻を手のひらに掴まれた。

「あぁぁ! ベリアスッ」

気持ちよく揉まれ、尻尾も握られて泡にぬるりと滑らされる。
性感帯を一気に責められ、体をピクピク震わせた。
あまりの快感に、だんだん腰が砕けそうになる。

「中は……? 早くっ……」

すでに硬くなっている騎士の逸物に、自分のを擦りつけながら腰を揺らす。
太く長い指が尻の割れ目に滑り込んできた。

ぐちゅっ、ぐちゅっと音を立てて内部を掻き出すように擦られる。

「はぁ、あ、あぁっ、もっとッ」
「じっとしてろ。動くなよルニア」

声が苛立っている。
目線を合わせると、金色の瞳が細められ焦燥を募らせていた。

「お前、またあっさり俺との約束を破ったな? 本当に言うこと聞かねえな」
「んぁぁっ、だって、……しょうがない、だろ…っ」
「何がだ。お前は俺が抱いても、抱かなくても、関係ねえんだろうが」

舌打ちをして指を引き抜き、乱暴に体を反転させ、壁にぐっと押し付ける。
尻に勃起したベリアスのモノが当たり、俺は腰を揺らめかせる。

首に手のひらを這わされ、なぞられた。
気持ちよさに喉がのけぞる。
自然に顔を後ろへ向け、口づけを乞おうとした。
けれど冷たい視線が突き刺さった。

「はぁ、はぁ。キス、して」
「今度は守れるのか? なあ、ルニア」

寸前で止められ、思考がぴたりと止まる。
何を言ってるんだ、この男は。段々腹が立ってくる。

「……俺は、精気を食らって生きてるんだっ。あんた俺に何も食べるなっつうのか!」
「そんな事言ってねえだろ。俺だけを食えと言ってるんだ」

俺の腹に施した淫紋を指でなぞりながら、偉そうに命令してくる。
この印はアレか? まるで浮気判明装置みたいじゃないか!

こいつは何様なんだ。
自分の性分をそんな簡単に変えられるものか。
気に入ってもらえて、俺のものだと言われて、浮かれた自分が馬鹿のように思える。

分かっているのに。
俺は、こんな風にベリアスに触れられているとーー情けないことに、懇願するしかないのだ。

「なあ、入れて……。あんたの欲しい。くれたら考えるから……」
「忘れたのか? 俺が欲しいなら言ったことを守れ。ほら、足閉じろよ」

そう言って腰をがっちりと掴み、自身を俺の太ももの間に挿し込んできた。
ゆっくりと前後に動かされ、自分のチンポにもぬるぬる刺激が伝わる。

「うぁ、ああッ、なに、気持ち、いいッ」

泡のせいで滑り、離れやすくなる体に腕を回され、後ろから抱きかかえながら打ち付けられる。
段々動きが早くなり、快感に耐えられなくなってくる。

「ベリアス、んぁあ、あんたの、良い…ッ」

実際に挿れられる刺激には程遠いのに、それが初めての経験だったからか、異様に興奮した。
はしたない声をあげ続け、すぐに上り詰めてしまう。

「い、いく、もう出る……!」
「ああ、イけよ、ルニア」

低い声で射精を促されると、それだけで我慢できなくなった。
腰を何回も痙攣させ、壁に白い液がべとりと付き、だらっと下に流れていく。
放心する間もなく、律動は止まない。腿の間に出し入れされる太い肉棒を見つめる。

「入れて、ベリアス、お願い!」
「駄目だ。このまま出すぞ」

容赦なく告げられ、ガクガクと足を震わせる。
中が疼いて仕方ないのに、なんでこんな酷いことをするんだ。

やがて熱いモノの先端から多くの精液が迸り、俺はただそれを眺めているしかなかった。

ああ、最高に美味しい精気が、無駄に流れていく。
この騎士はやはり非情で、鬼畜だ。

力なく胸にもたれかかると、まだ互いに熱く火照る肌を、じわりと感じた。
俺は体を流され、素早く浴室から連れ出された。

体を拭かれて、なぜか騎士に抱っこされた。
そのまま寝室のベッドに向かい、シーツに下ろされる。

まさか。そうだよな。
あれで終わりのハズがない。
もう一度期待に胸を弾ませ、ベッドに上がり俺の隣に寝転がる騎士を見下ろす。

すると体を引っ張られ、抱き寄せられた。
腕の中に包まれ、胸にぴたりと寄り添う。

「ベリアス……」

甘い声で囁き顔を上げると、騎士は少し眉間に皺を寄せ、目を閉じていた。

ーー眠っている。どういう事だ。

「なに、してんだ。起きろって」
「お前も早く寝ろ」

短かく呟き、抱きしめる腕がぐっと強まる。
起き上がろうとするが、力が敵わずまるでほどけない。

これは何の冗談なんだ?
淫魔の俺と、何もせず寝ようというのか。

睨みつけていると、薄目が開いた。
暗がりだが、口元が僅かに上がって見える。

「なんだ、寂しいのか? ……それならそう言えよ」

ベリアスが珍しく、静かに微笑んだ。
寂しい?
なぜ俺が餌の人間に対してそんなことを。

腕の中に収めたまま、頭をくしゃっと撫でられた。
軽く触れるようなキスを与えられる。

「……っ」

深まる前に口を離され、騎士の金色の髪が再びシーツに埋まる。
余計に混乱してきた。
彫りが深い凛々しい顔立ちが、柔らかく無防備な寝顔を晒している。

「ベリアス。俺はこんな風に、ただ誰かと寝たことはない……」

ぽつりと正直に告げると、目の前の冷たい男がぱちっと目を開けた。
いつもの仏頂面が、驚きの表情で見つめてくる。

「ルニア。お前、結構した事ないことが、多いんだな」

穏やかな口調で言われるが、半分馬鹿にされたように感じた。
だって俺は大事に屋敷の中で育てられてきたんだ。
自分でも世間知らずの面があることは知っている。

言い返せずに顔をうつむかせ、しばらく温かな肌に身を預けていた。
でもやっぱり納得いかない。
俺の食欲は、まだ全然満たされていないのだ!

諦めきれずに無理やり顔を近づけ、ベリアスの唇の表面を、舌でちょろっと舐めとった。

「ん、んぅ」

一人で頑張っていると、大きな手のひらが首の後ろに這わされた。
髪をすくい上げるように撫でられ、ぞくぞくと快感が走る。
硬い指の腹は無骨な男らしく、俺はこの騎士の手が好きなのだと、ふと思い知る。

「ルニア。何してんだよ」
「……だって、まだ俺は満たされてない」

恨みがましく見つめると、ぐっと顔を近づけられた。

「それは、腹が減ってるだけか?」

真っ直ぐな眼差しで問いかけられる。
ベリアスが上体を起こし、俺を見下ろした。
俺の唇に自分のを触れさせ、舌で絡め取るような、深い口づけを施される。

ああ、やっとしてくれた。
あまりの気持ち良さに、瞬時に力が抜けていく。
長く重ね合わせるうちに、とろけそうになる。

「どうだ……?」
「……まだ、足りない」
「そうか」

俺を納得させるように、さらに優しく、長いキスをしてくる。

こいつは何なんだ、もう嫌だ。
抱いてくれないのにこんなキスして。心が乱されっぱなしだ。

俺は覆いかぶさっている騎士の腕を、両手でがしりと掴んだ。
精一杯怒りをぶつけるように、睨みつける。

「……全然足りねえよ、俺はあんたに嘘ついたんだよ、キスで精気なんか得られないんだ!」

なぜか自分らしくもなく余裕を失い、子供のように喚いた。
ベリアスは一瞬目を丸くし、動きを止めて顔を覗き込んできた。

「それも嘘か?」
「違う、本当だ……っ」

居たたまれず目を逸らすと、顎をぐっと掴まれて視線を合わせられた。

「なんで嘘ついたんだ。……お前、俺とキスするの好きなのか?」

にやりと笑い、見透かすような瞳を向けられる。
なぜか無性に腹が立ち、言葉が出てこなくなる。

「なあ、ちゃんと言えよ。ルニア。何回もねだってきたよな、お前。……気持ち良いんだろ?」

こんなに欲情にまみれた声で、耳元で誘うように囁かれて、もう破裂しそうだ。

「……そうだよ。あんたのキスが一番気持ちいい。他の奴と全然違うって……気づいたんだ」

諦めて白状した俺は、息をつきながら口を迫らせた。

はやく、もっとしたい。
口だけじゃなく、この男の全てが欲しい。
全部を与えられたい。

ベリアスは腰を掴み、俺を受け入れようと、僅かに口を開いた。
だが寸前で止まる。

「お前、誰とキスしたって?」

金色の瞳がめらめらと揺らめく。
ああ、また怒っている。俺のせいで。

変な男だ。なぜ俺に構う?
どうすればこの男を俺の自由に貪れるんだろう。

考えている間に、唇をきつく塞がれた。



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