▼ 12 燃える隊長
大男の騎士に担がれ、向かった先は大きめの野営テントだった。
松明を手に入り口に立っていた騎士が、ぎょっとした顔で俺たちを見る。
「隊長、その者はーー」
「見張りはいい。人払いしとけ」
リーディスが告げると、騎士はすぐに命令に応じた。
わくわく。
俺は一体どんな罰を今から受けるのだろうか?
内部へ入ると、ほわりと暖かな照明が灯っていた。
騎士は抱えた俺を広いテーブルの上へと乗せた。
「えっベッドじゃないの?」
「お前はここで十分だろ」
冷たく言われ、ぞくぞくっと気分が昂ぶっていく。
まさかこの上で乱暴に……興奮を抑え、ちょこんと座り足をぶらつかせる俺の前で、リーディスはローブを脱ぎ、黒い制服姿を晒した。
はちきれんばかりの筋肉をのせた、エネルギーに満ちあふれた体躯。
両手を後ろについた俺の上に、覆いかぶさってきた。
「おい、股開けよ。全部見せろ」
乱暴に言い放ち、俺のズボンを剥ぎ取り、シャツだけ羽織った姿にする。
テーブルの上で両足を曲げて閉じ、わざとらしくもじもじしていると、ぐいっと膝を割られた。
「なぁ。お前のもう勃ってんだけど。俺の隊員食っただけじゃ足りねえのか?」
「うん……だって一回しかしてねえもん」
正直に告げ、誘うように腰をよじらせる。
呆れ顔で片手をついたリーディスが、もう一方の手で指をずぷっと挿れてきた。
「うぁっああッ」
「ったく、なんで俺が部下の出したもんを、掻き出さなきゃなんねえんだよ」
文句を垂れながら丁寧にやってくれてるが、実はもうそこに精液は入ってない。
なぜなら精気となって俺の体に即吸収されたからだ。
しかしせっかくなので黙っていることにする。
もちろん気持ちがいいから。
濡れ濡れなのでどうせ人間にはバレないだろう。
「ああ、すげえ。やっぱ締まりがいいなお前。……クソッ、手当たり次第ヤッてんじゃねえぞ、ルニア」
「……はぁはぁ……なんで駄目なんだよ」
この男はそんな些細なこと気にしないタイプのはずだ。
けれど俺の問いにムスッとした顔で黙っている。
もしや。
「ふふ……あんたも、ベリアスみたいなこと言うのか……?」
「なんだよそれ。団長が何言ったって?」
「俺以外と寝るなって……んあぁぁっ」
会話の途中で騎士が指をいきなり引き抜いてきた。
俺の腰をがしっと引き寄せ、取り出したデカブツを押し当てる。
ああ。
一日のうちに二度も巨根に出会えるなんて。
夜這い最高!
「うそだろ。団長がそんな事言ったのか? ……はっ、最高じゃねえかソレ」
リーディスが楽しそうに喉の奥で笑う。
軽薄な笑いが似合う男だ。
悪魔的相貌に見とれていると、腰を入れ、ズプズプと中へ侵入してきた。
「んああぁぁッ、だめ、ああぁッ」
さっきの部下よりデカい。
使い慣れた経験の差だろうか、俺のはこれだ!と言わんばかりの存在感がすごい。
遠慮なく、ずっずっ、と奥に入って来られ、押しに負けないように必死に肩にしがみつく。
「んあっ、あぁ、はぁ、良いっ」
「おい、俺はそんな嫉妬深い発言しねえぞ。ここでは控えろって言ってんだ。抜きすぎると判断力が鈍るんだよ、戦闘下での基本だろ」
隊長が冷静に何か言ってるが、こんな事をしてる最中でまるで説得力がない。
「はぁぁっ、んぁ、でもあんたも、ベリアスだって、何ともないだろぉっ」
この二人は魔族の俺ですら尊敬に値する、恐るべき身体能力の持ち主だ。
騎士団の中でも、おそらく精力的に飛び抜けているのだろうがーー
「ああ? お前ここでもそんな団長とヤリまくってんのか?」
奥を突かれながら、褐色の瞳にギロっと険しい視線を投げかけられる。
不機嫌そうな顔を見て、なにやら俺の中でピンときた。
「あ、あぁッ、んん、や、やってる! たくさんシてるッ!」
「へえ……あの堅物を落としても満足出来ずに男漁りか、お前ほんと淫乱だな。誰がお前をそんな風に躾けたんだ?」
騎士は明らかに苛立っている。
どうやら俺の好きな罵りプレイに舵が切られたようだ。
興奮していると、さらに深くのしかかられ、動きを速められた。
制服にしがみつき必死に離れないようにするので精一杯だ。
「ん、んぁっ、リーディス、脱いで、俺だけ裸やだっ」
「だから良いんだろうが。情緒のねえ野郎だな。もうちょっと待てよ、後でベッド行ってやるから」
俺が甘えるように懇願すると、途端に優しげな声を出して抱き寄せられた。
もう罵り終わりか?
やはりこの男は想像よりも思いやりがあるのかもしれない。
それからも激しい律動は続き、リーディスが達する間に俺は何度かイッてしまった。
宣言された通りベッドに移動し、正常位で続きを行う。
下で揺さぶられていると、自分が子供になったかのような体格差を感じる。
騎士の広い肩幅に包まれ、押しつぶされんばかりの分厚い胸板に、悶えっぱなしだった。
「あ、あっ、気持ちいいっっ! もっと来てえ!」
「お前声でけえよ、外に聞こえんだろうが」
リーディスは突然俺の顎をわし掴み、乱暴に口を塞いできた。
「ん、んぅうっん……ッ!」
まるで獣に貪られているかのような、強すぎる口づけ。
息をする間もなく舌で掻き回される。
解放された後は放心状態となってしまった。
「……ふ、ぁ……あ……なにしてんだ……」
「お前がうるせえからだろ」
責める口調でまた唇を合わせる。
俺は半分パニックに陥っていた。
なぜ皆、俺に対してちゅっちゅしてくるんだ?
人にとってキスとは一体どういうものなのだろう。
交接で気分が高まったとはいえ、俺にとってはただの食事なのに。
餌に口づけをされるなんて、おかしいだろう!
ぐるぐると考えるが、気持ちよさには抗えない。
結局されるがままになってしまった。
どういうわけか俺はその時、ベリアスのことを思い浮かべていた。
寝台の上で、ふたり汗ばんだ体を休ませる。
この騎士は達するまでが長く、無事精気を堪能した頃には、すでに夜明けが近づいていた。
そろそろ従騎士のテントに戻らなければ。
「あー、汗かいちまった。俺風呂行こうかな。お前も行くか? ルニア」
「へ? 俺はいいや。もう帰る」
ちょうどいいタイミングと思い、立ち上がり衣服をまとった。
すると腕をぐいっと引かれ、再び寝台へと押し倒された。
騎士の顔が近くに迫る。
「服着るの早えよ。つれねえ奴だな」
「だってあんたが外行くって…」
口を開くと、またキスをされる。
この男は、俺の中で後腐れのない遊び人というイメージだったのだが。
やけに甘ったるい優しげな口づけに困惑した。
「リーディス、なんで俺にキスするの?」
「なんだよ。嫌なのか」
「いや、じゃないけど……」
子供にやるように、頭をくしゃくしゃと掻き回される。
「深く考えんなよ。ただの親愛表現だろ」
不敵に笑い自然に放たれた言葉に、さらにわけが分からなくなる。
俺に親愛を示す者なんて、地上に、ましてや人間の中にいるはずがーー
いや。騎士の言うとおり、深く考えるのはよそう。
俺はその後、リーディスとまた会う約束をしてその場を去った。
最近なぜだか、色んな獲物にペースを乱されている。
やはり無意識下の人間では飽き足らず、交接における人の反応を楽しんでいたツケが、まわってきたのだろうか?
釈然としないままコウモリ姿になり、上空を駆け巡る。
空はオレンジ色で、朝焼けに染まっていた。
ベリアスにはきっとバレた。
今度はどんな顔して怒るのだろう。
ちゃんとお仕置きしてくれるかな……
わくわくするつもりが、あまり気分が乗らなかった。
翼をはためかせ、地面へ向かって降下していく。
すると、突如体が上から衝撃を受け、ぎゅううっと強すぎる程の締めつけが起こった。
(ぐぅ……ッ、なんだ……!)
頭上からバッサバッサと大きな翼の音が聞こえた。
胴体を四本の大きな鉤爪に掴まれている。
気がつくと、俺は数倍以上も体のデカイ、鷲に捕獲され空を一緒に飛んでいた。
そのままどこか見知らぬ場所の、森の中へと連れ去られる。
(ま、待てよ……こいつ、まさか)
鷲は俺を洞窟へと運び、茶土の地面に優しくぽとりと置いた。
コウモリと鷲が向き合い、しばしの沈黙が流れる。
白と茶の翼に、まるい橙色の瞳。
姿勢正しく佇むその鳥は、俺の目の前で男の姿に変化した。
「おい、お前……なんでここに……」
現れたのは、真っ白な肌に濃いブラウンの髪が柔らかな印象を与える、見目麗しい魔族の青年。
全身黒のスーツをまとい、真剣な眼差しでコウモリの俺を見下ろす。
「ルニア。貴方はあのような血生臭い下賤の男共が集まる場所で、一体何をしていたのですか? 貴方の兄上が知れば、さぞやお怒りになられるはずだ」
優しげな外見とは裏腹に、開口一番キツイ言葉で説教を垂れてくる。
この魔界からの使者は、俺のよく知る我が公爵家の執事ーーもとい俺の教育係だった。
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