騎士団員おいしい。 | ナノ


▼ 8 美形の騎士

砂漠にぽつんと存在する温泉は、戦いで疲労した騎士たちを癒やすためのものだ。
魔術師の空間魔法によって作られ、防護も完璧。

簡易温泉とは思えぬほど立派で、白い石造りの大きな風呂が何個も並べられている。

俺は一糸纏わぬ姿で浴場へと現れた。
そこはまさに多種多様なマッチョ達の楽園……思わず敵である神に感謝したくなるほど、俺専用のハーレムであった。

「おい、あれ誰だよ。すげえ綺麗……つうかエロくね?」
「ああ、やばいな。男なのに肌真っ白、手足もすらっとしてて、ムラムラくるわ」
「止めとけよ、お前ら知らないのか? あいつ団長の愛人だぜ」

温泉に浸かってるガチムチ騎士たちが、俺を見て噂している。
地獄耳の俺には、全て聞こえているぞ。

体に興味を持ってもらえるのは嬉しいが、団長の愛人とはどういうことだ。
俺のマッチョ・ハントに支障をきたす事態になってしまう。

ちらちらと十数人いる騎士たちの裸体をチェックする。

隅でシャワーを浴びながら、いやらしく体を洗っている者。
楽しそうに男同士でボディタッチをしながら、じゃれあっている者。
そして男らしくざぶん!と温泉に入る者ーー

全部食べたい!
あ、でも何人かはすでに宿舎のほうで襲ったことがあった。

この場ではむしろ、俺一人が標的になってもいい。
兄上たちは個人主義で複数プレイには興味がなかった。
ある意味、俺の最終目標とも言える。

妄想を膨らませるが、股間まで膨らませ、怪しまれたらまずい。

まずは体を洗うフリをして、視姦を続けよう。
シャワーの下に立ち作戦を練っていると、突然場内に男の大きな声が響き渡った。

「おい、第一大隊から緊急要請だ! 団員は直ちに補給地に支援に向かえとの命令だ!」

黒い制服姿の騎士が入り口付近に立ち、伝令を言い渡す。
浴場にいた男たちは一斉にその場を離れ出した。

(そんな……嘘だろう?)

どういう事だ。
俺のハーレムが、砂漠に浮かび上がった蜃気楼のごとく、跡形もなく消え去っていくーー

一人ぼっちで取り残され、呆然と立ち尽くす。
しばらくして、腰にタオルを巻いた長身の男が現れた。

「おっ、ラッキー。皆出払ってるのか。俺一人で占領出来るな」

腕を組みながら満悦の笑みを浮かべている。
さらさらの金色の髪が目立つ、イケメン騎士ーーアルシャだった。

「……あれ? 一人じゃなかったか。君は……騎士には見えないな。どこから来たの?」

俺の近くへやって来て、親しげに話しかけてきた。
日に焼けていない、白い肌。
腹筋はほどよく割れ、肩から腕、胸筋に至るまでしなやかな筋肉が張り巡らされている。

ムキムキではないが、顔だけでなく体も美しい男だ。
女だったらメロメロだろう。もちろん俺も例外ではない。

よし、今日はこいつを標的にしてやる。
目当ての騎士たちが全部消えた腹いせだ!

「お前、アルシャだろ。俺のこと分からない? あんなにたくさん、手の中で可愛がってくれたのに」

上目遣いで甘ったるい声を出して問いかけた。
予想通り、騎士は目を丸くしている。

「えっ……俺、君に何かしたのか? ごめん、全く身に覚えが……おかしいな。こんなに綺麗な子を忘れるはずがーー」

自然に褒め言葉を漏らすとは、天性のプレイボーイらしい。
でも実は異常なまでの動物好きということを、俺は知ってるぞ。

「なあ、一緒に風呂入ろうぜ。そうしたら、思い出すかも」

俺はさり気なくアルシャの手を引っ張り、浴場へと誘った。
抵抗されないのをいい事に、奥のほうへ連れて行くと、一風変わった広い浴槽を見つけた。

薄暗がりの中に、幻想的に青く光るお湯がたまり、下から光光と照らされている。
ここは騎士団なのに、まるで恋人たちの為の卑猥な宿屋のような雰囲気だ。

二人で仲良く隣に座り、温泉を満喫する。
隣で男がどぎまぎしている様子が分かった。

「あの、俺たちどんな事したんだ?」
「手貸して。あの時、お前が俺の体撫でてくれたんだ。こうやって……」

俺の胸に手を当てると、騎士の顔が赤く染まり出した。
よし。嫌悪感を示さないということは、脈がある。

「ああ、気持ちいい、もっと触って」

ぴちゃぴちゃと湯の中で滑らせて、腹の辺りまで持っていく。
すると騎士の手がびくりと強張った。

「うわ、ちょっと、駄目だよ」
「なんで? 俺、お前の手、好きだ。あの時みたいに撫でて……」

思い切って股間に這わせた。
勃起した自らのモノを握らせる。

「ん、んぁ、あぁ」
「駄目だって、こんなこと……君、どうして」
「……は、ぁ……俺の名前呼んでよ、ルニアって言うんだ」

興奮マックスではぁはぁ言いながら告げると、騎士は大きく目を見張らせた。
俺の正体が分かったのだろうか。

「ルニアって、まさかあのすっごい可愛いコウモリ……?」
「そうだよ。いつでも遊びに来いって言ってくれただろ? 俺、お前のこと探して飛び回ってたんだ」

完全に嘘である。
だが悪魔の俺は、自らの三大欲求を満たすためならば、何でもするのだ。

「本当なのか……。る、ルニア……っ!!」

突然アルシャが俺に覆いかぶさるように、抱きついてきた。
腕の中でぎゅうっと力強い抱擁を受ける。

すごい。
急に感情を爆発させた騎士を前に、コウモリ効果の絶大な威力を思い知る。

「信じられない……まさか俺に会うために、人間になってくれたのか?」
「……ああ。実はそうなんだ。どうしても人の姿で触れ合いたくなって」

すらすらと都合の良い言葉が流れ出る。
しかしアルシャはすんなりと納得したように、感動的な面持ちで俺を見つめた。

「なんて健気で愛らしいコウモリなんだ……俺の想像した通りだ。嬉しい……!」
「喜んでもらえて良かった……なあ、もっと触ってくれる? お前の感触、忘れられないんだ」

潤んだ目でお願いすると、騎士の緑色の瞳は、さらにウルウルしていた。
それからは、トントン拍子に事が運んだ。


「あっあっ、気持ちいい、もっと指掻き回してっ」
「ここがいい? ルニア、人間の君も、凄く可愛いね」

俺は浴槽の縁に座った騎士の上に、跨っていた。
尻をぐちゅぐちゅと長い指でいじられ、ゆらゆらと前後に腰を振る。

「んぁぁ、もう、入れて……お前の欲しい!」
「ああ、俺も君と繋がりたい。君の温かい中に、入れるよ?」

すでに確認済みの騎士のチンポは、まさに美形。
色ツヤが良く、長さもあり形もまっすぐ。
もはや全てにおいて天に恵まれた男といえよう!

「あ、あ……すごく狭い。ルニア、俺のが全部入ったよ、感じる?」
「うん、感じる……っ、お前の、いいっ、俺の奥まで、届いてるッ」

騎士は俺の首筋に口を触れさせながら、腰をゆらゆらと揺らし始めた。

「もっと奥まで入れようね。君を気持ちよくしてあげたいから」

耳元で甘い言葉を囁き、優しく抱きしめて律動を行う。
今日会ったばかりだというのに、まるで恋人のように睦まじいセックスだ。

「あぁっ、アルシャ、もう、イッちゃうぅぅ!」
「俺もだ、一緒にいこう、ルニア。大丈夫、俺に任せて」

抱き合う体が激しい動きに変わり、二人の荒い呼吸に包まれる。

「んああああぁぁっっ!!」

ビクビクっと全身が震え、同時に騎士の逸物から吐き出された、大量の精気を食らう。
ああ、甘くてフルーティーな味わい……

この男、精液まで美しいのか!

余韻に浸っていると、騎士が俺の頬を撫でてきた。
おもむろに顔が近づき、口に軽くキスをされる。
突然のことに、俺はらしくもなく固まってしまった。

「……んっ、んぅぅ……」

けれどアルシャは構わず、俺に何度も口づけしてくる。
遠慮がちに入ってきた舌は、やがて中をゆっくりと愛おしげになぞってきた。

「どうしよう? ルニア。俺、こんなことしたら、君のこと好きになっちゃうよ。どうすればいい?」

赤らんだ顔を離し、浅く息づきながら伝えられる。

好きになる?
一瞬、言葉の意図が分からなかった。
交接をしたからには、好意はあるのだろうが。

「だって君は団長のものなんだろう? 本気になっても、つらいだけだ……」

ベリアスの名前を出され、余計に頭が混乱する。
騎士は切なそうに眉を寄せながら、口づけを繰り返した。


俺達はしばらくそこで休み、やがて別れを告げた。
名残惜しそうなアルシャに「また会える? どちらの姿でも、君に会えたら嬉しいな」と言われて。

この騎士の様子はなにか違う。
俺に敵意をもっている従騎士はおいといて、体を可愛がってくれたリーディスとも異なるタイプだ。
交わしたキスは気持ちよかったけれど、ベリアスのように、脳まで痺れてしまう程のものではなかった。

変な感じだ。







男の精気により腹は満たされたというのに、頭がすっきりしないまま部屋へ戻る。
きっとベリアスには俺がいなくなった事で、また怒られるだろう。

素早くコウモリに変化し、ベッド下へと潜り込む。
うつらうつらと過ごしていると、やがて扉の音がして、床が軋むのを感じた。

近くでバサ、バサと服が脱げる音が聞こえ、ベリアスが帰ってきたのだと知る。

「ルニア、いるんだろ。上に来いよ」

信じられない提案に、小さな目をぱちりと開けた。
翼をはためかせ、ベッドの上で横たわるベリアスの胸板に、ぽとんと落ちる。

このまま寝るか。
そう思った時、予期せぬことが起こった。

「なあ、人化しろよ」

投げかけられた声色は冷たい。
怒っているような、感情を押さえ込んだかのような、不思議な音色だ。

俺は人の形を取った。
別に今日の自分が悪いとは思ってない、挑発するように裸になって、同じく全裸のベリアスの太ももに乗る。

深い金色の瞳が、俺を貫くような眼差しで見つめていた。

「お前、まだ俺とヤりたいのか?」
「……ああ。何回もそう言ってるだろ」
「じゃあやってやるよ。そこに寝ろ」

無愛想に言い放ち、自らの隣に視線をやる。

本気か?
この男、やっとやる気になってくれたのか? 

俺は心臓の高鳴りを覚えながら、脇にころんと転がった。
厚い胸板に腕を絡ませ、今か今かと待ち望む。

けれどベリアスは突然上体を起こし、俺をじっくりと見下ろしてきた。

「ルニア。お前には分からないだろうが、セックスっていうのはな、愛し合う者がするんだ。俺は遊びではヤらない。……お前を誰かと共有する気なんて、はなから無いんだよ」



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