▼ 6 店長に抱かれた ※
土曜日の夜、俺はアパートの一階に住む店長のもとへと向かった。
今日は約束した通り、いよいよ店長にこの体を抱いてもらえる日だ。
お仕置きと称した彼の粋な計らいーー長期間のオナ禁のせいで、俺はすでに爆発しそうになっていた。
「あの、店長、俺です」
階段を降りた先にある玄関扉をコンコンしつこく叩く。
しばらくして、中から部屋着姿の店長が出てきた。まだ濡れた黒髪をタオルで拭きながら、俺に会釈をする。
「ああ、ロキ。すみません。たった今シャワーを浴びていたところでーー」
「店長ッ!」
俺は勢い余って彼の厚みのある胸板に抱きついた。
どさくさに紛れ首筋に鼻を当てて爽やかな香りをかすめとる。これも良いが仕事終わりの男の匂いが少し恋しかった。
「準備してくれてたんですか、店長。あの、俺も風呂で入念に洗ってきましたから、もうばっちりです」
興奮を隠せないでいると、彼は一瞬眼鏡ごしの瞳を見開くが、すぐに優しく細めた。
「そうでしたか、ありがとうございます。なんだか……君はすでに発情してしまってるみたいですね?」
品のある笑顔にすごい台詞を言われた気もしたが、俺は即座に頷いた。彼と接していると、一秒も余裕が保てなくなり、一刻も早く身を捧げたくなる。
「はい、しちゃってます! どうしましょう店長」
「ではこちらに。私の寝室にご案内しますね」
廊下を曲がった先の、一番奥にある部屋に連れられる。アパートメント自体が彼の持ち物なのだが、一階は二階にある俺の部屋の数倍もの広さで、お洒落な寝室も入った途端に魅了された。
濃いめの木目のフローリングに、高価そうな木彫りの巨大なベッドがひとつ。
白と茶色の二重カーテンに良い感じに照明が落とされ、なんとも落ち着く雰囲気なのだがムラムラする。
ここでいつも店長が寝起きしているのか……
もうここから出たくない。住んでしまいたい。
邪なことを考えながら、ベッドを見るなり、俺はTシャツと下を脱ぎパンツ一丁になった。
しかし気配を感じ振り向くと、店長が俺の胸元や太股に視線を移している。
しまった、まったく色気がない行動に呆れられたかもしれない。
「す、すみません、俺全然ムードとかなくて」
「いえ。違いますよ。見とれていただけです。……それに私も今日はずっと、楽しみにしていましたから」
優しい店長の言葉に舞い上がる。
自分と同じ気持ちだったとしたら嬉しい、そう浮かれつつ俺はひとまずベッド端に腰を下ろした。
「では私も失礼しますね」
更衣室で盗み見したことはあるが、店長は少し浅黒い肌に似合う、健康的な筋肉質だ。
太い腕とがっしりした腰つきはとくに目を引き、俺と同じく運動歴があると思われる。
「やはり、君の体は隅々まで引き締まっていてきれいですね」
「いやいや、店長こそやばいですよ、何かやってたんですか?」
俺が身を乗り出すと「前の職場がトレーニングを要する仕事だったので」と教えられた。興味を引かれ更に尋ねると警備のようなものだと言われ、驚愕する。
いつもの紳士的な物腰からは想像出来ないが、もしや店長、SPとかだったのか?
妄想を募らせていると、いつの間にか近くに佇み、目を見つめられていた。
眼鏡を外した店長の眼差しに捕まり、ぞくぞくする。
「一週間、一度もしなかったんですか」
「はい。ちゃんと約束守りましたよ。すげえキツかったですけど」
この人の言うことならば、俺は何でも出来る。それを自らに証明できる機会でもあった。
「良い子ですね、ロキ。では今日は、たくさんご褒美をあげなければね」
よしよしされて目を輝かせたのも束の間、店長にキスをされる。下唇をはまれて滑らかに舌が入り込む。
俺にこんな優しい口づけをするのは彼だけで、キスというのはしびれて甘いものなのだと知らせてくれたのも、他ならぬ彼なのだ。
こうして官能的な店長ワールドに誘われると手も足も出なくなる。
唇を塞がれながら下着に手が伸び、自然に取り出されたものを握られる。
「あっ、店長っ」
「……ああ、すごく硬くなっていますね。ガチガチですよ、君の」
ただ形容されただけなのに上下に擦られて追いたてられる。
俺のふぬけた喘ぎだけが漏れ、急速に限界が迫ることに慌てた。
「くっ、あぁ、まずいです、すぐ出ちゃいます!」
だが何を思ったのか、店長は身を屈める。
股間に顔が近づいたときに晴天の霹靂感を味わったが、そのまさかは本当に訪れた。
「初めてなので、上手くはないと思いますが、お許しください」
断りを入れて先端を舐められた。あんなキスをする彼が、下手なわけがない。
壊れものを扱うかのように繊細に舌を動かし、大きな手で包み込みながら愛撫をしてくれている。
それだけでも俺は腰を小刻みに浮かし耐えることしか出来なかったのだが。
「……なっ、あ、あ、むり、無理です店長!!」
温かい口の中に先っぽが含まれた瞬間、俺は反射的に声をあげた。
しかし店長は構わずしゃぶってくれている。絡む舌と吸い上げる口の動きに、俺のちんぽが勝てるはずもない。
「ん、んくっ、でる、出ますからぁ!」
俺は大きく背をのけぞらせ痙攣する自身を店長から遠ざけようとした。
しかし昇天した気持ちよさで一瞬どこで発射したか意識が飛んでしまった。
「はぁ、はぁ、ああ……やばい、すげえ出た……」
「ロキ……」
店長が眉間にシワをよせ若干苦しそうで我に返る。
ありえない。彼の知的でエロいお口が俺の精液で満たされたあと、なんとそのまま、飲ませてしまったようだ。
「すみません店長ッ俺なんてことを!」
「いえ、突然だったもので驚いただけで……ものすごく濃いですね」
苦笑しつつ、舌で唇を舐めとる様子が色っぽく、その感想にもすぐ完勃ちしそうになる。
申し訳なさが押し寄せるのと同時に、本番前に口で飲んでもらえたことに、正直感動を禁じ得なかった。
しかし萎えさせたらまずいと今度は自分がしようとするが、やんわり押し倒されてしまった。
「駄目ですよ、ロキ。大人しくしていてください。今日は私が君を抱くんですから」
真上から真剣な顔で命じられると、ドキドキして何も言えなくなった。
そのまま激しく犯されるのではと密かに期待したのは事実である。だがこれは初Hでそもそも紳士的な店長だ。
初っぱなから色々ハプニングが起きてしまったものの、俺は店長の前に寝そべり、両足を恥ずかしげもなく開帳していた。
いや本当はとてつもなく恥ずかしい。もともと羞恥など、この人の前だから知った感情だ。
「あの、もう十分ほぐれましたから、大丈夫ですよ店長」
「そうですか? では、そろそろ……入れますね」
ちらっと見ると勇ましく勃起している。よかったと思いながらちんぽを押し当てられたとき、感極まり涙が出そうになった。
ああ……とうとう俺は店長に抱かれるのだ。全人生の運を使い果たしたのではと勘ぐるほど、信じがたい奇跡である。
「あ、あぁ、んぁぁ」
ローションでたっぷり濡れたそこにゴムごしの彼のものが入ってくる。
「すごいです、店長…っ」
「……本当ですか、ロキ、……ああ……とても狭いです」
入れてしばらくしたあと、なぜか真上で両手をついたまま動かない。
「どっどうしたんです?」
「いえ……君の中はこれほど気持ちいいものなのかと、驚いてしまいました。すみません、今動きますね」
照れた顔を向けられて俺は全身に熱が回り、快感がびりりと貫いた。
「いかがですか、ロキ」
すごくゆっくりした動作なのに、ペニスが大きく先端がたまに奥に届いてしまうせいでじわじわ攻められる。
「えっーーあ、店長、まっ、……んああぁっっ!」
挿入して浅いところはなんとか耐えたと思ったのに、ちょっとした奥突きですぐに腰が跳ねてしまった。
こんなに早く達した事はなく俺は呆然とした。
「待ってください、もうイッてしまったんですか。非常に締め付けられましたが」
それは責めるものではなく、店長の劣情や興奮、焦燥がにじむ声だった。
俺はきっと真っ赤になり何も答えられなかった。
「君が心配になります。私がこのまま奥を突いてしまっても、大丈夫なのですか…?」
真面目な表情で問われるが彼の腕を掴み、視線で訴えることしか出来ない。
「だ、大丈夫じゃありま、せん」
すでにへろへろで答えた。しかしその後も俺は微妙な緩急をつけてくる硬いペニスをくわえこみ、最初からイキまくってしまった。
「あっ! あぁ! ダメです店長! 激しすぎますって!」
「いえ、ロキ、まだそんなに動かしていませんよ、君のここがうねり過ぎなのです」
冷静にたしなめられるが、とろけたそこにガチガチの肉棒をもどかしく出し入れされていると、理性は崩壊し瞬く間に店長の肉体の支配下に置かれる。
「……はぁ、はぁ、俺、違うんです、いつもはこんなんじゃなくて、あの」
遊び人だったのは事実だが今はそう思われたくない。店長の前では綺麗な自分でいたくなる。
むしろ、過去を恥じるほどだった。なんで俺はくだらない、ただ快楽を発散させる遊びを繰り返してきたんだ。
それほど良いセックスだ。好きな人とするのは初めてで、こんなに特別で素晴らしいものなのかと実感する。
「君は、中もイキやすいんですね。可愛いですね」
彼はベッドの上でも普段と同じく、いやそれ以上に魅力的で、ただただ恥ずかしくなる。
「店長だからですよ、ほんとに」
瞳を伏せて伝えれば「嬉しいです」と頬にキスをされる。
その後も腰を動かされる度喘ぎがとまらない。
「まだ始まったばかりですが、私とのセックスは、悪くないですか?」
「いや最高です店長…っ」
「良かったです。大丈夫ですよ、ロキ。私もすごく気持ちがいいんです。何も心配しないで…」
さながらそれは、優しく包み込むようなスローセックスであり、思いやり、味わわれるような感覚だ。
抱き締められ一回一回の揺らしが丁寧で、こんなところにも店長の実直さが現れていて惚れ直す。
「店長、もう、いきたいです、いかせてください!」
「ええ、どうぞ。イッていいですよ、ロキ」
許可をされて達する。許しを得たいと思ったのは初めてだった。
がんがん突かれるだけがセックスではない。本当の愛の交わりというのは、互いに与えて、与えられるものなのだと思い知った。
「あのーー、一度でいいですから、名前で呼んでくれませんか」
「わ、分かりました。……ヴァルナーさん」
急な申し出に驚いたが、照れながらも勇気を出して呼んでみた。
しかし彼の願いは少し違ったらしい。
「出来れば下の名前でお願いします。……もしかして、知りませんか?」
「もちろん知ってますよ! ……レオシュさん…っ」
「はい。ありがとうございます」
笑顔を見せられてこちらもだらしのない笑みになる。
しかし彼の息はだんだんと上がっていき、体をさらにくっつけられた。抱きしめられる形に鼓動が重なりあう。
「すみません、もうイキそうです、……慣れないことをお願いすべきじゃありませんね」
少し恥ずかしそうに目をふせられてドキリとする。
もしかして本名で呼ばれると嬉しいのか?
でも対する俺は照れすぎて何度も出来ない。普段から店長って呼び慣れちゃってるからだ。
そのあとも合わさった腰を揺さぶられて、店長にもやがて限界が来たようだった。
短い声をもらし「ロキ、出しますね」と言われると俺は全身を使って受け止めたくなり、今まさに最大の願いが叶えられようとしていた。
「……ッ、あ……ぁ、ロキ……出ています」
中で店長のペニスが元気に動くのが分かる。流れ込む精液を感じ取れなかったのは少し残念だが、俺は体を包み込む彼の体温に満たされていた。
「店長も……いっちゃいましたね」
「はい。君の中で、イってしまいました」
素直に照れる仕草に、胸が苦しいほどときめき、あふれだす感情を言葉に出さずにはいられなかった。
「俺、店長が好きです」
やや驚きの顔のあと、柔らかい笑顔で見下ろされる。
「私も君が好きですよ。同じ気持ちです、ロキ」
囁かれた愛の言葉を、全身を使って噛み締めた。
そして彼の熱をおびた唇が重ねられる。
ああ、これってもしかして、それってことか?
だってもう体を繋げられたのだ。
俺がもっと先を求めても、いけるんじゃないかと思うぐらい、その夜は忘れがたい夜として胸に深く刻まれた。
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