店長に抱かれたい | ナノ


▼ 5 出したい

「ああ……店長。今日も格好いいです……」

俺はトイレの個室にこもり、さっきからずっとスマホの待受画面を覗きこんでいた。
そこには制服姿の店長が、カウンターごしにカメラ目線で微笑んでいる姿が映されている。

盗撮ではない。
喫茶店で働きだして1ヶ月ほど経った頃、店内の写真を親に見せたいと話をしてる時にどさくさにまぎれて撮ったやつだ。

息をあげながら股間に手を伸ばそうとする。
オナ禁が三日目に入り、俺はすでに限界を越えそうになっていた。
一日二回しこるのが日課だった自分にとって、店長直々の射精禁止命令は、まさに天国と地獄を交互にもたらしていた。

誰も見てないんだし、一回だけなら……いや何を考えてるんだ、店長との命よりも大切な約束を破るなんて有り得ないだろうーー

そう思った時だった。ドアがバンバンと乱暴に叩かれ一瞬にして殺意が湧く。

「んだよ! 入ってますッ」
「てめえロキ、早く出ろやこのオナニー野郎、こっちは待ってんだよ」

青筋を浮かべた俺が立ち上がり扉を開けると、短い黒髪の男が同じように仏頂面で立ち塞いでいた。
体が分厚く俺よりも背がでかい。ちなみに物凄く粗暴だ。

「なんだ、うん〇か? それは悪かったな。はいどうぞ」
「試験範囲よこせ。ほらよ、これはお前のだ」

男が紙を俺に渡すが、無視してトイレから出た俺は手を洗う。

ここは大学の構内だ。こいつは俺と同じ経営学部に通うクラスメイトなのだが、小さい頃からよく知っている悪友でもある。

「ふふ、俺はそんなもんいらねえ。今期は全部出席してるからな。今日のテストだって完璧だ。まぁお前の分はちゃんと教えてやるから安心しろよ、クレイ」

上から目線でそう言いながらスマホを鞄にしまおうとした。するとがしりと腕を掴まれる。

「それはありがてえが……お前が最近やけに真面目になったのは、その男のおかげか?」

鋭い視線が画像に向かい、俺は反射的に隠そうとするが、奴の力には敵わなかった。
店長の神聖なお姿が、荒くれ者の好奇に晒されてしまう。

「ま、まあな。仕事も住む場所もお世話になってるし、勉強も真面目にやりたいんだよ。そうすりゃ長く働けるだろ?」

クレイが怪訝な目を向けてきた。
俺の淫らな性的指向も含め、昔の荒み様をすべて知る奴には、まるで幼なじみが生まれ変わったように見えるのだろう。

「なあロキ。お前こんな善良そうなおっさんたぶらかして……良心ってもんがねえのかよ」

写真を眺め回したあと嘲笑の混じったため息のようなものを吐かれ、ついぶち切れそうになる。
しかし俺はすぐに言い返せずにいた。

いつも優しく見守ってくれている店長に対して、そんなつもりはない。でも、俺のやってることは……

「好きなんだよ。しょうがねえじゃん」
「……へえ。しおらしいな。きめえ」
「うっせえ! 傷つけんな!」

腹立つあまり奴に蹴りを入れようとしたが避けられた。






昨日の木曜日から一週間、テスト期間ということでバイトは休みを入れていた。
従業員は俺の他にも一人いるため、店もなんとか回りそうだ。

店長に会えないのは拷問のような苦しみだが、朝と夜は住居の共用部分で顔を合わせることができるかもしれない。
希望を胸に、部屋での勉強を終えた俺は、夜10時頃ジョギングに行くことにした。

暇があれば良からぬことを考える。
運動で悶々とした気持ちを発散するのだ。

「はっ、はっ、ハっ」

Tシャツとハーフパンツ姿で近所を一周し、遠くの公園まで走り戻ってきた。
運動は得意だし好きなのだが、禁欲生活と一緒だとつらい。

汗を流してアパートメントの玄関にたどり着く。
すると入り口にちょうど明かりが灯っていた。心臓が跳ね返る。

緊張してドアを開けると、膝丈の薄いコートを羽織った店長が振り返った。

「ロキ。外にいたんですか? お帰りなさい」
「は、はい。今走ってて……ただいま帰りました、店長もお疲れ様です!」

お辞儀をすると、穏やかな微笑みを返された。最後のお客が帰ったため、早めに店を切り上げたのだという。
偶然なのだが会えたことが嬉しかった。

「試験はどうでしたか? いつも頑張っている君ですから、うまくいくように私も応援していますよ」
「ありがとうございます、店長。俺良い点数取ってすぐに戻ってきますから、待っててください!」

大袈裟に宣言すると微笑まれ、つい表情がゆるむ。

向かい合う店長からいい香りがする。フェロモンだろうか。仕事終わりで男性的なムードを醸し出し、近くにいるとさらにクラクラしてくる。
今の俺にとっては劇薬ともいえる刺激物になっていた。

「ロキ? 大丈夫ですか。……疲れていませんか?」
「とんでもないです、むしろ元気すぎちゃって」
「……本当に? 苦しくはないですか」

じっと目を見つめられて答えに窮した。
元々は俺の大失態が原因だが、お仕置きを課した本人として、俺の禁欲状態のことを心配してくれているに違いない。

密かにこの苦行はいつまで続くのだろうと考えてはいたが、何日でも出来ると宣言した手前、店長の許可なしにはどうにもならないのだ。

「えっと、正直苦しいです。店長すげえいい匂いするんで……やばいっす」

興奮しながら訴えると、目を丸くされた。

「そうですか? 不思議なことを言いますね、君は。……では、こちらに来ますか」
「えっ?」

突然腰に手を回された。店長のほうに引寄せられ、ふんわりと腕に抱かれる形になる。
久しぶりに店長に抱き締められて、気を失いそうになるが、すぐに我に返った。

「あ、あの……っ……俺汗だくで汚いですから!」
「そんなことありません、私も君の香り好きですよ。ドキドキします」

店長が鼻先を俺の肩に当てて、ゆっくり首筋をたどる。
力が抜けそうになる一方で、抱き締められた腰ががくがくして、熱が急激に集まって……あっ。だめだ。

俺は真っ赤になって顔が上げられなくなった。
薄いハーフパンツのせいで、店長も気がついただろう。

「……君は反応しやすいですね。まだ何もしていませんよ」
「し、してますよ、くっついてるでしょう。店長意地悪です!」

恥ずかしくなり訴えかけると、くすくすと悪戯な笑みを向けられた。

「申し訳ありません。頑張っている君を見ると、ちょっかいをかけたくなってしまいますね」

そういって頬を撫でて、キスをしてきた。
そこにされたのは初めてで、唇よりも軽いはずなのに、なんというか親愛を示されている気がして、目が眩んだ。

店長は、分かっているのか?
俺に出すなって言ったのはあなたなのに。

色々と爆発しそうになり、俺は我慢できず彼の胸板に抱きついてしまった。

「くちに……口にもしてくれませんか、店長」

懇願して顔を上げると同時に、唇を重ねられる。
軽くついばむような、離れては触れるキスを何度もされた。力が抜けて唇がびりびりする。

「ロキ……可愛い人ですね。我慢出来なくなってしまったんですか?」

店長にその言葉を言われるのは二度目で、俺は夢見心地のまま、喋れなくなった。

「そんなふうに押しつけては……駄目ですよ」

口づけては低い声で囁かれる。俺はもっと腰を密着させて彼の体に掴まった。

「店長、気持ちいいです、もっとしてください」

唇を見てねだると、一度眼鏡を直し、またしてくれた。
しかしちょっとの間のあと、予期せぬことが起きた。店長の手が俺のハーフパンツに伸ばされたのだ。

「見てもいいですか? 少しだけ、チェックしなくてはね」
「……あっ、んぁ、店長!」

上からなぞられたかと思えば、下着の中に手を入れられる。
もう完勃ちしたものを手のひらで包まれて、とろけそうになった。

「ロキ……先が濡れてます。我慢してるんですか」
「はい、出したいです、気持ちいいです……店長の手っ」

隙間からじっくり見られて、大きな手の温かさを感じて。そのまま擦ってほしくてたまらなくなった。

でも店長は俺が思ったよりももっと厳しくて、約束を守る人だった。
下着の中から手を引いて、再び服をきちんと整えられる。

そんな……イかせてもらえると思ったのに。
がちがちのちんぽの行き場がなくなり、涙が出そうになる。

「まだダメですよ。明日の試験が終わるまで、我慢です。あと一日だけ……出来ますか?」

浅い呼吸が止まらないまま、考えた俺は、静かに頭を頷かせた。

「そしたら触ってくれるんですか、店長、約束してください……っ」
「ええ。触ってあげますよ。そんな泣きそうな顔をしないで、ロキ。私も興奮してしまいますから……。では明日、私の部屋で続きをしましょうね」

店長は優しくそう伝えると、あやすように俺のことをまた抱きしめた。



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