店長に抱かれたい | ナノ


▼ 32 新しいバイト

「あー、いいバイトねえなぁ。どうすっかなぁ……」

大学の食堂で飯を食いながら、俺は片手に握ったスマホのページをぱらぱらめくっていた。
隣の悪友クレイが肩をぐいっと引いてきて、画面を覗きこんでくる。

「ああ? お前何探してんだよ。あんだけ大騒ぎしておいてまさかもうおっさん捨てる気か。可哀想になぁ、ありえねえ」
「違えよ! んなわけねえだろうッ。俺は今短期バイト探してんだよ、手っ取り早く稼ぎたくてな」

目を血走らせて言うが全く合う求人がない。今の俺はすでに喫茶店のシフトが少なくとも週四で埋まっているという事情もあるのだが。

なんで金が必要なんだと親友に問われ、俺は口ごもる。
そもそも自分は浪費癖もないし、バイト代は生活費と学費の一部に当てている。

アパートの家賃だって、入った当初に「少しでも学生の君を応援したい」と言われ施設管理費だけでいいと優しい店長が申し出てくれたのだ。
だから俺はありがたいことに今日まで住み込みで働くことが出来ていた。

けれど、最近ある事を思いついた。

「ほお。おっさんのプレゼントかよ。そんな乙女チックな思考にやられやがって、てめえも変わったもんだなロキ。でもなんでわざわざ……お前貯金ねえのか」
「いやあるけどさ、考えてみたらそれ店長のお店から払われたお金だろ? だからなんか違うんじゃねえかと思ってな…」

真剣に話すと「別に違いねえだろ」とクレイには呆れられた。
しかし俺は、今回初めて彼に特別なものを贈りたいと思っていたのだ。

もちろんレオシュさんには秘密だし、喫茶店の従業員も変わらず真面目に続けたいと思っている。

「そうかよ。……ったくしょうがねえな。じゃあ俺がいいバイト紹介してやるわ」
「えっ? マジか! どれどれ? お前怪しげなもん寄越すんじゃねーぞ」

偉そうに言うと頭を小突かれる。学生達で賑わう食堂で奴の携帯の画面を見せられた。
そこには建設会社のホームページと現場らしき写真が映されている。

「ええっ、建設業かよ。肉体労働か。あー骨が折れそう。他にねえの?」
「あるが簡単なほうは俺がやるからお前はこっちな。両方とも知り合いから手伝ってくれって話きててよ、どうしようかと思ってたから助かったわ。わりぃな、ロキ」

黒髪短髪の俺より体格のよい男がにやりと笑う。「おい簡単なほう俺にくれよ!」と文句を言ったがそれはバーでの仕事なのだそうだ。

バーテンかと思ったらドア前で立っている屈強なガード役らしい。こいつにはぴったりだ。一応俺もバーテンなら昔やったことはあるんだが。
でも店での仕事と時間も被るだろうし仕方がない。

結局知り合いの紹介という手軽さもあり、時間も好きな時でいいというほど人手が欲しいらしく、頼むことにした。

さて問題は、どうやってレオシュさんに言おうかということだ。



俺はさっそくその日の夜のバイトが終わった時に、控え室に来た店長に話しかけた。
すごく緊張したが、大事な目的を思い出して勇気を出す。
俺が彼に近々短期のバイトをすることを伝えると、彼はすごく驚いていた。

「……えっ。そうなんですか、ロキ。主に週末に?」
「あ、はいっ。一ヶ月ちょっとぐらいでそんな長くはないんですが。……でも、すみません、せっかくレオシュさんと楽しく過ごせる時間が、その間減ってしまって…」

自分で決めたことだが、言いながら地獄のようだとどんよりしてくる。

「そうですか……もちろん、君が決めたことならば私も影ながら応援しています。……けれどあの、この前の話も関係ありますか? もし君が必要だったら、シフトを増やしたり、私に出来ることならーー」

彼は本当に優しくて、その切実な瞳から俺の変化を気にしてくれているとすぐに分かった。
確かにいきなりこんな事を言い出すのは、何がなんでも彼にいつもくっついていた俺っぽくないからだ。

レオシュさんによからぬ心配をかけたくない。変にすれ違うのも嫌だ。
そう考えた俺は恥を忍んで口を開いた。

「ありがとうございます、店長。でも大丈夫です。正直に言うとですね、ちょっと欲しいものがありまして。でも目処がついたらすぱっと戻ってきますんで心配しないでくださいね。トラブルや借金などでは決してありませんからねっ」

必死に身ぶり手振りで説明すると、彼が俺を少し切なそうに見つめる。でもしっかりと「はい」と頷いてくれた。俺の気持ちを一瞬ですべて汲み取ってくれたようだ。

それだけではなく、なぜか頭の上に手を乗せて優しく撫でられた。
色々な思いがつのり感極まった俺は、彼の制服の胴に抱きついた。
レオシュさんの腕が背に回され、またよしよしをされる。

「店長ぉっ……自分で言い出したのにもう寂しいですっ。バカですみませんっ。週末遅くなるかもしれませんが絶対にレオシュさんのベッドに潜り込みますからぁ!」
「はい、ロキ。待ってますよ。大丈夫です。泣かないで」

逆に慰められ俺は大袈裟でなく目が潤んだ。
たかがバイトと思うかもしれない。でもほんとの理由を内緒にしているのは中々苦しかった。

「でも本当に、無理はしないでくださいね。何かあったら、必ず私に言うんですよ、ロキ」

珍しく強めに主張する店長を愛しいと思いながら、「はい…!」と返事をした俺はしばらく彼の腕に抱かれていた。
 




それから一ヶ月ほど、俺は週末を中心に肉体労働に費やした。
主に商業施設の敷地整備などで、かなりきつい仕事だ。
スポーツや体を動かすことには自信のあった俺だが、ものを運んだり重機を使ったりするのは足腰にくる。

大学の講義を受けながら喫茶店と両立していて、一番しんどいのは睡眠不足だった。

「ふあ、ぁ……」

喫茶店のカウンター内でグラスを並べながら、ついあくびが止まらない。しかし隣から店長の香りが漂うと、覚醒したように背筋がぴんとなる。

「ロキ。大丈夫ですか、疲れていませんか。……ああ、目に隈が…」

そっと頬に手を伸ばされ、主に下半身が反応しそうになる。
彼とは毎日同じベッドで寝ていたが、気を使われているのだろうか。セックスの回数が減ってしまっている。

もしかしたら疲れがとれないのはそれも原因かもしれないと逆説的に考えた。
まあ最近は泥のように眠っている自分が悪い。

「店長……俺もっと自分が体力あると思ってました…」
「十分に体力ありますよ、ロキは。でもやはり心配ですね。……ここまで君を駆り立てるものとは、一体何なのでしょうか」

切なげに見つめられ、それはあなたですとつい白状したくなる。
だが俺は夜まで、また彼の胸にくっついて眠れる瞬間まで、我慢をした。



週末、建設現場から帰ってきた俺はひっそりと店長のいるベッドに入り込む。
最初のうちは彼は起きて待っててくれたのだが、悪いから寝てくださいとお願いした。

俺の側に体を向けて横たわっているレオシュさんに、近寄る。
疲れのせいもあり遠慮せずに彼の胸元にもぐると、ふと持ち上がった腕に抱きとめられた。

「起こしちゃいましたか、店長。ごめんなさい」
「ん……いいえ……おいで、ロキ」

優しく言われて俺は目をひんむく。
寝ぼけているのだろうか、彼のフランクな口調に激しく萌えた。

温もりを求めて横になったまま抱き合う。
ああ、最高の瞬間だ。このために生きているとも思った。

店長の口元が俺の髪から耳へ、首へと触れていき、ビクンと反応した。

「お風呂入ったんですね、体が温かいです」
「……は、はい。あっ……レオシュさん…っ」

ぎゅっと抱きしめられ、俺の股間はガチガチになってしまった。
彼の仕草や息づかいに我慢できなくなり、口を開こうとしたが、セックスだけ求めるのは都合がいい気がして言えなかった。

でも俺のことをもう熟知している彼が気づかないはずもない。

「ロキ。最近、いつ自分でしましたか」
「え! えぇ! あの、忙しくて、あんまりーー」
「きちんと抜かないとだめですよ。ほら、こんなになって…」

しっかりと抱きかかえながら、前に手のひらを持ってきて優しく触ってくれる。
俺はもう爆発しそうで、思わず彼の首に腕をまわし、自分から口を押しつけた。

「ん、ん……店長」
「ロキ……」

向かい合わせになった彼も少しずつ口を開けて、舌を絡ませてくれる。
しばらく暗闇で口づけを交わしていると、じっとレオシュさんに見つめられた。

「ロキ。君はがんばり屋さんですね。とても誇らしいです」

優しい声にほめられながらまたキスをされ、嬉しくてとけそうだ。
すると彼は一転してもどかしげな表情になり、俺の頬を指でたどった。

「そんな君にわがままを言う私を、許してくれますか」

彼の言葉がなんだろうと思い、俺はドキドキしながら何度も頷いた。

「君を抱きたいです、ロキ。眠っている君がとてもいとおしくて、起こしたくないのですが、私の手で愛したいという思いも、抑えられなくて……」

体が密着し信じられない言葉が降り注ぐ。俺は赤面したまま口をぱくぱく開けた。
レオシュさんにその口をちゅっと塞がれ、さらに色気のにじむ眼差しに囚われる。

「抱いてもいいですか?」
「……はいっ、いつでも抱いてください、俺はあなたのなんですから」

やっとのことで返事をすると、耳にキスをされる。
そんなとこを責められて下半身を思わずこすりつける。

互いの服を早く脱がせたくて、絡み合いながら愛撫を受ける。
首に痕がつきそうなほど甘く吸われて、レオシュさんの興奮がぞくぞくと伝わる。

「愛していますよ、ロキ」

やがて裸になり交わりながら、甘い囁きが俺の耳に落ちる。
こんなタイミングで言ってくる彼の強い気持ちが伝わる。

俺はずっと彼に励まされて、勇気づけられてきたが、もしかしたら彼にも寂しい思いをさせていたのかもしれない。

「あっ、あ、んぁ、レオシュさんっ、俺もです、愛してます…っ」

繋がった状態であふれる思いを交わし合う。
ベッドが久しぶりにぎしぎしと揺れ、なぜこんなにも彼との触れ合いを我慢できていたのかと、不思議に思った。



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