店長に抱かれたい | ナノ


▼ 2 拝めた

俺の性癖がバレてしまってから、一週間が過ぎた。
仕事場の喫茶店でも、たまに家で顔を合わせる時も、店長はいつものように優しく接してくれている。

俺に絡んできた男は店に来なくなったし、客足も変わらず、とくに店の評判も悪くなっていない。
だが俺の頭の中は、それに対する安堵感以上に、店長の事で占められていた。

あの日以来、妄想の中で恋人同士になった俺達は、さらに幅広いプレイを繰り広げている。
幸せではあるが、現実とのギャップに苦しみ、さらに清廉な店長を汚し続けることに、俺は深い負い目を感じるようになっていた。

「ロキ、お疲れ様です」
「お、お疲れ様です、店長!」

バイト先の控え室で着替えようと、制服のベストに手をかけた時。
珍しく店長が姿を現した。

「君に聞きたいことがあるのですが。あの……最近、私のことを避けていませんか?」

まっすぐに俺の目を見てきて、言葉が引っ込んでしまう。
図星なせいで反応出来ずにいると、店長は眼鏡をそっと手で直した。

「嫌でしたか、あのときのこと。勝手に話を作ってしまい、すみません。……どうしても、あの男に絡まれている君を、放っておけなかったのです」

心苦しそうに話されて焦った俺は、すぐに顔を上げた。

「嫌なんてこと、あり得ません。ありがとうございます、店長。……俺はその、合わせる顔がないというか……あいつが言ってたことは、本当のことなんですよ」

もう、黙っていられなかった。
こうして俺の身を案じてくれる誠実な店長に、自分の汚れた思いをさらけ出さずにはいられなくなっていた。

全てを白状して、すっきりと店を辞めよう。
これ以上邪な思いを持ち続けたら、俺は自分でも何をするか分からなくなる。

何より大切だと思っている人に対して、失礼だ。

「店長が好きなんです。不快に感じたら、すみません……。店長の好意を利用して、俺は、本当はふしだらな奴なんです」

こんなデカい図体の男が、話していて徐々に情けなくなり、心の中で泣きたくなる。

「恋人のふりしてくれた時、すげえ嬉しかったです。一生の思い出にします、ありがとうございました、店長」

深く頭を下げ、そのまま身を切られる思いで店を出ていこうとした。

「ちょっと待ってください、どこへ行くんですか」
「……あっ。すみません。残りの仕事は全うします。でも、出来るだけ早いうちに出てくので…」
「そんな事を言わないでください、ロキ。君のその、性的指向のことは知っていました。だから、気にすることはありませんよ」

肩に手を置かれ、遠慮がちながらも明かされた言葉に、衝撃が走る。

「え!? 嘘でしょ、いつからですか?」
「それは……」

動揺のあまり素で問いただすと、店長が口ごもった。
その間が恐ろしく、血の気がさらに引いていく。

「最初はまさかとも思いましたが……私の部屋は君の部屋の、真下なんですよ。だからよく朝や夜に声が響いて……私の名を叫んでませんでしたか」

赤くなる店長に、俺は爆発しそうになった。

店長は話してくれた。俺の行為の様子を聞いているのが恥ずかしくなり、その都度シャワーを浴びに行っていたこと。
それとなく気づかせようとしたが、難しかったこと。

俺は、バカだ。

「じゃあもう、俺、ほんとにヤバイ奴ですよね。すみませんほんと、聞き苦しいことを何度も……」
「いえ、大丈夫ですよ。君のことは好きですし、嫌悪感もありません。ただ、こちらが申し訳ない気持ちになります」

す、好き?
今好きと言われたのか。
あの、憧れの店長に…!!

「な、なんで申し訳ないんですか」
「親子ほど年が離れてますし、なぜ君が私にそういう感情を抱くのか、不思議でたまらないのですよ」

腕を組み、店長がつらつらと語り始める。

「君は魅力的な男性です。若いし、ハツラツとしていて、よく気がきいてとても優しい子だ。モテるでしょう、ロキ」

柔らかく微笑まれて、俺は一度反省し身を引こうと思ったのに、もう我慢ができない。

「店長、そんなこと言わないでください、突き放してくださいよ、じゃないと俺、いつか店長のこと襲いますよ」

今度こそこっぴどく振ってほしいと、身勝手な思いで詰め寄った。
俺と体格の変わらない体を後ろの壁に押し付け、ぐっと腰を迫らせる。

少し下にある目線をまっすぐ捉えると、思慮深い顔つきの店長に、思いがけない言葉を返された。

「襲う、のですか。しかし、君のことは好きですが、私はストレートなのでおそらく反応しないかと……」
「いや、勃ってますよ店長」
「え?」

感じたままを告げると、初めて恥ずかしそうな顔をされた。
眉間に皺を寄せ、目を伏せている。

「すみません。あまり、見ないでください」
「つまり、この状況に、俺に興奮してくれてるってことですよね?」

鼓動を高鳴らせながら、あり得ない展開に期待を抑えきれなくなる。

「そうかもしれません。君の体は惚れ惚れするほど、美しいですからね」

素直なのか大人の余裕でからかっているのか、ガキの俺には見当もつかない。
歯がゆい思いで店長の手を取り、自分の胸に持ってくる。

「触ってみますか。嫌ですか…?」
「……嫌などと…」

控えめに、試すような指先が、シャツ越しの胸に食い込む。
張りつめた股間がきつくてしょうがない。

「あ、ああ、店長」
「……私は童貞ではないんですよ、ロキ。男性を抱いたことはありませんが」

息づく俺を、じわりと真剣な眼差しが捉える。
俺には分かる、これが欲情した店長の顔つきなのだと。

「君は随分と経験豊富なんですね。どういうわけか、その事実が私の胸にズシンと響いてきます」

シャツの襟に手を伸ばされ、ごつごつした指で首もとに触れられた。

「そういう少し怯えた顔をされると、どうしていいか、分からなくなりますね」 

ゆっくりと間近で見つめられたかと思うとーー突然、口づけをされた。
重ねていた唇を離され、呆然と口が開いたままになる。

「て、店長……なんで…」
「目が潤んでますよ、ロキ。私にキスされるのは嫌ですか?」

未だぼうっとしながらも、首を強く横に振った。

「嫌じゃない。してほしいです、もっと」

店長はほっとしたようにまた微笑みを浮かべ、少し体を寄せてきた。

「じゃあしてあげましょうね……君の可愛いらしい口に」

俺の腰に手を添えると、少しずつ角度を変え、深く味わってくる。
うまい。大人の男の経験の深さを思い知る。

キスだけでとろけてしまい、身も心も急速に満ち足りていった。

「あの…もう、いいですから…」
「駄目ですよ、時間をかけないと」
「俺、帰ります」

苦し紛れに告げると、目を丸くされた。
俺は必死に交わる視線をかわそうとする。

「私は何か失礼を? 怖くなりましたか、ロキ」
「違いますよ、もう、我慢できません。早く抜かないと、俺死ぬ…」

口走った矢先、前からぎゅうっと抱き締められた。
唖然として思わず体が強張る。

「ど、どうしたんですか店長、いきなり」
「すみません。君が可愛くなってしまって、つい……」

頭が真っ白になった。
これは……一体さっきから何が起きているのか、意味が分からない。

「どうしたいのですか、私に言ってください。さあ、遠慮しないで」

なんでそんな優しい顔で、甘い声で、俺に問いかけてくるんだ。
キスしたりハグしたり、俺はもう己の本能を、抑えられなくなるーー

「店長のしゃぶりたいです」

気がつくと俺は本音を漏らしていた。

「君は……ほんとうに変態なんですね。てっきり抜いてほしいと言われるだけなのかと、思ってましたよ」

くく、と笑っている。
軽く罵りを受けたこともだが、真面目な店長から抜くという言葉を聞いただけで、めまいが襲う。

「見てもいいですか?」
「……参りましたね。どうぞ」

やや開かれた膝の間に跪く。
あれほど夢に見た、店長のーー。

店の前掛けを横にずらし、ズボンの上から揉んでみると、硬い。

「期待に添えなかったら、申し訳ありません」

控えめに告げる店長だが、完全に謙遜だった。
ジッパーを下ろし現れたその、長さも太さもかなり立派な逸物に、震えが起こる。

咥えると吐息が聞こえた。

「ああ……従業員にこんなことをさせるなんて、私は、経営者失格ですね…」
「店長……っ……ん、ぐ……」

頭上から店長の台詞を聞きながら、興奮しすぎて、口を動かすのが止まらない。

「すごく硬くて、大きいっす、店長の」
「久しぶりなんですよ。それに、君の口はとても……気持ちがいいから」

床に膝をついた俺は、自分のを触りながら、丹念にしゃぶる。
先端や筋に舌を絡ませ、ときおり吸い上げていった。

「……くっ、ロキ、もう出てしまいます。離してください」

肩に手を置かれ、頭の芯まで熱くなりながら、そっと離した。

「店長、口に出してください」
「……駄目ですよ、そんなこと。君にさせられません」
「でも、飲みたいです、店長の……お願いします」

切実とした思いで告げると、困惑した顔を向けられる。

「ロキ。君はどれだけ淫乱なんですか? 男のものを飲みたいなんて、言っては駄目です」

厳しい口調にどきりとする。

いん、淫乱て言われた。店長に。
すでに一生分の思い出が出来たと胸がじんとなる。

「店長のがいいんですよ、他の奴にはしません」
「……困った人ですね、君は…」

髪を優しく触られた。肌がぞわっと粟立ち、期待に身がすくむ。
黙っている店長から許可を得たのだと考え、また口に含んだ。

「……そうやって、自分のも触るのは、気持ちいいですか?」

夢中で頬張りながら、何度もうなずく。

「……ああ、……っは、あ……ロキ……」

俺のことを呼びながら、店長が腰をしならせる。なんて色っぽいんだ。
目が合うと、口内だけでなく、視線でも犯されている気になる。

張り詰めるのに比例して、興奮が増していく様子が分かる。

「君が言い出したんですよ、全て、綺麗に飲まなければ、ね」

やがて、ドクドクと喉に注ぎ込まれた。
少し苦味のある、雄の味だ。
与えられた店長の精液を、熱くなった喉元で飲み干す。

「ん、んんっ………は、あぁ……だ、だめだ…ッ」

好きな人の射精を受け止めた後、自身を握っていた手の勢いが増す。

「あ、あ、店長、俺、いく、イキます」
「……そんなふうに座り込んだままで、達するのですか?」
「は、はい、…ぅあ、もう、でるっ」
「ですが、制服にかかってしまいますよ。ほら、立ってください」

脇に腕を回され、抱き抱えられた。
店長は俺を後ろの机の上に押し倒す。
そして握っていた俺の手の甲を、自らの手で覆った。

「あ、っああ、なっ、店長!」
「一緒にしましょうか。私のを気持ちよくしてくれたお礼です」
「んあ、あ、店長、だめです、俺、このまま出る…から!」
「お腹に出してしまうんですか? 本当にやらしいですね、君は……」

腰を押し付けられ、見下ろされる。
そして、再びそっと唇を重ねられた。
その瞬間、びくんびくんと腰が痙攣した。
少しも我慢が出来なかったのだ。

「んっ、ふ、んんっ、……店長、ああっ、イ、イク……ッ」

俺が達すると、二人の荒い息遣いが控え室に響き渡った。

「すごい量ですね。一度にこれだけ出すとは……さすが若者です」
「……う、うぅ……すみません、店長…」

机に背を預けたまま、胸で呼吸をする。
まだ互いの体が近くて、どこを見ればいいか分からない。

「なぜ恥ずかしそうな顔をするのです。あれだけのことをしておいて」

ふと店長に顔をのぞきこまれる。
俺は今さら、何てことをしたのかと我にかえった。

「す、すみません。本当に……俺は、やっぱりもう…クビですよね」
「どうしてですか? 辞めたいのですか、ロキ」
「そんな、辞めたいわけないでしょう、俺は、店長が好きなんですよ。離れたくないんです」

店長はにこりと笑って、腕を捲った。
俺の出した精液を綺麗に拭いとってくれている。

「じゃあ辞めないでください。君の好きなだけ、ここにいてください。私も君が好きなんですよ、ロキ」

優しく自然に告げられる。
自分の思いとは勿論違うのだろうが、そう言ってもらえたことに目頭が熱くなる。

「こんなことをしてもですか…?」
「ええ、そうです」
「俺が変態だって、分かってからもですか」

堪えきれず踏み込むと、少し考えた顔をされた。

「私も同じことをしてしまいましたからね。もう君のことを強く言えませんよ」
「いや、強く言っていいですよ、そういう店長も、見てみたいっす。激しく俺を組伏せたりとか、全然ーー」
「ロキ。調子に乗ってはいけません。……まったく君は、こんなに立派な体つきをしているのに……やはり、いけない子ですね」

苦笑した店長に呆れられた。
しかし俺は懲りることなく、ずっと秘めていた思いを、喜びを、もはや隠すことはできなかった。



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