店長に抱かれたい | ナノ


▼ 27 未来図

旅行から帰ってきて、まだ彼のお父さんのこととか色々な懸念はあったものの、ひとまず俺達は平穏な日々を過ごしていた。

「あーレオシュさん、早く帰ってこねえかな……」

俺はアパートメント一階の彼のお部屋でソファに寝転がり、テレビをつけながら待っていた。不法侵入ではなく、合鍵を駆使して遅めの夜ご飯まで準備した。

すると店が終わった午後11時頃に店長が帰宅した。

「ただいま、ロキ。おや、いい香りがしますね」
「……う、おぉッ店長! おかえりなさい!」

俺はだらしなく出ていた腹筋をしまい、慌てて体勢を整えた。
立ち上がり彼のもとへ向かうと、広い腕に抱きしめられる。

「そのままくつろいでいていいんですよ」
「えっ、でも恥ずかしいっすから」

調子よく抱擁は味わいながら言うと、眼鏡越しの瞳がまばたきをした。

「そうですか? どうぞかしこまらずに。ここはもう半分君の家なんですから」
「……え! まじすかっ」
「はい、もちろん」

レオシュさん、微笑みが眩しいが意味が分かってるのだろうか。
それってもう半同棲してるようなもんだよな。
今の流れだってまるで新婚さんみたいだしな。俺勘違いするぞ。

ハッピーすぎる気分に浸りながら、俺達はその後一緒に夕食を取った。広い居間の食卓に夜の照明が灯り、仲良くスプーンが進む。

「とても美味しいです、ロキ。ありがとう。ああ…こういうのが幸せなんですね」
「ははっ。本当ですか。やべえ嬉しすぎる。ただのカレーなんですけども愛情は満杯ですからね」

褒められて俺は椅子にもたれ、早くも夢うつつになってしまった。

「レオシュさんと毎日こう出来たらなぁ……それは無理でも毎日一緒に寝起き出来たらなぁ…………」
「……あの、ロキ? それは独り言ですか」

突然突っ込まれて我に返った。どうやら飛んでいたようだ。
焦って茶髪を掻き「ただの貪欲な願望です」と説明する。

しかし彼はじっとこちらを見てきた。その偽りのない瞳を向けられると俺は弱い。

「実は私も……そう思うことがあります。君はまだ学生ですし、節度のある生活を送れるように、本来私が支えるべきだとは考えているのですが…」

彼が紡ぐ言葉に俺はごくりと喉を鳴らす。

「やはり、こうして君と食事を共にするのは素晴らしいです。それに特に……朝起きたときに君がそばにいないと、寂しく感じるんですよね」

照れたように笑い、眼鏡を指で直すレオシュさんが愛しい。
愛しすぎてどうにかなりそうだった。

「俺も寂しいです。もう毎日枕を濡らして目覚めてます」
「えっ? 本当ですか?」
「そんなにあなたに恋焦がれているという意味です」

手を握らんばかりの勢いで伝える。
店長は少し考える様子で、端正な顔立ちに似合う男らしい顎髭を触った。

「でも、君はその、私といてリラックスできますか」
「勿論できますよ、あなたより早く起きたことないでしょう」

前のめりで同意してなんとか進展を目論む。
すると彼はくすくすと朗らかな笑みを見せてくれた。

もしかして。これはマジで始まってしまうのか。
俺と店長のさらに一段上の甘々ライフがーー。

「ロキ」
「はい!」
「君さえよければ…」
「全面的にオーケーです!」
「そうですか。嬉しいです。では……私と、これから夜も同じベットで過ごして頂けますか?」

はにかむ店長の提案は俺にとっては、言葉以上の意味を持っていた。即座に「よろしくお願いします!」と返事をした俺は、なんとその日から、彼の寝室でほとんど毎日一緒に眠るという幸福の頂点が約束された。


俺は大学があってレオシュさんはお店が忙しいし、バイト以外で会える時間はそれほど長くはなかったのだが、寝るときに一緒にいられるというのは、めちゃくちゃテンションが上がった。

いや上がっただけではなく、彼にのみ与えられる温かな安心感をさらに実感した。

「あー……幸せすぎて怖いぜ」

大好きな店長のレアな寝顔も見れたし、もう思い残すことはないとすら思った。

しかし、気になることが発生する。
一緒の時間が増えたから気づいたことなのだが。 

店の定休日のある日のことだ。外の天気も悪く、一日家でゆっくりしようというチャンスが訪れた。
映画を見たり、スポーツ中継を楽しんだりと共通の趣味もあって楽しく過ごせていた。

「君のおすすめの映画、とても面白かったですね。一人でコメディはあまり見ないので、すごく新鮮でしたよ」
「本当ですか、よかったっす〜」
「でも君は二回目でしたけど楽しめましたか?」
「はいもちろん、何回リピートしても笑えますから」

胸を張って答えるがほぼ内容は無視しずっとさりげなく彼を観察していた。初めて爆笑する姿が見れるのでは…とドキドキしていたのだ。

ちなみに下品なやつはまだ怖かったため無難なやつにしておいた。
レオシュさんは何度も笑っていたが、大きくても「ふふっ」とか「ははっ」とか凄く紳士的に格好よく笑いをもらしていた。

その姿だけでも満足なのだが、うーん。まだ笑いが足りなかっただろうか。
俺はわがままにも家でしか見れない無防備な姿をたくさん見たくなっていた。


こうしてテレビを見ているときも彼は姿勢が正しく、居間や台所にいるときの立ち姿も、何をしてても所作が美しい。
仕事場よりも黒髪は無造作にくずされているが、色気がむんむんで逆に興奮を誘う。

服装だってあまり気を使わない俺とは違い、ボタンをきちんと締めたシャツ姿でいつも洗練されている。

気の抜いた姿がまるで見えない。
なんだか心配になってきた。もしかして、休めてないのでは?

店長は仕事柄というだけでなく常に丁寧だし、気遣いもスマートだし、逆に俺いてもいいのだろうか。

「レオシュさん、お風呂お先いただきました」
「はい。おかえりなさい」

共用部にある浴室から帰ると、彼は食卓の椅子に足を組んで座り、雑誌を開いていたようだった。
微笑まれ、様になるその姿に見とれる一方で、俺は彼に近づいていく。

「店長、あのーー」
「……ん? あれ、ロキ。まだ髪から水が……」
「あっ、すみません! きれいな床に垂れてる!」

俺が慌てて頭にタオルを被せると、彼は優しく手招きをした。
促されて椅子に座る。なんと後ろでレオシュさんの優しい手がタオルで乾かしてくれるという。

「ああ〜なんだこのご褒美プレイ……急いで出てきてよかったなぁ」
「そんなに急いだんですか。確かに10分ぐらいしかかかってませんでしたね。ちゃんと洗えましたか、ロキ」
「はい洗えましたっ。…だって時間がもったいないですから。レオシュさんと一緒にいたいですし」

頬をかいて呟くと、後ろの店長がすくっと立ち上がった。
あれ、もう終わったのか。
残念だと思った俺の顎にそっと指が添えられ、真上を向かせられる。

ちゅっと逆さまの方向で彼からキスをされ、硬直した首がみるみるうちに熱を吹き出しそうになる。

「んっ、んんー! なっ、店長っ、そんなロマンチックなことを不意打ちでっ」
「すみません。一刻もはやくキスしたくなりまして」

首痛めてませんか?となだめるように撫でられて下半身がびくつく。
まったくこの人は。穏やかかと思えば突然攻めてくるのだ。

「は、はあ。また濡れちゃいそうですよ」
「え? せっかく乾かしたんですよ、ロキ」

下ネタ混じりに振り向くと、いつもの余裕の笑みがあった。
ああ、油断してしまうのは俺のほうだと思った。



いよいよ夜がやってくる。
明日は平日だし、俺とレオシュさんはそれほど遅くない時間に共にベッドに入った。
眠る前の暗闇で、少し会話が出来るのも実に最高の一時だ。

俺は眼鏡をはずして横たわるレオシュさんを見ながら、あることを口にした。

「店長、俺ほんとに邪魔になってませんか。もっとだらしない格好したり、お腹かいたりしてもいいんですよ。俺がいたらゴロゴロも出来ないんじゃないですか」

そんな姿は想像つかないが、心配して尋ねてみる。
だがその懸念は逆に彼を驚かせた様子だった。

「大丈夫です、私はいつも通りですよ。まったく無理していません。それどころか、リラックスしすぎて君にがっかりされたらどうしようかと……」

ええ!
俺は心底仰天したのだが、レオシュさんはあの状態が平常だったようだ。きっと俺とは元々の性質や育ちもまるで違うのかもしれない。

納得しつつも「でもほんとに好きなことしてくださいよ」としつこくせがむと、考えた風の彼はあることを申し出た。

「ではその、時々、こうしたりしてもいいですか」

何を思ったか、突然彼が距離を詰めてきた。
俺は窓側を向き、寝ている状態で後ろから腰に腕を回される。

こ、これは……。ぴったり密着されてまさに恋人のイチャイチャ体勢なのでは。

「レオシュさん? こんなことしたかったんですか」
「はい。でもガタイの大きな男に、しかも年長者にされて気分がよいのかどうか、分からなくて」

彼の迷った声に続き、「もちろん君にされるのは大歓迎なのですが」と嬉しいことも言われた。

まさか店長、くっついて寝るのとか好きだったのか。
今まで寄り添ってはいたものの、俺も遠慮して若干距離は取っていたから驚いた。

「なんだ……最高に気持ちいいですよ。もっとべたべたしてください!」
「ありがとうございます、ロキ。安心しました。暑くないですか?」
「いや暑いの好きです。知ってるでしょう店長」
「はい、知ってます」

笑いのまじった会話が楽しくて、俺は寝る前に素敵すぎるシチュエーションに襲われていた。

しかし優しく抱えられ、寝るどころじゃなくひとり悶々としてくる。
その上彼は、少し体を起こして、キスまでしてきた。
おやすみの挨拶だと最初は思ったものの、だんだん深くなっていく。 

「んぅっ、んっ」
「……すみません、深くなってしまいました」

謝りながらしっとり行われる口づけに、俺は涙目だった。

「レオシュさんっ…どうしてくれるんですか、今日は我慢デーにしようと思ってたのに勃っちゃいましたよ!」

寝返りを打ち仰向けになって、彼の胸元をつかみ訴えた。
あっ……太い首もとが近くてセクシーでマジでくらくらする。

節度は保とうともちろん毎日求めるつもりはなかったが。
くっつかれるとやばい。さっきまで腰に当たっていた彼の存在感を思い出す。

「申し訳ありません、私のせいです、ロキ。今日しましょうか」
「……はいっ、お願いします…!」
 
すぐに顔色を明るくした単純な俺は、すぐに誓いを破り彼の分厚い胸板に覆われた。

結局その日は仲良くセックスをしてようやく眠りについたのだった。
本当に、こんな日々が永遠に続けばいいと、俺はひたすら考えていた。



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